ミスターXの桃源郷

担当マスター:北野旅人
開始13/09/09 22:00 タイプボイスドラマ オプションお任せオプション
状況 SLvC 参加/募集8/8 人
料金10000 Rex 分類事件
舞台国ナイジェリア 難易度普通

◆周辺地図
参加者一覧
レティシア・モローアッチ(sa0070)H水 ジョニー・ジョーンズ(sa2517)P火 狼牙 隼人(sa8584)P風 近衛 蓮華(sg0016)A地
鷹羽 歩夢(sj1664)P水 マイア・イェルワジ(sj7576)A地 児玉 初音(sp1503)A火 鷺沼 妙子(sp1602)P地
オープニング
 その男とて、親に名を与えられたはずの人間だったが――彼を知る者はほとんどおらず、彼自身もすでにこの世におらず、名を残すような真似をしなかったので、ここでは『X』とする。

●数ヶ月前、ナイジェリアにて
 輸送用のヘリが、アフリカの大地へと降り立つ――

「本当にここで合ってるんですか? 平原とジャングル以外、何も見えませんけど」
 異端のヘリパイロットは、疑わしげな視線をX氏に投げた。
「何かありそうな所に秘密基地なんか作れるかね?」
「それはそうですが‥‥」
 この2人は『工房』から来ていた。そこもまた秘密基地の一種であり、人目を避けて造られていたのだから、こう言われてはパイロットも反論のしようがない。
 彼らの負っていた任務は、今後襲撃が予想される『工房』から、新型魔創(エメス)の一部を別の施設に移送させておく事だった。だが、途中で進路の変更を命じたのはX氏であり、それは完全に彼の独断である。
 そんなX氏に疑問を感じていたパイロットは、念のためという事で、封鎖されていた無線を繋げようとした。が、X氏はそうされる事も予想していたため、即座にパイロットを射ち殺した。

「さあおまえ達、最初の仕事だぞ」
 X氏は積んでいたエメスを起動させ、乗ってきたヘリを鉄塊に変えさせると、それを密林に隠蔽した。

●X計画
 X氏は異端のハンドラーである。大の人間嫌いで、反社会的な傾向のある彼は、世界を転覆させんとするドラクル社の研究に身を投じていたが、別にルークスを憎悪しているわけでも、悪魔を崇拝するでもなかった――そんな彼が、『工房』の旗色の悪さを察して離反したのは、当然といえば当然かもしれない。
 新型魔創の開発に貢献したX氏は、それなりの権限もあり、今回の計画の絵図が描けた。その狙いは、『自分だけの世界』に閉じこもる事にあった。
 それなりの性能があり、それなりの命令を下せるゴーレム――あとは、誰にも見つからないであろう土地があれば、それでよかった。それはかねてからの夢。そうして彼は、翼を生やした動く石像と、自分の2倍以上もの背丈のある石像たちを連れて、未開のジャングルへと消えていった――

●数ヶ月後、密林にて
“X月X日 水源確保 仮小屋完成 →順次補強と拡張”
“X月X日 周辺把握 →最低限の食料調達メド立つ 開墾開始”
“X月X日 ケネディ:鶏飼育成功 サッチャー:養豚プログラム開発必要 →種豚調達も”

 ――X氏は日記を書くような人間ではなかったが、生来の学者肌が、『研究日誌』的なものを書かせていた。
 最初は型番で呼称していたエメス達に人の名前をつけ始めたのは、人間社会への未練からではなく、自分の『息子達』への愛着からだ。意思のない彼らも、命令には素直に従う。だが思うとおりに動かすには試行錯誤がいる。ペットを躾けるのに似ていなくもない。
 呼称に、各国首脳の名を借りたのは、X氏なりのブラックユーモアである。彼にとっては、この覆いかかるほど狭い密林こそが、無限の拡がりを内包する全世界であったから。

“X月X日 原住民の接近を許す 狩猟目的? →領域保護プログラム必要”
“X月X日 パペットで芋50kg奪取 これも栽培必要”
“X月X日 食料一部、地面下に保存(火災等対策) ヤギ飼育メド立つ

 が、日誌はそこで終わる。X氏はトラに襲われ死んだからだ。エメス達は、近づく人間には脅迫を、あるいは死を与えるよう命令されていたが、野生動物の撃退とX氏の保護は、その範疇になかった。
 こうして世界のあるじは消えた。にも関わらず、閉じた世界は回り続けていた――

●謎の目撃情報
 聖戦機関が動き出したのは、アフリカの宣教師からの情報による。現地の狩猟部族が、密林の一部で『巨人』や『悪魔』を目撃した例が相次いだのだ。なかには命からがら逃げ延びた者さえいた。
 当初はディアボルス関与が疑われたが、その姿は明確に視認されていた。となると、ディアボルスではなくエメスかもしれない。エメスは普通の人間でも視認できるからだ。
 なぜアフリカの奥地にエメスがいるのかはわからない。あるいは、ドラクル社の新たな施設だろうか? それを調査し、確かめるのは、あなたがただ。

●今日も世界は
 その日もエメス達は、いつもと同じ仕事に明け暮れる。それはとてものどかで、だが限りなくいびつな光景。
 家畜のために水を汲み、芋と野菜と果物を作り、あるじのいない鶏と豚とヤギにエサをやり、『領域』を見回り、もし人間が来れば追い返す。
 ヤギはみな『ミッテラン』になついている。ミッテランはソルムゴーレムなのだが、ヤギにとっては家族なのだろう。だがミッテランに心はない。ただ、ヤギの身体をていねいに洗うのみ――


※『工房』とは――ディアボルスの組織による大型エメス工場。現在はSINNの活躍によりすでに壊滅。
※『ドラクル』とは――世界的なIT企業。『工房』の実質的な黒幕。



◆マスターより

北野旅人です。これはボイスリプレイのOPになります。
プレイングのやり方は通常のリプレイと同様の形でかまいませんが、『声で紡がれる物語』である事を念頭に置いてください。
リプレイはセリフ描写が多くなるでしょう。そのため、セリフは特に意識して盛り込む事をおすすめします。

物語は密林に分け入るシーンから始まります。未開のジャングルです、該当スキルや準備がないと、苦労します。また、非常に蒸し暑い気候です。
数キロほど進むと、『領域』に入ります。PL情報になりますが、ガーゴイルやソルムゴーレムの襲撃にご注意ください。
奥には小屋を含む生活エリアがあるはずです。そこまで無事に到達し、調査を完了させてください。

敵は若干強いですので、気をつけてください――では、まやかしの桃源郷へ、いざ!

■ボイスリプレイとは
 このシナリオは「おでっくす2013特別企画」の一つである、「ボイスリプレイ」です。
 予約・参加を行うには、「おでっくす2013」に来場された方に配布したパスワードを関連付けする必要があります。
 ボイスリプレイは、ショートシナリオのリプレイに加え、STARSボイスアクターによるボイスドラマが作成されます。
 プレイングには、PCに行わせたい行動内容と共に、第三希望までのSTARSボイスアクター名、声や発音に関する補足などを記入してください。レクシィ株式会社の担当者が希望順に直接打診を行い、担当声優を決定します。希望クリエーターへの打診が承諾されなかった場合、希望クリエーターがいない場合は、担当者が選出します。
リプレイ
全編通して再生(※重いです)




オープニング





 密林を進むSINNの一行――先頭を切り拓くのは、ジョニー・ジョーンズ(sa2517)と狼牙 隼人(sa8584)、タフな男たちだ。しんがりには、やるときゃやる女たち、鷹羽 歩夢(sj1664)と鷺沼 妙子(sp1602)がつく。それに挟まれ、守られるようにして、残る四人の女性SINNが、道なき道を突き進んでいた。
 その一人、マイア・イェルワジ(sj7576)は、魔法のパナマ帽を頭に載せると、目を閉じ、心を無にして、進むべき方角を見出さんとした。

「んーと‥‥こっちで合ってると思うのですっ」
「へえ、すごい帽子だなあ‥‥ねえ、今回のって何だと思う? 一般の人にも見えたなら、やっぱりエメスって奴かな」
 妙子のぼやきに、レティシア・モローアッチ(sa0070)は思考を巡らす。
「アフリカに出没するエメスか‥‥」
「なんでまたこんな密林の奥地にエメスなんぞが湧いて出て来てんだぁ? まさかこんなとこに工房があるんじゃねーだろーな?」
「いえ隼人、ありえる話よ。以前は廃墟となった無人島に工房を作っていたんだし、こんな場所に作ってもおかしくは無いのよね」
「施設を隠すにはうってつけってワケか。あるいは原住民を不安にさせて、キニスを高める狙いなのか‥‥」
 ジョニーが考え込むと、児玉 初音(sp1503)も首をかしげた。
「エメスだとの話だけど、ひとけのない場所には何が潜んでいてもおかしくなさそうね。他にも何か隠れているかもしれないから、気をつけなくちゃ」
「未開のジャングルだもんねー。あははっ、実はすっごい変な動物だったりして――って、出たあぁ!?」
 突然、妙子の周囲を、怪しい影が高速で飛びかう――早くも敵の襲撃か、はたまた未知の生物UMAなのか――
「ひょっひょっひょっひょ。おばばじゃよ!」
 なんと、お空を飛べるエンジェリング、近衛 蓮華(sg0016)のおちゃめな悪戯だったようだ。しかも蓮華は、歳も考えずに魔法少女のコスプレ風装備で来ており、これでは妙子が腰を抜かすのも無理はない。初音は友人を見かね、苦笑しながら手を差し伸べる。
「大丈夫? ほら、幽霊の 正体見たり 枯れ尾花って言うじゃない」
「わしゃまだ枯れとらん、ピッチピチじゃ」
 最後尾の歩夢は、この騒ぎにけらけらと笑っていたが、ふと顔を引き締めると、少し真面目な声になった。
「相手がエメスでも動物でもおばーちゃんでも、油断してたらダメって事だよね、しっかり警戒するよ!」
「おう、俺も狼牙一族の末裔として、獣にも負けない感覚で‥‥」
「あっ、あっちのほうで、おかしな影を見た木があったのです!」
 隼人のセリフは、マイアの発言で中断された。そして隼人の目の前の茂みが、ガサガサと激しく動き、自動的に道ができる――木の記憶を感じ取ったのも、茂みを意のままに動かしたのも、マイアと蓮華が扱える魔法・サンウリエルの力である。
「そのうえ、この魔法は飛べるしのう‥‥年寄りにはありがたい力じゃわい」
「植物さんたち、ありがとうなのですっ」
「へっ、狼の感覚も、森全体の感覚にはかなわねえな」
「ちぇっ、ほっとけよジョニー」




「ごきゅごきゅ‥‥ぷはっ。もう、あっつーい!」
「暑い暑い暑いー! こんなに暑かったら蒸し焼きになっちゃうよー!」
「落ち着けって妙子、歩夢」
「でもジョニー、森歩きは特務の演習で習ったけどさ、あの時はもっと涼しかったよぅ」
「妙子、森とジャングルじゃ違うわよ。森林を笑う者は森林に泣く、よ」
 そう言うレティシアは、随伴させた宝箱パペットを皆の道具入れとして活用していた。そして隼人は、皆の不平を耳にすると、その宝箱を開け、濡らして絞ったタオルを配った。
「ほら、これを首に巻いときゃ暑さ対策になんぞ」
「おー、隼人君にしては気が利くねー?」
「にしては、は余計だぜ歩夢‥‥」
「ふいー生き返るー! ようし、密林さんにいい感じに蒸し料理にされないようにしなきゃー」
「初音、平気? 疲れてない? きつかったら荷物持ったげるからね」
「ま、まだ平気‥‥って、タエのほうこそ荷物パンパンじゃないの。足手まといになりやすい私が言うのもなんだけど、無理しないようにね」
「荷物なら、まだ私の宝箱に余裕があるから、いつでも言ってね‥‥けど正直、私自身もちょっと休みたいのよね」
「きついかレティシア? おい隼人、体力のない奴のカバーしながら進むぞ」
 ジョニーはそう言うと、おもむろにレティシアを背中におぶる。
「きゃっ? あ、ありがと‥‥助かったわ」
「My Pleasure(気にするな)、困った時は助け合うのが仲間ってもんだろ? なあ隼人」
「そういうこった、だから遠慮すんなって初音‥‥おぎゃあ!? なにすっだ妙子!?」
「なにすっだじゃないわよ、こっの変態! 指の動きがいやらしすぎるのよ!」
「だ、だからってトゥナックルで蹴るヤツがあるかよ――っと、誰だ?」
 痛みで膝をついていた隼人だが、その背に体重を預ける者があった。隼人はそれをしっかり背負い上げ、その手で何者か探ろうとする。
「ふむ、この軽さ、このペッタンコ具合‥‥そしてこの未成熟なカンジは、ずばりマイアだな!? ムフフ♪ 役得役得♪」
「未成熟なカラダだなんて、恥ずかしくなってしまうのう、ひょっひょ」
「って婆さんかよ! 婆さんは飛べんだろーが!?」
「それを言うなら、マイアの嬢ちゃんも飛べるんじゃよ。のうマイアちゃん?」
「はいっ、同じ地のエンジェリングですからっ。隼人さん、ちゃんとセクハラしないで、おばあさんを背負ってあげてくださいね‥‥?」
「するかっての! ってかばーさん尻を揉むな尻をォ!?」
「うわ、セクハラ魔人がセクハラされてる‥‥めったに見られない図ね」
「見てないで助けろレティシアぁ!」
「ひょっひょっひょ、役得、役得」




 こうして順調に奥へと進んだSINNの一行は、いつしか『Xのテリトリー』へと足を踏み入れる――人間の侵入を許さぬエメスは、即座にその排除へと動き出す。
 そしてそれを最初に察知したのは、植物の意識を通したマイアの魔法感覚だった。

「はっ? 向こうから‥‥空飛ぶ石像さんが来るのですよっ!」
「隼人、前方は食い止めるぞ! レティシア、バックスへの指示は頼んだ!」
「わかったわジョニー」
「おいでなすったか――主よ、天に代わりて魔を打ち砕く聖なる牙へ力を与えたもう」
 隼人は短い祈りを捧げる――超技魔法・カウンターフォースである。木々の間を縫うように飛行するは、石の翼を有する、悪魔をかたどったエメス、ガーゴイル。その鋭い爪が、目を閉じた隼人に襲うが、隼人は直前で目を見開き、逆手に構えたナイフを振りおろした!
「当たるかノロマめ! 喰らえ、反撃の餓狼!」
「カウンタークラッシュか、やるじゃねえか。俺も行くぜ!」
 ジョニーの白銀の日本刀も、そのガーゴイルを切り裂いた。硬い石のボディでさえ、この二人は易々と切り裂いてみせるのだ。その流麗な体裁きを見た歩夢は、自身の表情を硬いものへと変えていく。
「さすがは一流のパラディンコンビ‥‥学ぶ事は多いな。だが私とて、見ているだけではないッ!」
 歩夢は物理法則を無視した挙動で、高々と跳び上がった。赤鼻の聖面の魔力だ。彼女の耳は、側方から迫る別のガーゴイルを捉えており、その急降下アタックを防ぐべく、ウォーハンマーを振り上げ、そして叩きつけた。
 妙子に、ラビエルの環でサナティをチャージしていた初音は、目の前に振ってきたエメスに小さく悲鳴をあげる。
「さがって初音!」
 妙子はすかさず石像を蹴り飛ばす、と同時に轟音――グラビィタの重力波である。手応えはあったが――
「えへっ、いただきっ! ‥‥って固っ!? あぐっ」
「タエ!? このっ‥‥だめ、サンクトゥアリィが使えない‥‥!」
「初級だと、範囲が狭くて速い相手には難しいのですっ!」
「初音、マイア! 下がって、蓮華さんがやってくれるわ!」
「その通りじゃレティシア殿。このおばば、石より硬くできているでなぁ」
 皆を守るように飛び込んだ蓮華は、その華奢な体からは考えられぬタフさを発揮した。敵の斬撃をものともしない――その秘密は、サンウリエルのアルマーにあった。その隙にレティシアはライフルを撃ち込みガーゴイルにヒビを入れ、妙子と歩夢の同時攻撃がその身体を粉々に砕いた。前方では3体めのガーゴイルが出現していたが、ジョニーと隼人は、これもあっさりと撃破してしまった。




 森が急に開けてきた――と同時に、巨大な三体の影が太陽を覆った。居住区にいたエメスも侵入者に反応したのだ。
「やれやれ、ソルムゴーレムかよ。こいつは面倒くさそうな相手だぜ。隼人! 歩夢! 妙子! 油断するなよ!」
「いっちょ派手に暴れてやろーぜ相棒!」
 隼人は誰よりも早く飛び出し、ヴォーロによる加速を活かして一体を翻弄し始めた。背後に回り超連続回転蹴りを見舞うが、思ったほどの手応えが得られなかったため、ナイフを握り直す。
「うるぁ! こいつなら石コロだろーが鋼鉄だろーがなます斬りにしてやんぜ!」
 隼人とジョニーが一体を受け持つなか、妙子はもう一体に、引き絞った弓を射つ。それは正確に顔面を捉えた、が。
「BAAAANG、命中っ♪ って全然効いてないじゃん! うわっコッチ来る!?」
「こいつはおばばに任せるがええ!」
 蓮華だ。まるで毒蛾のように、もとい妖精のように飛んでまとわりつき、ゴーレムの気を惹きつける。その太い腕でラリアットを食らっても、蓮華は哄笑をやめようとしない。
「歩夢、今のうちに、アレを止めるわよ!」
「了解だ、レティシア」
 レティシアはフリーズパペットで、歩夢はグラキスで、凍結の魔力を秘め三体目に迫る。
「私のパペットは凶暴よ。見せてあげるわ!」
「いかに硬い敵であれ、動けなければ良い的かサンドバッグだ。凍っときな」
 凍てつく声と拳とパペットが、徐々に巨体の動きを鎮め、やがてその動きを完全に停止させる――その向こうでは蓮華の強烈な重力波・テラが繰り返され、もう一体が完全に崩落。
「おばあちゃん、すごいのです‥‥一人でやっつけちゃったのです! マイアも、あんなふうになりたいのです‥‥」
 そして、さらに。
「うららららら! 木偶の坊が沈みやがれぃ!」
「こいつで終わりだ、エルプティ!」
 ジョニーの日本刀が振り下ろされ、同時に爆音が密林を満たす。これが決定打となり、このゴーレムも瓦解。凍結により行動不能になっていた残る一体も、皆の追撃で破壊された。
 その後別のガーゴイルの襲撃もあったが、皆はそつなく撃退。ジャングルは再び、静けさを取り戻した。

「ふぅ‥‥これで全部かなっ! 初音、無事?」
「大丈夫よ、おつかれ、タエ。でも、すごいわね先輩たちは。あんな巨大な敵を楽々と‥‥」
「ほんとなのです。あ、歩夢さんにサナティしてくるのです」
「ああ、すまない‥‥ありがとーマイアちゃん! ハグ〜♪」
「はわっ?」




「ところで、ここ、は‥‥何なの、ですか‥‥?」
「工房、じゃないよね」
「なにか、思っていたのと違う雰囲気ね‥‥ここは、なにか害をもたらすような場所なのかしら?」
 マイア、妙子、初音が戸惑うのも無理はない――広がっていた光景は、こじんまりした小屋に、小さな畑、そして原始的な厩舎なのだから。
「何故こんなところにエメスが‥‥え? ヤギさん? おまけに鶏さんと豚さん? なんだろ、エメスがここで生活してたってこと?」
「たしかに居住区のようだが、エメスは“生活”はしないんじゃねえかな、歩夢‥‥とはいえ、人の気配もないようだな」
「なぜじゃ、なぜ婆の行き先には良いおのこがいないのじゃ。のう隼人?」
「って言いながら俺に迫るなよばーさん!?」
「えっ!? ‥‥巨人さんが、ヤギさんのお世話を‥‥?」
 出し抜けにマイアが言った。なんの事だろう、と皆がいぶかしむ――無理もない。今ここにいるSINNは、実際にエメスが動物を世話する姿は見ていないのだ。彼らは侵入者を捕捉した結果、ただちに排除を優先させたのだから。
 だがマイアにだけは見えていた――サンウリエルの魔力。付近の植物が見た直近のイメージを、脳内に呼び込んだのだ。茫然とするマイア。ジョニーは問いただそうか迷ったが、そっとしておく事にする。
「ひとまず何か情報がないか調べてみるか」

 深く調べるまでもなかった。小屋の中には白骨の死体があり、机の上にはX氏の日誌がそのまま置いてあったのだから。
 目的も動機も書かれていない、事務的な日報。自己を証明する記述も皆無。だがそれを読む事で、ここに“工房”から逃れた何者かが、エメスと共に生活を営んでいた事だけは窺えた。

「さっき倒したエメスが、ここを作ったり、動物さんたちを世話してたってこと、だよ、ね? ジョニー君?」
「みたいだな歩夢。で、この骨が、日誌の主ってワケか。何かの要因で死んじまったようだが‥‥主亡き後も命令に従って守り続けてたとは、少し哀れに思えちまうな」
「でも、わからないです。ドラクルの命令でこうしてたわけじゃなさそうだけど、だとしたらここを作った人は、一体どんな気持ちで‥‥」
「初音、私には少し解る気がするわ。この日誌の端々から、同じ研究者としての感性が窺えるの‥‥ここは一人の科学者の、錬金術師の、夢の跡なのよ」
「科学者の夢ぇ? 馬っ鹿みたい、そんなのわかんないよ、レティシア。こんな場所に一人ぼっちで何をするつもりだったわけ?」
「ちょっとタエ!」
 初音は友人の妙子を制止するが、ひどく震えるマイアに気づいたのは、その少し後。
「エメス達をどう想っていたのか、何を求めていたのか‥‥うーん。幸せだったのかしら、ね。その人も、エメス達も‥‥ってマイアちゃん、泣いてるの? 大丈夫?」
「うう‥‥動物さんたちにしてみたら、倒したエメスさんも、きっとおともだちだったと思うのです‥‥」
 マイアは涙をこぼしたまま、ふらふらと外に出ると、のんびりと草をはむヤギに抱きついて、また泣いた。
「ごめんなさい、なのです‥‥っ」
「‥‥ホラ、塩昆布やるから、泣くなよ。日が暮れる前に帰らなきゃよ。夜のジャングルは野獣の世界だ」
 隼人はぐずるマイアをなんとか抱き起こし、皆に撤収の合図をする。初音はそっと、厩舎を開放しておく。家畜を連れて帰る事などできないからだ。だがこの動物達が、このジャングルに解き放たれて生き延びられる可能性などほとんどない事も、初音にはわかっていた。

 口数の少ない帰路の途中、歩夢は言った。
「でも、これで平和に‥‥なったんだよね?」
「もちろんよ。エメスを止める手段は、私達には破壊するしかなかった。放っておけば人間の犠牲者が出ていたに違いないもの。それにあの家畜は、どのみち――」
 どのみち、あの男に食用にされたはずなのだ――しかし、そんな事を言っても、誰の慰めにもならないとわかっていたので、レティシアはまた、口を閉じた。



●スタッフ


レティシア・モローアッチ(sa0070):雨月れん
ジョニー・ジョーンズ(sa2517):ななみー
狼牙 隼人(sa8584):大和 稟
近衛 蓮華(sg0016):若城八千代
鷹羽 歩夢(sj1664):佐倉時雨
マイア・イェルワジ(sj7576):くろあ
児玉 初音(sp1503):岩永彩希
鷺沼 妙子(sp1602):鏑木はる
ナレーション:瀬良ハルカ

音楽:魔王魂 他
原作:北野旅人
編集:成瀬 健(REXi)
企画:大田奏音(REXi)
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