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図書館イベントEast End【AS08】関連情報

◆企画イベント「極東轟嵐」

「台湾は、国家としての機能をほぼ失ってしまいました」
 秋葉原支部に駆けつけてきた聖戦機関の職員の言葉は、SINN達を慄かせるのに十分だった。
 理由は語るまでもないだろう。
 台湾全土を覆い尽くす黒雲と、降り注ぐ大雨による水害であった。
 そして今、雨はSINN達が滞在している、ここ日本でも、その勢いを増しつつあった。
「‥‥この雨は、やっぱり」
 不安げに、マリア・アンジェリーニ(sz0003)が言うと、職員は深く重く、頷いた。
「ルークス市国所属のハンドラーの間では、すでに結論が出ています。少なくとも台湾の雨は、人為的なものだろう、と」
 その結論の決め手となったのは、台湾の支部から送られてきた情報だった。
 曰く、雨を浴びた下級の融魔が苦しみながらキニスに還っていった、と。
「ただの雨で、そんな現象が起きるはずがありません。詳しい成分分析はまだですが状況から見て台湾に降っている雨は全て――」
「‥‥聖水?」
 マリアの声は震えていた。
 ここまで考えつけば、あとの連想は簡単だった。
 悪魔を浄化しうる聖水。ルークス教以外でそれを作り得えるのは、錬金術以外にあり得ない。
 そしてこれだけの大規模な錬金術を成し得る者が、ただのハンドラーであるはずもない。
「――ヘルメス・トリスメギストス」
 つまりは、魔王ベリアル。
 彼が語っていた、『プロジェクト・アーク』。
 その概要は、「ノアの箱舟の逸話の完全なる再現」であるという。
 彼はこの『聖水の雨』で、人も悪魔も、全て押し流してしまおうというのだろうか。
「市国のハンドラーの見解として、これだけの規模の現象を引き起こすのならば、おそらくはどこかにそれを制御するシステムがあるはずだ、と‥‥」
「そう、かもしれない。でも、きっと‥‥」
 マリアは考えた。
 ここまでの状況。それがベリアルの想定通りであるならば、何故彼は自らの最終目的とも呼べる計画の概要を自ら口にしたのか。
 そう思って、考えれば、結論はすぐに出る。考えるまでもない。これは――
「‥‥罠?」
「当然ながら、我々が調査に出ることを、敵方も想定しているでしょう。十中十、これは罠です」
 職員の言葉はもっともだ。普通に考えても、罠があって当たり前。加えて相手は、今まで散々搦め手でこちらを苦しませてきた【陽炎の軍勢】なのだ。
「それでも、我々は行かなければならないのでしょう」
 そしてこれも当然のこと。
 罠があると分かっていても、もはや事態は一国の機能を破綻させるまでに及んでいる以上、SINNは動かなければならない。
 極東に轟き荒ぶ嵐の中を、SINNは、突っ切るしかないのだった。

■マリアの疑問

 SINN達が『聖水の雨』について様々に意見を交わし合っている中、マリアはぽつりと呟いた。
「じゃあ結局、『奇跡の薬』ってなんだったのかしら‥‥?」
 ベリアルが表向きの立場としていた紅グループ。それが明らかな魔法的処置を以て作っていた、『奇跡の薬』なるものについてだった。
 当初は、人を悪魔化させる薬、と目されていたが、しかし、今明らかになっている情報全体を見渡しても、妙に、「浮いている」。
 ベリアルの目的が「ノアの箱舟の逸話の再現」であるなら、『奇跡の薬』はそれに何らかの形で寄与するのではないか、そんな気がする。
 小さな引っ掛かり、違和感を、マリアは感じていた。しかし考えても、答えは見つからない。
 なぜなら彼女は、ハンドラーではないのだから。
 だから彼女は問いかける。
「ねぇ、どう思う‥‥?」
 この問いに対する、ハンドラーであるあなたの答えは――

■企画イベント「極東轟嵐」とは

 このイベントは極東アジアに吹き荒れるアルケミーによる豪雨の調査を行なう無料参加イベントです。
 事前調査の結果、ルークス市国はこの豪雨の発生に関わっていると思われる候補地を3つにまで絞りました。
 しかし全ての候補地にはそれぞれ敵が待ち伏せをしており、罠が張られています。そのため、調査と同時に戦闘をこなす必要もあります。
 PCは下記の選択肢より1つを選択し、100文字以内のプレイングを書くことができます。
 行動宣言は期限内であれば何回でも書き直せます。しかし反映されるのは最後に投稿したものだけです。
 このイベントの結果は26日に公開され、25日に先だって公開される全イベOP(陽炎側)に影響を与えます。
 なお、このイベントでの負傷はルークス市国のスタッフによって治療されます。また、損失した素材やアイテムも補填されます。

■「極東轟嵐:マリアの疑問」とは

 今イベントの中の1コーナーです。
 マリアが口にした疑問について、ハンドラーは200文字以内で自分の意見を出すことができます。
 これは「極東轟嵐」の結果とは独立しており、答えが出なくともこのイベントや全イベに悪い影響を与えることはありません。
 しかしここで正しい答えを導き出せた場合、全イベに良い影響を与えることができます。
 イベントの性質上、ハンドラー以外のクラスの行動宣言は無効とさせていただきます。ご了承ください。

■3つの候補地

・上海
 紅グループの本社ビルがある世界都市です。
 現在、ルークス教関連施設は中国の行政によって封鎖されており、実質上、都市全体が【陽炎の軍勢】に掌握されています。
 『聖水の雨』を降らせる制御システムがある可能性が最も高い場所でもあります。
 確認できた痕跡:赤い布切れ、紅の羽根、ピザのにおい、黒い羽根
・福州
 過去にエルネストが『プロジェクト・アーク』についての情報を入手した研究施設がある場所です。調査当日、ここには王 壱紅が来ているようです。
 これまでの調査によって、福州にある研究施設には『奇跡の薬』の重要な材料が存在しているようです。
 拠点としての重要性を考えると、ここに制御システムがある可能性も十分に考えられます。
 確認できた痕跡:悪しき気配、羽毛、特になし
・天津
 中国の首都北京にほど近い大都市です。
 かなり高い濃度の黒い霧が発生しており、人の数はほとんど見受けられない状態に陥っています。
 紅グループの幹部であるクリストファー・ノグチ直轄の研究施設があり、制御システムが置かれている可能性が他に比べれば低いながらも存在します。
 確認できた痕跡:黒い羽根、獣毛、赤い布の切れ端

■選択肢

ア:上海(調査)
 「制御システムの発見」を目的として上海の紅グループ本社周辺を調査します。
 良い結果が出た場合、目的の他にも情報が手に入る場合があります。
 但し、参加人数が少なすぎる場合、罠によって手に入る情報が少なくなることがありえます。
イ:上海(戦闘)
 上海で待ち伏せしている敵と戦闘を行ないます。
 良い結果が出た場合、全イベの登場モンスターが減ったり、調査側で追加情報が得られる場合があります。
 但し、参加人数が少なすぎる場合、罠によって手に入る情報が少なくなることがありえます。
ウ:福州(調査)
 「制御システムの発見」を目的として福州の研究施設周辺を調査します。
 良い結果が出た場合、目的の他にも情報が手に入る場合があります。
 但し、参加人数が少なすぎる場合、罠によって手に入る情報が少なくなることがありえます。
エ:福州(戦闘)
 福州で待ち伏せしている敵と戦闘を行ないます。
 良い結果が出た場合、全イベの登場モンスターが減ったり、調査側で追加情報が得られる場合があります。
 但し、参加人数が少なすぎる場合、罠によって手に入る情報が少なくなることがありえます。
オ:天津(調査)
 「制御システムの発見」を目的として天津の紅グループ施設周辺を調査します。
 良い結果が出た場合、目的の他にも情報が手に入る場合があります。
 但し、参加人数が少なすぎる場合、罠によって手に入る情報が少なくなることがありえます。
カ:天津(戦闘)
 福州で待ち伏せしている敵と戦闘を行ないます。
 良い結果が出た場合、全イベの登場モンスターが減ったり、調査側で追加情報が得られる場合があります。
 但し、参加人数が少なすぎる場合、罠によって手に入る情報が少なくなることがありえます。

■作戦スケジュール

 行動宣言期間:01月23日21:00〜01月25日15:00
 結果公開:01月26日夜頃

■行動宣言はこちら



■「マリアの疑問」への行動宣言はこちら



企画イベント「極東轟嵐」関連を記述するカテゴリー。


●マリアの疑問とは
「正直分かりかねますが‥‥」
 ユビキタス・トリニティス(sa1273)は、過去に入手したという華佗秘丹(ファトゥオミィタン)の分析調査結果の解析を試みるが、それぞれの地に赴く前の時間である為、その時間には限りがあり、既にある結果以上の情報は得られなかった。
「悪魔化すると言いつつ、『聖水の雨』の過程で出来た副産物ではないでしょうか」
「俺もそう思うな。錬金とは得てして想定外の結果を生む。ストライクゾーンを外れたボールって所だと思うな」
「う〜ん」
 アントーニオ・インザーギ(sa5938)も続くと、マリア・アンジェリーニ(sz0003)は、難しい顔。
「何か目的があるような気がするの。過去の任務でも伝承素材が重要な役割を果たしているって情報を掴んでいたみたいだし、それに、会った印象でしかないけど、目的もないものの研究を続けなさそう。ただの副産物ではない気がする」
「真理を探究し過ぎてって人だから、僕には分かりかねる部分があるんだけど‥‥」
 ニア・ルーラ(sa1439)が、思いついたことを口にする。
 本当に人を悪魔化させる薬なら、聖水という水だけでは落ちない頑固な汚れを落とす洗剤の役割を持っているか、或いは、大量に生まれた下級悪魔を一度に浄化することで魔王クラスさえも弱体化するというような事実があったりするか。
「でも、それだとベリアル(sz0016)自身の弱体化を招かないかしら」
「う〜ん、そうだよね。元が人間であっても、今は魔王だものね」
 マリアの意見にニアは苦笑。
「門外漢だから、的外れになるが‥‥薬を服用し続け悪魔になるのなら、悪魔の因子を体内に取り込む形だろう。悪魔にならなくとも、悪魔の因子を新しい世界に残したい‥‥ってのはどうだ?」
「或いは、逆に服用した人間から何らかの力を取り出している可能性もありうるのではないでしょうか」
 意味のないことをしていると定義するハーケン・カイザー(sc1052)は、悪魔の因子を人間に残す為と口にすれば、小茄子川 隆人(sp1454)は逆に服用した人間から何らかの力を取り戻す為のものではないかと意見する。
「確か、洪水自体、地上の人々の堕落を見てって話だったよな?」
 2人の話を聞いたギルベルト・ブライトナー(si7759)も、ひとつの見解を出す。
「なら、悪魔に堕落させれば、聖水で押し流しやすく、新しい世界に何も持ち込まないという考え方も出来るんじゃないかなって。これ自体が錬金に必要な素材である可能性も捨てきれないけど」
「そうね。人間を悪魔化させて浄化させる‥‥それが目的かもしれないわね。神による魂の救済さえも出来ないかもしれないし、魂レベルでの間引きを考えているかもしれない。戦力増強が目的ではないなら、奇跡さえも届かないようにすることを考えたのかも」
 紅牙 羽雅音(sc1258)もギルベルトの意見に同意する。
「自分は、逆の方向性を提示する」
 錬金は門外漢である、と話すジュラルディン・ブルフォード(sn9010)は、ノアの箱舟の再現を行うに際し、生き残るものだけが用意出来ていない点を揚げた。
 実際の神話を例に出し、太陽神となったベリアルが再構築した世界の為の種として、薬で忠誠を誓う存在を残したいのではないか。
 ジュラルディンの言葉に、玖月 水織(sh0007)も頷く。
「今の世界にある命を、新しき世界に残る種として転じようとしているのではないでしょうか」
 ルークスが望んだ世界を創り、その願いを体現する存在として。
 神に作られた存在であっても、自ら光を探し、その願いを離れる存在として。
「確かに、ノアは舟の建造時、人間では生きていられないような年齢だったらしいわね。それを体現したいのなら、薬で人をベリアルに忠義を尽くす悪魔とし、残した後、新しい世界で彼らと『理想社会』を生み出したいのかもしれないわ」
「目的がないことをする方には見えませんでしたから、その目的に関係すると考えるのが妥当でしょう」
 レティシア・モローアッチ(sa0070)に烏丸 文(sd4043)も頷く。
「例えば、人間へ進化を促す、とか」
「浮いてることは浮いてるから、まだ開発途中という説もあるとは思うけど‥‥」
 思案しながら、月島 悠(sa1735)がこう言った。
「案外、悪魔化は過程であって、実際は神の創造が最終目的とか。元々は、ルークス・クライストに協力的だったみたいだし、ルークスになろうとして悪魔、なんてありかもよ?」
 悪魔になるのは副産物で、最終目標は人間を神に進化させることでは。
 悠の意見は、まさに協力者の立場だからこそ出るものだろう。
「ろくでもないモンには違いないでしょう。確かに悪魔の先を狙った効果を意図していてもおかしくはないでしょうね」
「自身を悪魔へ進化させたなら、薬自体を進化の薬と定義してもおかしくはあるまい」
 マリク・マグノリア(sp3854)も悠の意見を支持すれば、ジェネレイド・キング(se9786)も進化という方向性に同意を示す。
 同時に、自身の見解を告げた。
「服用薬でもあるのだから、気化等も可能だろう。無作為かつ広範囲に広めることも出来る。方舟が洪水から生物を守るという用途であったことも踏まえれば、この雨で悪魔化した生物を浄化し、同時にその過程で強力な進化を遂げた個体を保護し、自らの手勢とする」
 そして、ベリアルも聖水の雨でも魔王を押し流せるかどうか分からないと話していたことも踏まえ、押し流せなかった魔王を進化した手勢で滅ぼさせるのではないかと結論付けた。
「進化‥‥でも、どういう進化をするのかしら」
「そういえば、オーストラリアの大規模作戦の際、入手したサンプルで試薬を作っていましたわよね」
 ルークス教を信じるマリアには信じ難い話だが、ベリアルが信者ではない事実を考え、進化説も視野に入れて考えていると、シャノン・オルブライト(sd2302)が口を開いた。
「ええ。やはり再現は出来なかったみたいだけど」
「そう、毒等の抵抗力を上昇させるものでした。それを強化しているものと考えることは出来ないでしょうか」
 悪魔化するという情報を敵側から奪取している以上、人類を強化することで悪魔化と誤認させるという方向はないにせよ、それ程強いものなら、進化することなく発狂死したり、廃人となる者が出てもおかしくはない。
 シャノンがそう話すと、思考していた実和 真朋(sn6429)が呟いた。
「まさかとは思いますが‥‥、薬を服用し、悪魔化した人間に『聖水の雨』が効かないのでは?」
 他の可能性も考えていたが、皆の意見を耳にした真朋は、それこそが彼らの言う『奇跡の薬』という代物ではないかと思うのだ。
「聖水が効かない悪魔‥‥」
「悪魔化した方を聖水の雨に晒すという試みをしなければ、断定は出来ないでしょうが‥‥」
 マリアが思わず息を呑むと、真朋はしてはいけない検証を口にした。
「‥‥そんな進化、させては駄目。一刻も早く、事実を突き止めないと!」
 マリアの言葉に皆、頷く。
 出た意見を整理すると同時に各所の連絡や連携を担うマリアが前線に出ることはないが、上海、福州、天津の3つの都市に赴き、真実を突き止めよう。


●天津:施設内調査
 ミラベル・ロロット(si6100)とマリク・マグノリア(sp3854)のパペットをフォローするように真朋のパペットも施設内を先行していく。
 何があるか分からないからこそパペットを先行させることで内部に潜入するSINN達に危険が及ぶことがないように。
「誰もいないのも不気味ですわぁ」
 有事の際はエムンドでキニスを祓って安全地帯を作る心積もりのラティーファ・アミン(sq2900)の言う通り、人の気配もない内部は、誰かに見つかる心配はないものの、逆にそれが不気味さを感じさせる。
「ま、悪魔はこの限りじゃねぇだろうな」
「そうだね。油断は出来ない。反応が消えたことを不審に思われたとしても対策はしておかないと」
 淀屋 ケイ太(so8112)に頷くのは、マリク達SINNに各種魔法で支援したエティエンヌ・マティユ(sj6626)。
 彼らは、ローレムが付与されたCROSSを配る。
 ケイ太のローレムには時間制限があるにせよ、この場所に長居をするつもりはないし、敵がどう思おうと、悪魔が潜んでいる可能性があるなら精気感知を遮断する術は使わなければ。
「サンクトゥアリィはどうしましょうか」
 念の為天使ラビエルの環の力を用い、範囲回復のサナティをSINN達にチャージさせたイーノク・ボールドウィン(sd3868)が問う。
 事前調査の必要があるなら、サンクトゥアリィで特殊空間を展開させ、情報を得た方がいいのではないか。
 ローレムの結界内で展開すれば、いるかもしれない悪魔を巻き込むことなく特殊空間を展開し、調査可能である。
「施設内が思ったより広いわ。効果時間上昇を用いたものを重ねても罠に注意して調べるなら、難しいかもしれない」
「作動させていないだけかもしれませんが、罠も見つかっていないとは言え、奥にそれらがない保証もないですから」
 ミラベルと真朋の意見もあり、サンクトゥアリィの事前調査は見送られた。
「関係者がいないのなら、魅了して罠の位置を確認ということは出来ないでしょうが、皆さんのパペットが先行した場所の更なる安全を確認する位の心積もりの方がいいでしょうな」
「そうだな。反応が消えたことを怪しんで、実は潜んでいた手勢に遭遇ということもある。慎重に進み、安全を確認するべきだ」
 快盗紳士の本領を発揮したい為マリア達が聖水の雨に関する意見交換をしている間も出立の準備に余念がなかったウルセーヌ・モローアッチ(sp5281)は、気合も十分。
 頷くカルディア・モローアッチ(si9465)は、パペットが高い機動力で広範囲を調査するからこそ重点的な調査は人が行うべきと主張。
「罠の可能性もあるなら、ヒメコも頑張るのですよ」
 ヒメコ・フェリーチェ(sq1409)は、調査隊の中でもルナール・シュヴァリエ(sp6369)と並ぶクレスニク。
 優れた知覚だけではなく、クレスニクならではの研ぎ澄まされた勘がある。
 ゴーグルキャスケットも装備し、バッチリといった様子の彼女は、隠密技巧に関しては他のSINNに譲るものの、ローレムの助けもある。
 隠密技巧を持たないSINN達のフォローをするように歩き出す。
『‥‥罠自体は、作動しなかっただけのようだな?』
 暫くして、ルナール・シュヴァリエ(sp6369)からの通信が入ってくる。
 コロランテスの使い手でもあるルナールは隠密技巧も低くはなく、ローレム付与のCROSSを得れば、感知することも見つけ出すことも困難だ。
 それ故に隠密技巧がないSINN達をフォローしながら進むのではなく、先行する形でパペット達が調べた範囲を調査していたのだ。
 パペット達の施設内の情報とは別に、勘で怪しいと判断した場所を調査した所、ルナールは罠をコントロールする場所を探り当てた。
 ここに自分達の目的とする情報が保管されている形跡はないが、施設内に侵入したSINN達の行く手を阻む可能性がある。
 コントロールルーム自体も罠の巣窟となっており、この罠はコントロールとは独立したものであり、作動させればコントロールルームへの侵入を告げる形になるとも判断したルナールは慎重に罠を解除させ、コントロールルームに電脳面に最も強いマリクが到着するのを待つ。
「‥‥加圧式のトラップ、ですか。それはパペットには作動しないですね。あとは、熱感知関係もパペットを感知することもないでしょうから、最終的には俺達が入ることを見越してんでしょうね」
 到着したマリクは、すぐさまハッキングでコントロールルームの制御を掌握。
 施設内の罠が、一定の体重が床に加えられて発動するものや人の体温を感知したら発動するものであると分かり、マリクは施設の主であるクリストファー・ノグチを名乗るブエルは、慎重なイヤな奴だと称した。
 が、隠し場所ともなっていたコントロールルームをルナールが見つけ、マリクが施設内の罠を全て凍結させたことにより、侵入したSINN達が罠に悩むことはなくなるだろう。
「異変を知らせることにはなるだろうな」
 ルナールは、別働のSINN達に侵入のタイミングを知らせる。
 同時に、中庭にミラベルのガンシップパペットが3人の人影を発見、内1人がクリストファーと判明すると、別働のSINNへ中庭への急行を連絡した。
「その間、こちらも調査を続けないとな。罠の類が解除されたにしろ、警戒は怠らない方がいい」
 遺体もなければ行き交う人もいない為、ディアロゴスやアリークアムでの情報収集は出来ないが、隠密技巧にも長けるカーク・ルッフォ(sc5283)は、慎重な意見を出す。
「だな。さっきも出た意見だが、情報がある部屋に行き着いたら、武装した奴らが待っていたなんてのもありえねェとは言い切れねェ」
 応じるルナールの透明化は、まだ解除されている訳ではなく、再び彼はパペット達が調べた場所の更なる調査へ赴く。
 SINN達も追いつつ、彼が調査しきれない場所の更なる調査を行った結果───
「所長室の真下にある部屋ってのが怪しいよな」
「ヒメコもそう思うのです。もしかしたら、すぐに来られる直通の階段とかあるかもしれませんし」
 ルナールとヒメコの2人は、所長室の真下にある部屋が怪しいと判断した。
 パペット達の調査では怪しい人影もなく、マリクのフォローをしていた真朋もこの部屋は備品室のようだと言っていたのだが、2人の勘はそう言わなかったのだ。
 くまなく調査していくと、SINN達は最奥に小さなスペースを見つけた。
 近くに備品棚があるが、キャスターがついており、動かしてみると、扉がある。
 開けた先は階段となっており、恐らく所長室に繋がっているのだろう。
 そして、このスペースには、1台のパソコンがある。
 マリクが代表して調べるが、暫くして眉を顰めた。
「何て書いてあるか読めませんね」
 中国語でもなく、また医学関係に用いられるドイツ語でもない。
 自分が知らない言語とマリクが言うと、レオン・ブラットショー(sn7285)が背後から覗き込んだ。
「ああ、これは確かにマリクさんでは読めませんね」
 言語に長けるレオンは、それが何の言語かすぐに分かった。
 念の為、他にも書面の資料が残されていないかヒメコと調査していたルナールも備品の帳簿に紛れていた1冊のノートを見つけ、念の為撮影していたが、やはり自分では分からない言語だと言う。
 それも受け取り、確認したレオンは同じく言語に長けるミラベルと真朋にも見せ、自分達でなければこれらの翻訳は不可能であると苦笑した。
「これは、マーシャル語‥‥ですね」
 オセアニア諸島に分類されるマーシャル諸島の言語を用いられていると説明したレオンは、真朋と共に誰もが読めるようラテン語への翻訳を開始する。
 クリストファー・ノグチとされるブエルの暗躍は最初、マーシャル諸島で確認されている、という聖戦機関の調査報告は、この個体が護衛と共にホワイトハウス付近のホテルに滞在している為に目的を突き止め、阻止する任務の際に伝えられている。
 恐らく、ブエルはそこで得た知識を生かし、情報の流出が簡単に起きないよう配慮したのだろう。
 3人が翻訳をしている間に発生した戦闘の結末はこの後語ることになるが、全てのデータを翻訳したものの、過去に紅グループ関連の任務で断罪された、星一族以外の半魔に関する経歴や既に入手している薬の情報、クリストファーが個人的に研究していたと思われる、発狂死した人間の比較データとカークが翻訳されたデータの選定をしても今後に役に立ちそうな情報はなく、最後に訳した一文は、クリストファーからの皮肉だった。
『このデータを見たSINN達へ。今のあなた方には不要なデータでしょう。真に必要なデータを残しておくとお思いですか? 真実は、盗み見ることなく、ご自分の目でお確かめください』
「‥‥アンタの言った通り、クリストファー・ノグチってのは、イヤな野郎だな」
 ある意味陽炎らしい彼のメッセージに対し、全てのSINNの気持ちを代弁するようにルナールがそう言った。

●天津:クリストファーを追い詰めろ
 ミラベルの連絡を受けたSINN達は、中庭へと急行した。
 こちらもデミル・ウルゴスティア(sd9633)がローレム付与のCROSSをSINN達に配布したが、戦闘の必要がある場合に待機していたSINN達の人数は24人と多く、また急行する必要もある為に完全なフォローは難しい。
 特に接近を警戒される者にCROSSを持たせる形である程度知られるのを覚悟で中庭へ急行すると、クリストファーがこちらへ顔を向けた。
「やはり、いらっしゃいましたか。今日は施設に視察に来たのですが、手配を進めて良かったですね」
 勤務していた一般の研究員は全て逃したと微笑むクリストファーは、情報の始末も行っていたようだ。
 有益な情報がここにもあったのかどうかは分からないが、少なくとも今、この施設で得られる有益な情報はなさそうだ、とSINN達が判断したのを見ると、真面目そうな青年が微笑む。
「こちらに芭蕉扇の際にお会いした方はいらっしゃいませんね。ご挨拶をしたかったのですが」
 芭蕉扇回収任務の失敗は、SINN達も知っている。
 あの任務の失敗は、中国国内のルークス教の立場を更に悪いものとしたからだ。
 紅グループから派遣されている者の名も任務に携わったSINN達が観光客を名乗った為に聞けないでいたが───
「彼らには関係ないのではないでしょうか? 彼らはわたくし達を滅ぼしに来ているのですから。‥‥お2人と違い、わたくしなどを覚えるまでもないのでしょうが」
 真面目そうな青年にそう言った顔には、覚えがある。
 星一族の中で、悪魔化した1人である星 廉貞(シン リェンヂェン)だ。
 オーストラリアで任務を共にしたこともあるが、彼自身に難があったのか或いは別の要素があったのか‥‥彼が心を開くことはなかった。
 苦々しく思った当時を思い出し、ゴスタ・ユオン(sp9246)が渋い顔をする。
「交わす言葉は最早ないのですから、茶番は終わりにしましょう」
「その件に関しては同意しておきましょう」
 黒き翼を抱く本性を現した彼に続くように、溜息をついたクリストファーも本性、魔神ブエルの姿となり、真面目そうな青年も本性、魔神ゼパルの姿となった。
 突入前に準備を整えていたSINN達は、すぐさま応戦に入る。
「空を飛ぶ敵に対応出来る者は対応に入り、そうではない者はゼパルの対応へ入れ」
 念の為の増援を警戒し、イントルーダーパペットを中庭が良く見える場所に配置したジェネレイドがすぐさま対応する敵を間違えないよう指示を出す。
 同時にアンネリーゼ・ブライトナー(so1524)が知りうる限りのモンスター知識を周囲に伝え、特にシンへの警戒を促した。
「ならば、地上は任せろ」
「俺達で倒すッ!!」
 バイオレット・エアレイダー(sa7966)と陸奥 政宗(sa0958)が先陣を切るが、ゼパルは牽制するように拳銃を撃ち、SINN達の足止めを行う。
 サンウリエルを成就させたロック・ビッグホーン(sp0942)に護衛されたガルゥシャ・ウィングバーン(sp0647)が魔的がない為ダメージはなくとも注意を引く為に弓を撃つが、ゼパルは気にしない。
「みんな‥‥お願い‥‥」
 川上 誠一(sa0247)に護衛されるシャーロット・エルフィン(si6767)が、必要と判断し、パペット達をゼパルへ回した。
 ただの拳銃ならば、『魔的な身体』を持つパペット達には傷も負わせられない。
 パペットによる足止めを機に対応するSINN達がゼパルへと向かう。
「ハッハァ! イッちまいなァ!」
「あなたを自由に動かす訳にはいかないのです」
 テンパランスリングの力も用い、命中率を上げる鷹宮 奏一朗(sp8529)と上空の魔神に他のSINNが専念するにはこの魔神を討たねばと思うセイディ・ゲランフェル(sp8658)が左右に展開し、ゼパルへ攻撃を連打する。
 ゼパルもハルバードを振り回し、応戦してきた。
 が、怯むようなSINN達でもない。
 上空を舞う魔神達に対応するSINN達への回復を三輪山 珠里(sb3536)に任せた十文字 翔子(sf7297)は、聖獣シムルのしーちゃんに跨り、背後から回りこむと、中庭に設置されていたベンチをアエルの突風で吹き飛ばし、ゼパルの背中に当てた。
 ダメージこそないが、背後からの不意の攻撃を受け、ゼパルがよろめく。
「助かったよ。───さて、遠慮してもらえるなんて思わないでね」
 リュカ・フィオレンツィ(sk3006)が微笑み、地を蹴る。
 既にゼパル対応に専念する形を取っていたゴスタがゼパルの腕を鋼糸で絡め取っており、攻撃を完全に封じるなら空いた手を絡め取る必要があるだろう。
「ボコ殴りでいいだろ」
 コロランテスで得た透明化からの不意打ちをアンリ・ラファイエット(sp6723)が叩き込み、隙が大きくなっている間にリュカが分胴鎖で腕を絡め取る。
「‥‥あいつらを引き裂いたお前達を俺は許さない」
 総攻撃を受けるゼパルは抵抗し、絡めを解除しようとするが、それを妨害するゴスタはゼパルを睨んだ。
 星一族の関連任務に複数参加した彼は、浅くはあったが、3人の星一族と接していた。
 メルボルンの市民救出作戦の際も特に廉貞を気にかけていた彼は、星一族の強い絆を好ましく思っていたからこそ、最終的に引き裂いた彼らが許せない。
「選んだのは、彼らですよ」
「そうさせたのは、誰だッ!!」
 ゼパルの言葉に怒るゴスタの拳が、最終的にゼパルを浄化させた。
 荒い息をついたゴスタが見上げると、上空の魔神相手にSINN達が戦っているのが見える。
「高い機動力を生かしているみたいだね」
 ギルベルト・ブライトナー(si7759)は、ジェネレイドの指揮をフォローしつつも状況把握を怠らない。
 機動力となると、サンラファエルの使い手以外対応が難しいのが現状だ。
 ブエルは当てること重視の弓を引いており、シンが一撃離脱の戦法を取っている。
「何とかするしかないだろう」
 南郷 龍馬(sq3216)がブリギッタ・ブライトナー(si7746)を狙撃集中させれば少なくともブエルに勝機はあると判断し、自らに気流を纏ってブエルに向かおうとするが、シンが行く手を阻む。
 進化───一度受けた攻撃に対する完全な耐性を得る特殊能力を持つシンは再生能力の高さも生かした対応をしている。
「壁にされると邪魔だよな」
 姉の攻撃が上手くいかないとユリウス・ブライトナー(si7758)が溜息をつくように、一撃の重さで勝負しないSINN達にとって、進化と再生の特殊能力を持つシンがブエルを守ると面倒以外の何者でもない。
 ジェネレイドのパペットがシンを妨害するように展開するが、高い機動力を持つ為に中々上手くいかない。
「邪魔っすよ!」
 ゲミニーで分身を得ている村正 刀(sf6896)がイグニスを成就し、シンを足止めすると、クリシュナ・アシュレイ(sa0267)がアクケルテの弾丸転移による不意打ちで続き、注意を引いた。
 流石に煩わしく思ったらしいシンが降下してくるが、レーシャ・ミニャーイロ(so9773)が「ニクスブシャー」とニクスを叩き込んだ。
「今の内にお願い!」
「感謝します」
 ブエルに急行出来ないと判断したクリシュナの言葉に短く応じたブリギッタは、連続して狙撃する。
 位置を変えようとするも、龍馬だけでなく、珠里もアエルの乱気流での援護に加わり、その行く手を妨害する。
 2人の妨害を無駄にする筈もないブリギッタは、ビスティボルンで狙撃を重ね、ブエルに確実なダメージを与えていく。
 すると、突然シンが攻撃を止めた。
「どうやらここは撤退した方が良さそうですね。わたくしにも読める戦況をあなたが読めなかったとは思っておりませんが」
孫殿‥‥蛍の光も雪明りも‥‥だから貴殿を助けないのでしょう」
「‥‥ッ!!」
 せせら笑うシンにブエルが冷笑した。
「何を、話しているのでしょうか?」
真名に関する情報かもしれませんわね。クオヴァディスの映像も苦労して学んでいるあの方の姿でしたし」
 メタスタシスの不意打ちでシンを足止めしていた種子島 カグヤ(sh3932)が眉を顰めるが、アンネリーゼが聞き逃す訳もなく。
「クリストファー・ノグチ、だっけ? 野郎の名前なんてどうでもいいけど‥‥貴重な情報をくれたことにだけ感謝してあげる」
 珠里と龍馬の尽力で何とか射程範囲に収めたデミルは、アンネリーゼが以前の任務で得ていた映像と同じ映像を視て推測した真名を盛り込み、シギルム。
 これが見事に決まり、何度も取り逃がしていたこのブエルを封印した。
「‥‥‥‥」
「‥‥あ、だ、大丈夫‥‥?」
 シンが去った方向を睨んでいたゴスタを珠里が気遣う。
「大丈夫だ。珠里が事前にチャージしてくれたサナティのお陰で怪我はなかったぜ」
 そうではない、と珠里は笑うゴスタに思ったが、彼の心境を思い、それなら良かったとだけ答えておいた。

 天津研究所での戦いは、終わった。
 調査結果は確率が低いだけあり大したものはなかったが、シンの真名に関する情報は重要なものとなるだろう。


●福州:奴は、どこだ
 福州の秘密研究所は、総帥秘書の1人であり、星一族であった星 貪狼(シン タンラン)の実父とされる王 壱紅(ワン イーホン)の足取りの情報が出たことを裏付けるように半魔が秘密研究所を固めていた。
「油断は出来ねぇが、俺達の敵じゃねぇ!」
「けれど、数も多いから油断は出来ないわね」
 三日月宗近の日本刀を振りかざすビート・バイン(sf5101)を援護するのは、赤城 圭(sg9025)。
 オズウェル・クローチェ(sq1494)が成就させたフェンリルで出来た影の狼が力強い援護役だ。
「そうですね。上級魔神と契約している模様ですから」
 オルフェオ・エゼキエーレ(si1323)が、ゴンスケ(柴神 壱子(sa5546)の愛する相棒だ)の危機はここにない安堵を密かにしつつも半魔が上級魔神と契約しており、彼らが得ている力を侮ってはならないと警告を促す。
 実際、1人の半魔が大津波の幻影を繰り出した為、精神力で抗えなかったSINN達は別の半魔より、悪魔魔法コンゲラーティオを喰らい、その行動を制限されてしまった者もいる。
「抵抗力低下は明確な時間があるようでプライェルで何とかしましたけど、凍結効果はどうにも出来ませんでしたねぇ」
「いや、抵抗力低下のままで戦闘続行は厳しい。ヨシア君の働きは、値千金だよ」
 ヨシア・アジール(sc3352)にそう言ったのは、コンゲラーティオで傷ついたSINN達を癒したジェローム・モローアッチ(sc1464)。
「数だけは、多い」
 リディヤ・ジュラフスカヤ(sd9570)の言葉は、忌々しげだ。
 半魔の特殊能力は、悪属性への抵抗で防げない。
 それを知っていた為にレジストディアボルリングは使用しなかったが、純粋な精神力の勝負となった大津波の幻影には抗えなかったからだ。
 ヨシアのプライェルでその影響はないとは言え、忌々しいと感じざるを得ないのだろう。
「大津波幻影を繰り出す者の次はコンゲラーティオを扱う者を優先した方がいいでしょう」
「だねー、ディフェンシオで銃弾に対応しつつ、いってみよー!」
 有栖川 彼方(sp2815)に応じる碇矢 未来(sp5129)の言葉もあり、半魔へは断罪出来るパラディンが中心の対応だ。
 元々、壱紅が半魔とあり、パラディンが多く来ていた為、上級魔神と契約している半魔の数が多くとも後れを取ることはないのだが。
「だいぶ片付いてきたわね。流石にそろそろ登場せざるを得ないんじゃないかしら」
「登場しようと等しく仕留めるだけだがな」
 後方支援のSINN達の護衛に回るキャサリン・モローアッチ(sd2653)の見解に対し、ラミア・ドルゲ(sg8786)はそう答え、SMGの引き金を引く。
 計画が達成されれば、自らも滅びるのに滑稽だと思うが、容赦をする理由にはならない。
「‥‥その前に、別の存在が来るようだね。上級反応1、皆気をつけて!」
 ディプレンドを成就させていたアビス・フォルイン(sa0959)が、注意の声を飛ばした。
「なら、あいつもいる可能性はあるよな?」
 アビスの援護を受けていた狼牙 隼人(sa8584)が、怒りを押し殺した声を出す。
 貪狼‥‥本名を壱華と明かした彼女をまるで駒のように評したあの男を、隼人は許すつもりはなかった。
「いや、足音は、ひとつだけだ。宙を飛ぶディアボルスと歩いている半魔の可能性もあるけどね」
 心情を思いつつも、アビスはここにいる誰よりも優れた知覚で得た情報を伝えた。
 現れたのは───
「青嚢書の件でお世話になった方はいらっしゃらないようですね」
 銀髪の青年が、1人。
 そこに壱紅の存在は、ない。
 李 天暁(リ ティエンシャオ)とかつてSINNに名乗ったその魔神は、クロケルという本性を現し、半魔達を援護するように襲い掛かってきた。

●福州:その真なる意味とは
 別働のSINN達が戦闘に対応している間に調査を行うSINN達は、内部侵入に成功した。
『内部は静かなもんだな』
 囮も兼ねるエルマ・グラナーテ(sj0377)は別行動し、ディプレンドで悪魔との遭遇に注意しつつ、本命の調査を行うSINN達と連絡を取り合っている。
 本命のSINN達は、昨年の終わりにここへ侵入を果たしたエルネスト・ブノワ(sz0035)らが情報を入手したとされる場所を最初調べることにしていた。
「一度侵入されただけあって、警戒されて当然と言えば当然よね。危ない仕掛け使わないで欲しいものだわ」
「ここそのものを自爆する仕掛けがないだけマシだろう」
 メーコ・カトウ(sh3828)に応じたのは、アントーニオ・インザーギ(sa5938)。
 この研究所を自爆させ、全ての証拠隠滅を図るのではと恐れて阻む錬金をしていた彼だが、出立直前に福州支部で各所の連携を行ってくれることになったエルネストより任務の際同行していたハンドラーのマシンダイブでそうした装置が確認出来なかったことを聞き、短期間で建物そのものを吹き飛ばす装置に至れないと判断し、罠への対策になればと持参していたのだ。
 結果として、建物そのものを吹き飛ばす装置ではないにせよ、自爆の連鎖を行い、行く手を阻む罠があり、勘を働かせたメーコが見つけた起動装置に用いて連鎖自爆の罠を阻めたのだから、よしとしよう。
「聖水の雨に耐えうる悪魔を作る可能性がある薬なら‥‥、彼らにとって重要なのでしょう」
「山中なのに電気系統もしっかりしてるみたいだしね」
 プリム・ローズ(sn6401)の言葉にニア・ルーラ(sa1439)が頷く。
 しっかりしたものだ、と呟くSINN達は、エルネスト達が情報を入手した部屋へと行き着いた。
 パソコンが立ち並ぶその部屋は、誰もいない。
「アントーニオが連鎖自爆の罠を無効化させたとは言え、囮となっているエルマや戦闘する者達に何かをされる可能性がない訳じゃない。ここで情報を得たからと言って、ここに情報の全てがあるとは限らない」
 トランクPCを起動させるジュラルディン・ブルフォード(sn9010)は、他にも情報が入手出来る場所の可能性だけでなく、建物の内部構造の完全掌握や警備システムの掌握、監視カメラの妨害工作の必要を唱えた。
「制御システムがここにあるかもだしね。内部構造を知らないと話にならないから、こっちは僕が担当するよ」
「僕もそっち方面は出来るから手伝うよ。僕のマシンダイブは、まだレベルが低いけど」
 月島 悠(sa1735)が申し出ると、ニアも挙手する。
 思案していたジュラルディンは、「意識を失う方が有事に対応が出来ない」と伝えた上で、効率良く作業出来るよう役目を割り振った。
「建物の内部構造が分かったら、指示を頂戴。実際に見なければ、分からないこともあるしね」
 遠隔パペットとイントルーダーパペットを内部調査に回すつもりの紅牙 羽雅音(sc1258)は、有事の際に対応するシムルパペットを見ながらそう言う。
「ああ。自分もデータの裏づけには、実際に確かめることが必要だと判断している」
 応じるジュラルディンが調べているのは、薬に関する情報だ。
 ここには、重要な素材として扱われていた古代種のソテツの栽培があるとされているなら、自分達が出した結論の裏づけが取れるのではないかと推測したのだ。
 装置の可能性と古代種のソテツの場所を求めて建物の内部構造を悠が調べ、警備システムと監視カメラへの妨害工作をニアが行っている今、この情報の重要性も捨て置けない。
「‥‥どうやら、自分達は古代種のソテツを見縊っていたようだ」
 ジュラルディンが、呟く。
 前回潜入したハンドラーもマシンダイブの使い手で優秀であったとのことだが、何でもない情報に偽装されていた情報を時間的な問題で見落としたようだ。
古代種のソテツは、錬金素材として使用可能であるようだ。ただし、特殊なものらしく、独自の手段を用いなければ、素材として機能しない。効果は───」
 『キニスを帯びること』に関するもの。
 ジュラルディンの読み上げた言葉にSINN達もぎょっとなった。
「‥‥装置はなさそうだけど、古代種のソテツが栽培されているエリアは見つけたよ」
 悠が、地下にあるそのエリアを指し示す。
「燃やしちゃった方が良くないですかぁ〜?」
「火事の規模に気をつけなければ、自分達自身も危ない気がするが」
 シャムロック・クラナド(sp9296)の提案にジュラルディンは冷静に答えつつ、警備システムを掌握したニアを見た。
「スプリンクラーと防火扉はあるみたいだし、作動はいつでもOK」
「それなら、僕が行きましょう。重要なエリアなら、伏兵の可能性もありますから。エルマさんには、そのエリアに敢えて近づかないよう連絡していただければ」
 ニアの言葉を聞いた雫石 結氷(sp9763)が、慎重にいくならコロランテスが成就可能な自分が行くべきと申し出、経路を確認、最初から古代種のソテツを燃やすことを考えていたらしいシャムロックから火種を受け取ると、透明化して部屋を出て行った。
 程なく、結氷が火をつけて戻り、SINN達は得た情報の整理をする。
 戦闘に入ったSINN達は、今どうなっているだろう?

●福州:壱紅、その正体
 半魔の手勢を主にパラディンへ任せた残るSINN達は、クロケルの対応へ入っていた。
 大津波の幻影を繰り出し、多くのSINNの抵抗力を一時低下させたクロケルは、射程範囲が短い為にヨシアが前進し、プライェルで除去するまでに振りかざしたロングロッドで更なる凍結効果を付与させていた。
「メモリーしてきて良かったプライェル、といった所でしょうか」
「いや、ヨシアがいなかったら相当ヤバイと思うよ」
 ヨシアがそう言うと、彼を護衛していたアビスが苦笑する。
「だが、凍結効果の付与は面倒だな。やるのはいいけど、やられるのは癪だ」
「それに魔法の効きも悪いわねー、もしかしたら魔法力を引き上げているのかも」
 聖獣スフィンクスを従える茂呂亜亭 萌(so4078)が面倒そうに舌を打つと、荒井 流歌(sp5604)が首を傾げた。
 上級魔神であるのだから、その効果が中級以下のディアボルスと一緒になることはないが、それ以上に効きが悪いとなると、魔法に抗っていると判断するしかない。
 完全に抗うと言うのなら、本来の魔法力を悪魔魔法か何かで引き上げているのでは。
「魔法が有効じゃないならないなりにやることはあんだろ。アメリア、行くぞ!」
「‥‥うん、お兄ちゃん! ‥‥頑張るから」
 カミーユ・ランベール(sf0920)に頷いたアメリア・ロックハート(sh1732)は、スイートキャンディリングの力を使いながら、後に続いた。
 サンウリエル、サンガブリエルで浮遊能力を得ている2人は時折銃撃も交えつつ、クロケルの動きを妨害すること重視で展開する。
「困りますね。あなた方を相手にしている余裕はないのですが」
「俺と同じ名前の破滅計画を進める余裕を与える訳ないだろ!」
 憤るアーク・カイザー(sq0753)が魔剣を携え、クロケルに向かう。
 凍結効果の影響を受けている為本来の動きではないが、この怒りをぶつけなければ気が済まない。
「まずは、動きを止めた方が良さそうッスね」
「本職のパラディン程ではないが、打たれ強くはあるからな」
 志島 陽平(sa0038)に頷いた雫石 雪凪(sp8252)は、まずはクロケルを地上に降ろすべくアークに加勢する為翼を広げた。
「一旦離れよ!」
 アークと雪凪の対応に追われているクロケルが無防備と判断した真幌羽 鈴鹿(sh5555)がボムタンクパペットを接近させていた。
 2人が離脱した瞬間、パペットボム。
 ダメージ自体は大したものになっていないようだが、連続し絶え間なく浴びせることで勢いに押されたクロケルが地上付近まで降下してくる。
「何度もさせると思わないでくださいね!」
 最終的にクロケルのロングロッドがボムタンクパペットを沈黙させたが、貴重な隙を黙って見ているようなSINNはいない。
「あやめねいさん、チャンスは逃さないのだ!」
「魔法が有効じゃないみたいだけど、逃さないわよ!」
 龍音寺 かえで(si9461)が、上昇して逃げようとするクロケルを妨害するように攻撃すれば、龍音寺 あやめ(sh0617)がプリティカを成就させる。
 予想通り、クロケルには微々たるダメージであるようだが、この間に刃琉呀 遮那(sp9191)が頭上へ回り込んで退路を断ち、ヨシアと厳島 雪花(sp0998)が周囲のSINN達へマギアの付与を完了させていた。
「もう終わりにしていただけると助かりますね!」
「潔く浄化されなさいな♪」
 ヨシアと雪花の言葉をクロケルがどう捉えたかは分からないが、総攻撃を喰らったクロケルは、最終的にケント・ハーシェル(sp0110)のハンマーによって浄化されていった。

「お見事ですね」

 不意に沸いた声。
 スーツ姿の中年男性。
 おかしい、と隼人は思った。
 目の前の男、遭遇したことがある筈なのに、詳細を思い出せない。
(まさか‥‥忘却オーラを有している、だと?)
「覚えている方がいないので、自己紹介を。私は、王 壱紅。娘、星 貪狼が皆様の世話になりました。お陰様でプロジェクトを修正しなければならず、困りました」
「ふーん。ま、どうでもいいわ」
 文倉 羽留(sn2556)が、興味ない顔で壱紅の自己紹介をぶった切りした。
「羽留、やり過ぎるなよ」
「無理。子供大事にしない父親なんて、顔面フルメンかサギッタリアで安定」
 一応自分を諌めるケントにあっさり答えた羽留がサギッタリアで壱紅を指定し、撃つと同時に隼人もメタスタシスで転移、エクスカリバーを振りかざした瞬間。
「お話している時間が惜しいものですから、少し人であることも忘れていただきます」
 隼人は、彼の言葉を聞くことなく動作を停止した。
 いや、隼人だけではない。
 その場にいた全てのSINNが、停止していた。
 時間が停止したのではなく、彼らは自分が人であるという記憶すら消去され、何も持ちえぬ廃人であるように虚空を見つめている。
「上海へ帰還する」
「SINNは、どうしましょうか」
「ベリアル様からの指示を守れ」
「はっ」
 物陰にいた半魔達とそう会話した壱紅は、火事の気配を感じ取り、福州研究所を後にする。
 効果時間終了後、王 壱紅がその場にいないことに気づいたSINN達は、古代種のソテツが灰となった成果を知る。
 会話をしている間にヨシアが成就させていたアリークアムにより、彼が上海へ帰還したことを知るが、忘却オーラを有し、行使したその能力を思えば、彼が何と契約している半魔かが想像出来、待ち受ける大きな戦いの激しさを予感させた。


●上海:本社ビルへ
転移装置は、爆破されている‥‥ですか」
 レイジ・イカルガ(sh2614)は、小さく呟いた。
 政府の圧力で上海のルークス教関連施設は全て閉鎖と聞いた彼は、転移装置への介入を恐れたが、上海支部陥落の際、命がけでSINN達を逃した支部長は、SINN達が上海へ立ち入ることがないようその装置を爆破した経緯がある。
 職員から改めて聞かされたレイジは、上海支部があった教会の奪還を願ったダニエル・ダントン(sa2712)と共に敵の本拠地ともなっている上海において教会の奪還は事実上不可能と告げられた。
「ですが、動きが楽になるのなら‥‥」
「今の中国では、転移装置を上海に移送することすら叶わない状態です。仮に教会を奪還し、転移装置を配置したとしても‥‥そこを陽炎の軍勢が攻めてきた場合のことはお考えでしょうか」
 ダニエルは来るであろう大きな戦いの為にそう発言したが、職員より中国におけるルークス教はそこまで追い詰められていることを説明し、更に敵の本拠に拠点を設ける危険性を口にされれば、断念せざるを得なくなる。
 その拠点にSINNだけが配置される訳ではなく、後方支援を行う職員も配置される。
 彼らを仕方ない犠牲の駒として考えることは、出来なかった。

「雨の所為もあるのか、人通りは全くないな。世界都市の見る影もない」
 レイヴェンス・エーベルト(sq2046)が、注意しながら上空偵察を行った結果を話す。
「人どころか、生き物の気配も感じないらしいからね」
 聖獣シムルのオライオンから話を聞いた神代 翼(sb3007)も警戒を強めている。
 けれど、油断ならないと主張したのは、ウィリディシア・クレール(sj3049)。
「外見証拠は与えては駄目。何に使われるか分からないわ」
 特に調査を行うSINN達へ変装を施す彼女は、雨が降る上海を睨む。
(『あなた』が信じ、携わったプロジェクトなら───私は無に帰す。それも予想の範囲内でしょうけど、見てなさい)
 そうすれば、『彼』も少しは赦されるだろうかという感傷を封じ、調査に臨むことを決意する。
 感傷を封じて行動するのは、玖月 水織(sh0007)も同じだ。
「人通りがないとは言え、本社に動きがないことはないでしょう」
 本社周辺の人や資材を運ぶ車の動きに着目すべきと判断した彼女は、雨に困惑する現地人の医師を装い、現地の者から情報収集を行い、本社へ潜入する者への支援を考えていた。
 ベリアルを止める為の一手を打つ為、水織は敢えて外堀を埋める作戦に出たのだ。
(彼に最後の知識を与える為の最善の行動を)
 過ぎる複雑な感情を封じ、水織は行動に移る。
「でも、危なくなったら逃げるからね」
「‥‥今日は、あなたから諭されるとは思いませんでした」
 玖月 絢紅(sh4500)の言葉に水織が微笑む。
「本社内部の重要情報が独立したサーバー内または紙面媒体であっても、情報が全く得られない訳ではございませんし、周辺施設は同じセキュリティではありませんわ」
 彼女達姉妹を電脳面で支援するクラリーチェ・ラグランジュ(se5708)は、他のSINN達の情報中継地点の役割も持つ。
 警備システムに入り込むことに成功したクラリーチェより監視カメラの警告を受けたSINN達は、いよいよ本社ビル潜入を行うことにした。

●上海:人の罠
 本社ビルは、物々しい気配に包まれていた。
 侵入するSINN達を援護する形でわざと目立つように紅グループ本社ビルを訪れたSINN達は、上海の武装警察隊に遭遇することになる。
「通報を受けているのでしょうから、異端ではないでしょうね」
「無力化が妥当だろうな」
 滅ぼすべき敵ではない、とアドリアン・メルクーシン(sb5618)。
 異端であれば断罪と出来るが、現地警察は中国政府の圧力もあり、その中枢を掌握している『陽炎の軍勢』の意のままに動くとは言え、末端は命令に従って動くだけであり、異端ではない。
 この為、アウグスト・ソウザ(sa2367)が言う通り、彼らを無力化にて対処する必要がある。
「彼ららしい戦いとは言えますが‥‥よろしい、蘭華ちゃんの本気をお見せしましょう」
 須経 蘭華(sb0118)が前に進み出ると、武装警察隊で指揮を執っている警官に向かって歩いていく。
 警戒されるのを防ぐ為、グングニルは預け、武器がないことを証明している蘭華は、武装警官隊への交渉を開始する。
「こういう時は心強いな」
「本当に異端ではないのでしょうね。動揺されているようです」
 アシェン・カイザー(sd3874)の隣でナイ・ルーラ(sb0124)が、呟く。
 搦め手よりもやはり正面切った戦いを望むアシェンにとって、こういう人的な罠を配置する彼らはやりにくい相手ではあるのだが、正攻法で配置した罠ならば、蘭華の交渉技術が物を言うとナイは改めて実感する。
 交渉に時間はかかったが、指揮系統の確認を上層部に確認させることを名目として撤退させた蘭華に御剣 四葉(si5949)が思わず拍手。
「敵の本拠で何もせず帰るのだけは避けたいのです」
「仰る通りです」
 四葉に微笑む蘭華は、皆に先へ行こうと促した。
「警備システムをクラリーチェが掌握しているみたいだけど、オフラインで作動するものもあるから、注意が必要なんだぜ」
「そうだな。そこから連携を崩しにかかってくるかもしれん。注意すべきだろう」
 リン・ブレイズ(sf8868)に頷く九朗 或(sd4780)は、皆に警戒を促した。
「ゴンスケ、先行はお願いね」
 メイリア・フォーサイス(sa1823)を戦闘時フォローするつもりの柴神 壱子(sa5546)は、壱華が遺した栄枯の剣のかけらを素材のひとつとして生み出した柴犬パペット、ゴンスケに託すと、ゴンスケは先を歩く。
 調査チームが地下を調査すると聞いている為、自分達は敢えて上へ行く。
「吸血鬼はいない気もしますが、油断はしない方がいいですわね。美味しそうな匂いが社員食堂からもしませんけど、帰った後ご飯を美味しくいただきたいですわね〜」
 マルセル・ロン(sq1413)は、アンナリーナ・バーリフェルト(sp9596)と共に周囲を警戒しながらも帰還後の中国料理に思いを馳せているようだ。
「‥‥ちょっと待ってくれ」
 ラティエラ・テンタシオン(sb6570)が、足を止めた。
 同じようにマイア・イェルワジ(sj7576)も足を止めている。
「植物さんが、彼らを見ているのです」
 マイアがラティエラも見たであろう情報を伝える。
 吹き抜けのフロアにある観葉植物が、サンウリエルのフォリウムを行使する彼女達にその情報を伝えてきたのだ。
「先行しましょうか?」
「止めておいた方がいいだろうな」
 エテルナ・クロウカシス(sp1494)の申し出にアーサーが首を振る。
「魔結界の類を使われたら、ヤバイと思うよ」
「そうだな。カルマがなければ、満足に戦うことは出来ないだろう」
 叩ける時に叩くべきと考える御剣 キョウ(sp0401)もカルマなしに魔結界を使うディアボルスと戦うのは得策ではないと指示し、エテルナも先行を断念した。
「ここでボスに痛手を与えれば、今後楽になるだろ」
「だね。アクケルテで弾丸転移させれば、不意打ち可能‥‥そこから一気に押し込める可能性はあるよ」
 御剣 龍兵(sa8659)の言葉に全力戦闘を誓うミリーナ・フェリーニ(sa0081)が頷く。
「油断は出来ねぇけど、待ってはいそうだな」
「実際待っているんでしょうね」
 ジョニー・ジョーンズ(sa2517)が念の為に昇意のカルマを成就させると、怒りのカルマを成就させ、感知距離を引き上げたディプレンドを業刻印感魔のCROSSを介して成就させていた烏ツ木 保介(sd0147)が、そう返す。
「本物はいないようですが、上級4体。ラティエラさんとマイアさんの情報を合わせれば、ベリアルはファルスでしょうが、幹部クラス勢揃いといった所かと」
「簡単にいきそうにはないね」
 エウレーラでゴンスケと連携して偵察してきたシグルフリート・ウォールター(sp9359)は、元の姿に戻り、保介の言葉に頷いた。
「それでも、ここで叩ければ大きいだろうね」
 回復を担う1人であるウェスタ・イェルワジ(sg1931)が呟くと、隣を歩くアルカ・カナン(sf2426)も小さく頷いた。
「カルマがあるなら、魔結界を使われたとしても憂いはないでしょう。念の為サンクトゥアリィで隔離を行いますね」
「安心なのである。俺様のトッド・ファイアーは使用すれば、植物への被害は避けられないものであるが故っ!」
 アルカに感謝するトッド・ブレイラー(sg2464)は、貴重な火力でもある。
 やがて、SINN達は彼らが待つ吹き抜けのフロアへ到着した。

●上海:神の威を撃つ者
「武装警察隊はあまり機能しなかったようだね」
「帰っちゃったら帰っちゃったでつまんないよぉ〜」
 ファルスであるベリアルの言葉に応じたのは、ベルフェゴールだ。
 椅子に腰掛ける彼女は、SINN達がここに来るまで随分退屈していたように見える。
「面白クハナイヨネ」
 同意するサマエルは、何かくねくねしている。
 が、アルカがサンクトゥアリィを成就した後、その姿をベルフェゴールへ変えた。
「いつ見ても面白〜い」
 ベルフェゴールの間延びした声の間にSINN達は準備を整え、それを妨害するように擬態を解除したベリアルが滑空してくる。
「阻んでいる間に任せたよ」
 酒匂 博信(sh4156)が、ベリアルの対応に入る。
 彼が投擲する羽をディフェンシオで叩き落した彼は、その攻撃を受け止めた。
 直後、黒い翼を広げた最後の男が追うようにしてこちらへやってくる。
 自分に来るか、と思いきや、彼が向かったのは───メイリア。
 ジョニーとキョウが対応に入るが、進化の特殊能力を持つシンたる彼には、一撃しか有効ではない。
 アドリアンの銃撃もアーサーのグングニルも無視し、邪剣を振り下ろそうとし───
「私は、あなたを許さないですー! 人を絶望に落とすしか能がないのですかー!」
「お前に何が分かる!!」
 鋭い叫びと共にメイリアの言葉を一蹴するが、壱子のゴンスケが邪剣を持つ手に牙を立てる。
 壱華の栄枯の剣を材料のひとつとして生まれたゴンスケは、限られた回数でも魔神の身体を弱体化し、攻撃する。
 たった、1度であっても、その攻撃は無視出来るものではない。
「確かにあなたのことは分からないけど、イーファちゃん達といたことまで否定するなら許さない」
 壱子がそう言い放つと、博信だけでなく、アウグストとシグルフリートの対応をしていたベリアルが笑った。
「あまり彼を苛めないであげてくれ。彼は、君達と違って、自らが原因となってしまった事故で愛する者達を永遠に失っている。君達とは一緒にはならないよ」
「あら、そうなんですの。それはそれは」
 媛 瑞玉(sd3404)が、大袈裟に応じた。
「私も人のことを言えた過去は持っていませんが‥‥中々ハイスコアですわね。ですが、取り立てて興味あることではありませんわね」
 直後に瑞玉は、ベリアルの背後にメタスタシスで転移した。
 他の魔神達の対応もある為、まずはファルスとは言え、ベリアルを仕留めておきたいという意図からだ。
「妙子様、よろしくお願いします」
 足止めする瑞玉の言葉と同時に鷺沼 妙子(sp1602)が、紅炎のシャールンガを引いていた。
 直後、ベリアルに矢が爆音と共に突き刺さる。
 神威の指輪の力も行使させたその矢は、自身のフォース以外にも保介のマギアも付与されており、ベリアルを一撃で滅ぼすに十分なものだった。
「わ〜、サマエルちゃん、逃げよ〜?」
「ソウダネ。サンクトゥアリィノ後マタ逃ゲル必要アリソウダケド」
 ベルフェゴールとサマエルが、効果上昇のフルメンを撃つエテルナを無視し、悪魔魔法トランシトスを成就、瞬時に姿を消した。
 残るは、シン。
 メイリアだけでなく、壱子も狙うシンは、進化と再生の能力を持っており、かつ魔神としての能力も低くない。
 グレイスも想定以下ダメージ、SINN達の攻撃を回避しつつ、繰り出す一撃は思う以上に強い。
 仮に攻撃を受けても完全な耐性を得てしまい、次の別の攻撃手段を当てるまでに再生能力で傷を回復させる。
 ある種忌々しささえ持つ魔神だが───
「砕け散ればいい」
 メイリアと壱子をそもそも狙っている上、優れた隠密技巧を持つ妙子は、自分が魔法を成就出来なくなるリスクを承知で自らのCROSSにローレムを成就した蘭華からそれを受け取り、シンの背後へ移動していた。
 精気感知手段を封じ、その移動を気づかれないよう注意した妙子は、その一言共に矢を放つ。
 爆音と共にシンへ突き刺さり───
「‥‥オレは‥‥やっと楽になれるのか‥‥」
 シンの最期の言葉が妙子にも届く。
 魔神となったかつての人間に寄せるべき情は存在しないが、この瞬間、確かに彼は満ち足りたものを感じているのだろう。
 理解出来ないし、する気もない妙子は、星を返したと言葉を交わすメイリアと壱子を見る。
 神の威を撃つその矢が、魔神達を滅ぼした。
 サンクトゥアリィ効果時間終了後、全てのスタート地点に戻った為サマエルとベルフェゴールも戻るが、椅子による高速移動で間合いを取った彼らはトランシトスで再度離脱、討たれることなく逃亡した。

●上海:装置へ続く道
 地下を中心に捜索を行うSINN達は、外部で情報収集を行う水織や声色を変えて本社へ電話し、内部から情報収集を行うウィリディシアが得たものを纏めたクラリーチェと連絡をマメに取りつつ、装置の捜索を続ける。
「流石に単純な罠はなさそうなんだな、これがな。先行している文やアリスは違うかも知れないが」
「早く見つけておきたいデスネ」
 ハーケン・カイザー(sc1052)にジェーン・ミフネ(sk6098)が頷く。
 本社ビルの地下を調べるSINN達へベネディクタを成就したとは言え、敵の本拠では何があってもおかしくはない。
 隠密技能だけでなく罠を見破り、解除する技能、加えマシンダイブの使い手でもあり独立したサーバや電子系の罠にも対応出来る烏丸 文(sd4043)とコロランテスの使い手で一般人の目を欺けるアリス・フリュクレフ(sq1159)の2人がシャットアウトリングを所持していたこともあり、ハーケンは先行させている。
 奥に行けば行く程危険が高まると想定出来る為、彼女達の護衛として傀儡魔神のマントを羽織らせた鋼鉄巨人のパペットをつけたが、自身も大天使パペットに周囲を警戒させ、ジェーンと共にフロアを注意深く調査していた。
『こちらである程度罠は解除しておきました。単純なものではなかったですが』
 文の連絡に安堵するハーケンは、ジェーンと共に不自然な点がないか重点的に調べる旨を返し、先行する2人に危なくなったら帰るよう伝えたのだった。

「確かに、危なくなったら帰った方が良さそうですね」
 ハーケンとの通信を終えた文は、小さく呟いた。
「罠だらけよね〜」
 透明化しているアリスの具体的な位置は分からないが、文が解除する罠の多さは見ており、それ故に相手の警戒と当たりかもしれない可能性に気づいているのは、声だけで分かる。
 注意しながら進んでいくと、ラビットイヤーで優れた聴覚を持つアリスが物音を捉えた。
 誰かが、先にいる。
「注意して行きましょう」
 アリスに注意を促した文は、複雑な仕組みの罠を解除しながら先へ進んでいく。
 誰かいるのが、見えてきた。
「今は、この先に進むのを遠慮してもらえないかな」
 ベリアルが、更に地下へ繋がる階段の前に立っていた。
 それも、悪魔としての真の姿で。
 透明化しているアリスに気づいているらしく、文も知らなかったその位置へ顔を向けた。
「止めておくことをお勧めするよ。私も自衛手段を取らざるを得なくなる」
 そうしてアリスを牽制した後、文を見た。
「君が、地下フロアの罠を解除しているようだね。複雑に作ったものもあるが、全て鮮やかな手並みだ。極められた技巧に賞賛を送ろう」
 何もかも知っているような口振りだが、外部から監視カメラに妨害工作を行っており、オフラインのものも無効化してきた筈。
 なのに、ベリアルは、全てを知っているようだ。
「私は私の空間で知らないことは何もないよ」
 文は、その一言で目の前のベリアルが本物であることを悟った。
 彼が行使する魔界創世は、確か───
「今日は、ご挨拶に伺ったまでですよ。装置が、ここにあるようでしたから」
 文が、にこりと笑う。
 本物がここにいるならば、装置はこの先にある。
 今は、この確信だけで良い。
「では、また後日に。賢明な判断をしてくれて嬉しいよ」
 ベリアルが微笑すると、文はアリスに小さく声をかけ、背を向ける。
 魔界創世が展開されているなら、この本社ビルにいる全てのSINNが危険に晒される可能性も意味する。
 それに気づいた文は、彼の言う通りにせざるを得なかった。
 だが、居場所は判明した。
(今日は、退きます。今日は)
 まるでベリアルに伝えるように心の中で呟いた文は、ハーケン、ジェーンにも事の次第を伝え、地下から撤退。
 戦闘を終了させたSINN達にも早急な撤退を連絡し、紅グループ本社ビルから立ち去った。

「今日は、か。次に会う時はどうなるだろうね?」
 呟くベリアルが振り返ると、サマエルとベルフェゴールが戻っている。
 労う彼は、こう言った。
「嵐の向こうは、もうすぐかもしれないね」
 飽くなき知識の追求者は、最初の異端、異端王としてSINN達を待つ───
最終更新:15/01/26 20:27:47
更新者:エルネスト・ブノワ(sz0035
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