狂う陽月、炎となす

担当マスター:真名木風由
開始15/01/07 22:00 タイプショート オプションお任せオプションフレンドオプションEXオプション
状況 SLvB 参加/募集6/8 人
料金1500 分類事件
舞台国日本 難易度難しい

◆周辺地図
参加者一覧
メイリア・フォーサイス(sa1823)A風 狼牙 隼人(sa8584)P風 須経 蘭華(sb0118)E地 アドリアン・メルクーシン(sb5618)P火
アルフォンス・ヴィヴィエ(sf9647)A地 玖月 水織(sh0007)H水
オープニング
●恐るべき接触
 エルネスト・ブノワ(sz0035)から提示された資料を手に取る。
 『自分』が今、どういう表情をしているのか正直分からない。
「陽炎の軍勢の頂点に立つベリアルが、紅グループ総帥紅 玄暁(ホン シュエンシャオ)として、来日する」

 表向きの目的は、秋葉原にあるカフェビル『酒池肉林』への来訪。
 企業として、社員教育にも力を入れている紅グループは、社員教育に力を注ぎ、顧客満足度が高い『酒池肉林』の現場を視察したいという意向らしい。
 曰く、外食産業にも目を向けているとのことで、サービス分野で成果を挙げている『酒池肉林』を参考にしたい、とのこと。
 これらは、年末に行われたラジオルークスを乗っ取ったあす★らばの動画放送でリアルタイム投稿より玄暁が接触を行って実現したものだと言う。

「だが、彼らは人間ではない」
 エルネストは、静かに言う。
 彼らの正体は、軍勢の頂点に立つ魔王だ。
 その邂逅の末、両軍勢が手を組むことも十分ありうる。
 まして、年末に陽炎の軍勢が『プロジェクト・アーク』という『旧世界の破壊と理想世界の創造』を概要としたプロジェクトを動かしていることが判明している。
 また、彼らは人工的に悪魔を作り出す研究をしているのだ。
 それが、『狂月の軍勢』に結びついた場合、彼らが人に齎す熱狂は、喜んでその身を悪魔に捧げさせるものになるだろう。
 概要しか分からないプロジェクトが大きく動くと思ったからこそ、ベリアルも接触を考えたと見ていいだろう。
「本日、彼はチャーター便で羽田に到着する。出迎えもあるだろう。軍勢同士の接触を阻止する必要がある」
 最悪、戦闘も考慮しなくてはならない。

 何故、ベリアルを中国で足止めしないか。

 言うまでもなく、それ程ルークス教の影響力が中国ではなく、紅グループに掌握されており、中国で下手に動くより、影響力が致命的に落ちていない日本の方が成功率が高いと判断された為である。
 『狂月の軍勢』の熱狂が日本の中枢にも浸透しつつある今、これを加速させる訳にはいかない。
「空港内は、要人来日によるテロ対策の一環として、警備として入る。装備も通常よりは出来るだろうが、魔王が本物であるならば───全力でいかなければ全滅もありうる」
 感情を乗せず話すエルネスト。
 先日の任務で唯一救出された彼の心情は察するに余りあるが、今は置いてもらわねばならない。

 邂逅を許せば、彼と同じ思いをする者が出るだろうから。

●悠然と微笑む
「私の留守中は、よろしく頼むよ」
 紅グループ総帥である玄暁は、空港で見送る、総帥秘書のケヴィン・エルフィスに声をかけた。
「業務は滞りなく進めてまいります。───副室長、総帥をよろしくお願いします」
「心得ております」
 玄暁に恭しく頭を下げたケヴィンに中年の男が頭を下げた。
「あらゆる面において、総帥を補佐しましょう。ケヴィン様が憂われることがないよう」
「頼もしいね。ところで、我々が回収した芭蕉扇、彼の御仁から譲り受けた魔笛の復元状況はどうだい?」
「こちらに。機内にてご報告します」
 報告書を指し示すその男の名は、王 壱紅(ワン イーホン)。
 切れ長の眼差しが印象的なその男は、秘書室の副室長の立場の者。
 秘書の中では、ケヴィンに次ぐ地位を持っており、今回業務で離れられないケヴィンに代わり、来日するのだ。

●大忙し!
 アスモデウスは、サイン色紙の山に埋もれていた。
「終わらねぇなぁ!」
「サインくらい誰かに書かせればいいのに」
 手を止めて、伸びをするアスモデウスにモロクがイヤそうな顔をする。
「バッカ、アイドルがそんなことしてもいいと思ってんのか! ったく、モロクはアイドル精神がなっちゃいねぇ。って、やっべ、終わってねぇのに時間じゃねーか!」
 モロクに説教したアスモデウスは、そろそろ出立しなければ間に合わないことに気づいた。
「仕方ねぇな、マモーン、レンレン呼んでー!」

 程なくして、若い青年がやってきた。
「水月 恋(ミナヅキ レン)、参りましたっ!」
「おー、お前、ちょっと頼まれごとしてくんね?」
 アスモデウスがニカッと笑う。
「勿論! アスモデウス様の為なら、俺、何をしてもいいです!!」
「お前ちゃんは相変わらず可愛い奴だ! それでこそ、俺様ちゃん様の親衛隊隊長だ!」
 その言葉に気を良くしたアスモデウスが笑うと、青年は嬉しそうに笑う。
 自分を呼んだマモンが封筒を渡す。
「エヘヘ、これ、現地までの交通費。一番安いルートで行くんだよ?」
 不思議そうな彼に、アスモデウスは自分と共に羽田に行くという大役を授けるのだった。

●邂逅させるな
 SINN達は、空港へとやってきた。
 もう間もなく、チャーター機が到着する筈だ。
 何としても阻まなくては。
 そう思うSINN達の視界にピンクが横切り、振り返る。
 アスモデウスが、見知らぬ青年と共に歩いていた。

 事態は、加速する───

◆登場NPC

 エルネスト・ブノワ(sz0035)・♂・32歳・パラディン・火・信者

◆マスターより

こんにちは、真名木風由です。
陽炎・狂月両軍勢に絡む重要なシナリオを担当いたします。

●目的
・敵目的推察と共に邂逅阻止

●敵情報(PL情報)
陽炎サイド
・紅 玄暁(ベリアル)x1
・王 壱紅x1

狂月サイド
・アスモデウスx1
・水月 恋x1

※魔王が本物であるかどうかは不明。両者の側近は、半魔の可能性があります。

●NPC情報
エルネスト・ブノワ
強さは、MY PAGE参照。
指示がなければ、適切と判断する行動を取ります。
事態を理解している為、父親救出作戦時のように感情的な行動を取ることはありません。

●注意・補足事項
・人目があります。魔法使用・使用後の行動に配慮が必要です。隔離手段があるならば使った方がいいでしょう。
・半魔がいる場合は断罪するよう指示が出ています。
・SINNが動いていることを考察されていることは想定しておいた方がいいでしょう。考慮はし過ぎるということはない相手です。注意してください。

それでは、お待ちしております。
リプレイ

(搦め手と陰謀を得意とする陽炎、恐るべき熱狂を持つ狂月‥‥結びついたら、手がつけられなくなるレベルではありません)
 須経 蘭華(sb0118)は、危機感を感じていた。
 何としてでも邂逅を阻止しないと、アジア全土が手遅れになる。
 目線を交わし、自分達がすべきことを各々確認したSINN達は、即座に動く。
 効果時間が長い魔法については各々成就済みで、蘭華は感知した結果を首を振ることで、去る直前の皆に伝えた。
 この反応は、上級ディアボルスのもの。
 つまり、魔王アスモデウスではなく、ファルスだ。
 モンスター知識の観点より、擬態解除すればその能力を思い出すことは出来ないだろうが、ディプレンドの感知結果があれば、本物ではないと判別することは可能だろう。
 まずは、狂月サイドが本物の魔王を派遣していないことに安堵した。
(ですが、ファルスとは言え、一般の方が見破れるものではありません)
 蘭華は、日本国内におけるアスモデウスの影響力を見落としてはいない。
 恐るべき熱狂を与えているアイドルとして日本全国に名を知られている今、表立った戦闘は得策ではない。
「あら、偶然ですね。ご旅行ですか?」
 蘭華が偶然の遭遇を装い、アスモデウスと見知らぬ青年に声をかける。
「おう、お前ちゃんか! 何だ、俺ちゃん様に会いに来たのか、仕方ねぇヤツだな!」
 アスモデウスは、平行運行の笑みを蘭華に向けた。
「アスモデウス様、急がないと間に合わないですよ?」
「ああ、そうだな! 悪いな、俺っち、先約あるんだわ。また、『酒池肉林』来いよ!」
「ご一緒して良いですか?」
 青年に促され、歩き始めたアスモデウスに蘭華がさりげなく同行しようとする。
 時間稼ぎやその目的を探る、アスモデウス自体も面白いとあれば、長く引き止めたいのだが。
「悪ぃな、ちょーっと俺ちゃんの大事な客なんだわ」
「まぁ、そう言わずに───」
「何ですか、あなたは」
 断るアスモデウスをのらりくらりとやり過ごそうとした瞬間、青年がその言葉を遮った。
「アスモデウス様と面識がある方とは言え、非常識じゃないですか? 付け回すのは、単純に迷惑ですよ」
 周囲に聞かせるような声。
 蘭華は、青年の存在を計算していなかった自分の迂闊さに気づく。
 視線が、集まる。


 アルフォンス・ヴィヴィエ(sf9647)は、他のSINN達とは別に空港入りしていた。
 目的は、テロ対策警備として入る自分達が動きやすいよう空港側の警備に便宜を図る為である。
(根回しは念入りにしておきたかったけど、流石に場所が悪かったね)
 手軽に動画を保存出来るスマートホンを制限したかったのだが、空港に訪れる人の数、この空港に向かっている飛行機の乗客の所持を考えれば、現実的ではない。
 ならば、動画を保存してもそれを規制すれば、とも思ったが、ネットの世界を完全に制御することは困難だろう。
 報道管制を敷けば、多少歯止めになるかとも思ったが、あす★らばがデビューし、熱狂を起こしている時点で、マスコミが彼らの味方でない理由がない。
 事前準備もかなり必要であることもそうだが、この事実は報道への根回しを躊躇わせる。
 アメリカの大規模作戦の際、電波ジャックを行い、発信した情報が齎した影響の大きさを忘れてはならないのだ。
「では、一緒にお出迎えをお願いします」
 確認を終えた警備の責任者が、思考中のアルフォンスへ声をかけてくる。
 テロの警備の名目で空港に入り、その便宜を図る為に空港の警備サイドに接触を行えば、そうした話の流れは当然だろう。
 狂月サイドの対応に入っていると連絡があった蘭華と合流し、芸能記者を装い、取材と称した足止めを行うことを考えていたのに、計算外だ。
 が、あくまで警備責任者としての依頼である為、ここで断り、有事が発生した場合に齎される悪影響は無視出来なかった。
「分かりました。同行します」
 アルフォンスは、そう答える。
 最優先事項である、邂逅阻止が出来れば───
 しかし、到着間近となり、アルフォンスが警備責任者と移動を開始すると、何やら騒がしい。
 視線を向ければ、アスモデウスの隣にいる青年が大声で蘭華に何か言っている。
「騒ぎですね。到着間近ですし、事態を沈静しましょう」
 警備責任者が部下に指示を出す。
 程なく、騒ぎは収まるが───
「事前に連絡があったお迎えの方ですね」
 事情聴取されたアスモデウスと青年が紅グループの出迎えと判明し、警備責任者がアスモデウス達を案内することとなってしまった。
 警備の一環として、混乱を防ぐ為に声をかけたと主張した蘭華も同行を許されたが、アルフォンスの尽力で待ち伏せする必要がなくなったSINN達へ連絡を入れねばならない事態となり、状況改善は、陽炎サイドの対応に動くSINN達に委ねられた。


 チャーター機が、到着する。
 アルフォンスの根回しのお陰で待ち伏せすることなく、不自然ない状態でチャーター機付近に警備として配置したSINN達は、その時を待っていた。
「紅グループとして、ビジネス目的があるなら紙面資料を持ってる可能性は高いだろ」
 不自然ない声の大きさで皆に提案するのは、狼牙 隼人(sa8584)。
 警備としての配置になった為に剣をギターケースに入れて偽装する必要はこの場においてはないが、相手の出方が不透明である以上油断は出来ない。
「本当に重要な情報は、紙面だろうな」
 応じたのは、エルネスト・ブノワ(sz0035)。
 これは、重要情報を重要と認識し、その保管を重視している企業全般に言えることだが、原則重要な情報は紙面媒体、または独自のネットワーク内である。紙面媒体で保存されている場合、その書類は、限られたエリアで保管されており、IDカードや入出名簿でエリア内の出入りを管理した上で、持ち出し厳禁で扱われていることが多い。
 が、ビジネスの相手として、対等の魔王を選んでいるなら、この限りではない可能性もある。
「奪取出来れば良いのですが」
 そう呟くのは、玖月 水織(sh0007)。
 何とかチャーター機到着時は、自分達以外の者を遠ざけることに成功はしているが、警備担当者が警備上の理由でこちらへ来ることは防ぎきれず、自分達だけで彼らと接触する時間はごく僅か。
(完全排除が良かったのですが、職務上それが出来ないのは、立場を考えれば当然ですね)
 責任ある立場であればある程不測の事態に備えるもの、彼らには彼らの職務があるのだから。
「人目に関しては、注意する他ないでしょう。邂逅させないこと、お帰りになっていただくのが一番ありがたいですが」
 アドリアン・メルクーシン(sb5618)が、小さく呟く。
 が、そんな簡単な問題ではないことは、分かる。
 車や電車での移動とは訳が違う。
 聞くような相手でもないことも承知している。
 だが、言わずにはいられないだけのことだ。
「介入を許さねぇなら、出会い頭に仕掛けるしかねぇだろ。僅かでもここには俺達しかいねぇ」
「そうですねー、会話をするにしても───」
 メイリア・フォーサイス(sa1823)が、言いかけたその瞬間。
 蘭華より、狂月サイドの足止め失敗の連絡が入る。
 起こした騒ぎを聞きつけた警備責任者が狂月サイドの彼らに事情聴取、出迎えと判明してしまった為、警備上の観点よりこちらへ連れて来ると言う。
 が、チャーター機のドアが開かない限り、サンクトゥアリィをした際のロスが大きいものとなる。
 最も早くドアを破壊出来るのは、アルフォンスのテラだろうが、彼はこの場にいる訳ではなく、パラディンの攻撃による強行突破の場合、ドアが破られた瞬間を狙った不意を打たれやすい。
 彼らが来る前に───SINN達の間に焦りが走った、その時だ。
 ドアが、開く。
 艶やかな銀の髪を風に靡かせた眉目秀麗の青年。
 後に続くのは、ケヴィン・エルフィスではなく、中年の男。
 彼らが、自分達を見る。
 『一般人ではない』彼らが、メイリアの天使の環を視認したのだろうというのは、説明されずとも分かる。
 瞬間、メイリアは、淡いエメラルドグリーンの翼を広げた。
 効果時間を成就してのサンクトゥアリィは、ひとまず一般人の介入を防ぐことが出来る。
 空港という立地上、他の飛行機などが取り込まれないよう位置取りにも注意した為、それらの介入もない。
 が───
『すみません、取り込まれました』
 蘭華の通信が即座に入る。
 メイリアのサンクトゥアリィは、取り込む範囲が広い。
 それ故に、接近していた彼らも十分入る距離にいたのだ。
 視線を移せば、こちらに向けて走ってくるアスモデウス、追いかける青年、蘭華とアルフォンスの姿が見える。
 アルフォンスのサンクトゥアリィも取り込む範囲が広い為、自分達の隔離だけを行うことは出来ない。
 二重に張るよりは、効果時間間際まで見極めた方がいいだろう。
「おや、日本の空港は随分静かだね」
 青年、紅グループ総帥紅 玄暁(ホン シュエンシャオ)を名乗るベリアルは、悠然とした笑みを浮かべた。
「要人がいらっしゃっておりますから。どのようなご用向きかお伺いしたく。出来れば、何事もなく、お帰りいただきたいですね」
 アドリアンの言葉は丁寧だが、心の感情を隠し切れてはいない。
 かつて、死者の間に生じた金色の亀裂の中で遭遇した魔王ベリアルにしてやられた経験を持つが、当然現実の彼が知る筈もなく、アドリアン個人に対する感情はない。
「ビジネスさ。有意義な仕事の話をするだけのことだよ」
 ベリアルの微笑は、崩れない。
「では、何の目的のビジネス、ですかー?」
 メイリアが切り込んだ。
「彼らの、人心を掌握する力は魅力的かもしれませんけど、それだけには思えませーん」
「へえ?」
「協力体制を取ることで、彼らを利用しようとしているのではないのですかー?」
 メイリアは、彼らがそうした手段に長けると思うからこそ警戒していた。
 例えば、『アレクサンドリア図書館』で彼らが入手した聖櫃。
 協力体制になれば、手に入るチャンスもあるだろう。
 例えば、人材補強。
 海魔の軍勢にいた筈のベルフェゴールが裏切り、陽炎の軍勢に所属したのなら、モロクにその手を伸ばしたとしても不思議ではない。
「君の見解は興味深いね」
 くすり、とベリアルは笑った。
 その笑みから、メイリアは自身の問いが的確なものであったのかどうかを推し量れない。
「私は彼らとは良好な関係を保ちたいと思っているだけなんだけれどね。勿論───君達とも仲良くしたいのだがね」
「ありえません」
 水織の冷えた声が静寂に響く。
 けれど、ベリアルの微笑が崩れることはない。
 アドリアンの銃口が、その瞬間ベリアルに向かって向いた。
「真の目的を語っていただかなければ困ります」
 鋭い眼差しには、躊躇いがない。
「そのくらいの余裕はあるのだろう、魔王よ。それとも。どんな小さなことも知られたくないくらい、我々に対して弱気だとでも? 目的を、明かせ!」
 恫喝とも言える言葉に対しても、ベリアルの微笑は何も崩れない。
「私が話したいと思うだけの対価を君は支払えるのかな? こちらもビジネスなのでね」
「貴様───」
「そのベリアルは、ファルスです!!」
 いよいよ許し難いアドリアンが攻撃を開始しようとした、瞬間。
 蘭華の声が、響いた。
 しかし、もうアスモデウスと青年が接近している!
 どちらも魔王ではない、ないが───
 蘭華の声で一瞬、注意がそちらへ向いた瞬間、ベリアルはその擬態を解いた。
 紅蓮の翼を抱く本性を見せたと同時に事態が動く。
 魔結界に備え、カルマを成就出来るメイリア、隼人がそれぞれ成就、しかし、魔結界は恐らく展開された。
「お、何、お前ちゃんが頑張るの? よーっし、応援しちゃる!」
「ありがとう」
 到着したアスモデウスは、戦いの余波がなさそうな場所に歩いていく。
 青年が、羽織っていたジャケットを敷いた。
「お前ちゃんは、気が利くな! サンキュ!」
「アスモデウス様の為なら当然ですよ」
 笑うアスモデウスに青年が微笑んでいる。
 あちらは、現在介入するつもりがないなら───
 SINN達は、翼を広げたベリアルに向き直った。


 ベリアルが滑るように空を飛んでくる。
 追うようにして、中年の男も続くようにしてタラップを駆け下りてきた。
(何だ、あの男)
 隼人は、中年の男が出会ったことがあるような気がして、眉を顰めた。
 それも束の間、ベリアルはエルネストへ向けて、剣を繰り出している。
 盾を繰り出して応戦するもベリアルは徹底的にエルネストを狙うつもりらしく、攻撃の手を緩めない。
「エル‥‥!」
 サンラファエルの成就で空を舞っていたメイリアがアエルの乱気流で援護に入るが、ベリアルの攻撃に躊躇の色は見られない。
「随分と彼にご執心のようだな、ファルス風情が」
 アドリアンが側面からベリアルに銃撃を浴びせようとするが、カルマの範囲を考えての位置取りとなる為、十分な距離が得られない。
 エルネストを射線に入れるように立ち回るベリアルが、にっこり笑った。
「こちらの彼、そちらのお嬢さんの大切な人なのだろう? この彼が福州で困った時に対面していた彼が、こちらの彼と出会うようならば念入りにご挨拶をしておいてほしいと頼んできたものでね。あの彼が頼みごとをするのは珍しいから、私も興味が沸いてね」
 アドリアンは眉を顰めたが、メイリアは何のことかすぐに気づいた。
 エルネストを救出した際に戦った、あの星が、それを望んだと言うのか。
「エル、十分引きつけとけよ」
 逆に好機にすべきと判断し、隼人が地を蹴る。
 フォースで強化された自分がエルネストを集中攻撃するベリアルに対応すれば、ベリアルも無事ではすまない。
 攻撃を重ねれば、グラキスの恩恵もあるやもしれない。
「娘が、お世話になりました」
 攻撃を開始しようとした瞬間、穏やかな声が響く。
 中年の男のもの、と隼人が認識する分には、十分だ。
「むす‥‥め‥‥?」
 日本語で話されていた為に話についていけないアルフォンスに蘭華がすぐさま通訳のフォローに入る。
「ええ。壱華、あなた方には星 貪狼の名を出した方がよろしいかもしれませんね」
「てめぇ、父親ならアイツのこと───」
「幼少の頃、離婚しておりますから。あれも、私を父親とは思ってはいなかったでしょう」
 隼人の怒りを抑えた声にも動じないその男は、ですが、と続けた。
「こちらも娘がいる星一族を総帥にプロジェクトの重要な一手を担う人材として紹介した手前、あなた方には困っておりまして」
 瞬間、大津波の幻影がSINN達を襲った。
 精神力で抗えなかった隼人、アドリアン、水織、エルネストの顔に緊張が走る。
 純粋な精神力の高さで抗った蘭華、ベツレヘム星章の恩恵で耐え抜いたメイリア、そして、アクアリオの恩恵か、耐え抜くことが出来たアルフォンスは影響はないが───
「『わたしをまもってくれないかな』」
 ベリアルの声が、響く。
 行使された言霊に対し、アドリアンとエルネストが抗い切れなかった。
 大津波の幻影は、抗う力を削ぎ落としているのだ。
「何とか、今のは無事でしたが───」
 水織が、危機感を覚える。
 恐らく、ベツレヘムのネックレスの恩恵だが、次はない。
「申し訳ないね、私もビジネスで来ているから」
「あなたの、目的ですか?」
 水織が悪びれず微笑むベリアルを見る。
 言霊を扱ったのなら、魅了を行使される可能性もあり、その目を見て話すことは出来ない。
「あなたの目的は、理想と謳う世界の創造。ならば、昔我らとあったのも今そうであるのもそれ故ですか」
 錬金術の祖ヘルメスが、魔王ベリアルならば。
 その過程の真実は、何か。
 人を見続けてきた結果故の必要か、それもと変容か。
 いや、予定調和か。
「人の理想は変わるものさ。人だったから理想は変わった。悪魔になったから、もう理想は変わらないね」
 ふわり、とした微笑。
 目を見る危険性がある為にそこから真意を推察出来ない。
 けれど、言うべき言葉はある。
「あなたを、私は容認しない」
 人が人である範囲で許された術で命を救う、その道を選んだからこそ。
 彼は、救っているのかもしれない。
 怪我も病も恐れることなく、多くの死から守られることが出来るのなら。
 だが、それはもう、人ではない。
 人は、有限。
 故の輝きを持つのだから。
「あなたの言葉は、誰もが魅力に感じるでしょう。切に焦がれ、永遠をそこに見る。けれど、許されるものではない」
 その究極は追い求めても、達してはいけないのだ。
「私は───」
「『わたしのためにたたかってくれないかな』」
 決意を封じるようにベリアルが言霊を行使───今度は、抗えなかった。


 アドリアン、エルネストに続き、水織がベリアルを守るように陣取る。
「テラを撃つには、彼らが壁になる」
 アルフォンスが厳しい表情を浮かべる。
 彼のテラは極められているが故に的確に決まれば、その被害は大きい。
 動きを封じるべく、まずは射手であるアドリアンを封じる為に蘭華がキニスイーターを振るうが、一時アドリアンを拘束したその鞭は、エルネストの剣が叩き切った。
 しかし、陣形が変わったことは変わりなく、隼人がベリアルを狙いに行く。
「君は、対策をしているようだね」
 隼人が言霊に2度抗ったのには、理由があるとベリアルは見抜いている。
 そう、隼人は灰色の聖典を有しており、精神に累を及ぼす効果を持つ特殊能力、つまり言霊のような力に対しては対策を取っていたのだ。
 ただし、その回数は、あと1回───その後は、削ぎ落とされた状態で抗わなければならない。
 元々、そうした力に抗う能力は長けている上、蘭華が成就しているベネディクタを彼女からの贈り物である指輪で効果を強めている為に抗う公算はあるのだが、いつも通りではない。
「うるせぇっ!」
 短く叫ぶ隼人が攻撃を繰り出そうとした、その時だ。
 その体勢が、崩れた。
 見ると、自分の側面に、水織の黒衣パペットがいる。
 有事の際に、透明化させていたそのパペットは、言霊の支配下に水織がいる今、最も警戒しなければならない不意打ちであった。
 畳み掛けるようにして、水織の雪ん子パペットが繰り出される。
 水織のパペットは、フリーズパペットで強化されているのだ、今抗う力が落ちている自分が手数重視で食らうのは、凍結効果の付与を受け、行動が大幅に制限される可能性を意味する。
「すまねぇ!」
 やむなく、隼人は雪ん子パペットに強烈な蹴りを叩き込んで、沈黙。
 が、ベリアルの剣が目前へ迫っており、雪ん子パペットを対応していた為に反応が出来ず、聖面が叩き割れた。
 怯んでいる場合ではない、と隼人は、エクスカリバーでベリアルの時を停止させてから、後方に迫っていた男へ反転する。
「あいつが、あいつが、最期に、どんな想いで‥‥!」
「愚かな娘です。何の役にも立たなかった」
 微笑と同時に返された言葉。
 上空よりアエルの乱気流を展開し、言霊の支配下にある3人の動きを制限させていたメイリアが情の欠片を感じない言葉を聞くや、怒りに震えた。
「あなたは‥‥自分の仕事に、自分の子を、自分の都合で‥‥!」
「それが何か?」
「許せません‥‥!」
「特に困ることはありません」
 その言葉と同時に吐き出されたのは、強烈な炎の息。
 隼人が巻き込まれたのを見、我に返ったメイリアはすぐさまサナティを成就、その傷を癒した。
「私は‥‥あの彼女は、家族だからという言葉を聞いたから、まだ彼女の為だけに倒す、そう思うことが出来ましたが‥‥」
 蘭華の言葉には、普段笑顔の下に全てを隠す彼女らしからぬ憤怒が乗っていた。
「あなただけは、許す訳にはいきません!」
「実に興味深い意見だね」
 チャクラムを投じようとした蘭華の背に、衝撃が走った。
 時間が動き出したベリアルが、蘭華に攻撃を叩き込んだのだ。
 アーメーンで『聖なる身体』を得ている蘭華にとって、そのダメージが深刻になるということはないが、不意の攻撃に対応出来ずにバランスを崩す。
「アルフォンスさん、私ごと撃ってください!」
 連続で受ける攻撃を逆に隙と考えた蘭華が、アルフォンスに指示を出した。
 ダメージがまだ深刻ではなく、自身ならばアルフォンスのテラも耐えることが出来る。
 ならば、確実に───
 しかし、そのアルフォンスの肩を銃弾が突き刺さった。
 言うまでもなく、アドリアンのもの。
 再三、繰り出される炎の息を食らって尚、アドリアンもエルネストも攻撃の手を止めない。
 彼らはレディンテグロの使い手であり、特にエルネストはビスティボルンで魔法力を増強し、効果上昇を行った上での成就である為、その再生能力は侮れるものではない。
 一瞬、躊躇したその瞬間、ベリアルがフォローに入ろうとした隼人を叩き切る。
 ヴォーロの効果時間は全て終了している彼の腹部から血飛沫が上がるも、メイリアのサナティはそれをきちんとフォローする。
 けれど、そのメイリア自身も治癒能力の高さより、水織からのチャクラム攻撃に晒されている。
 サンラファエルのアエルで射撃武器の軌道が逸れるよう気流を身に纏っているが、彼らを妨害する為の乱気流を展開することは同時には出来ない。
 この間に、ベリアルが魅了を行使したのか、隼人の灰色の聖典が破れた。
 これで、後がない。
「やむを得ないね」
 アルフォンスが小さく溜め息をつく。
 魔結界が終了し、一度スタート地点に全員が戻っても初期配置が計算されていた為に彼らの有利が覆らない。
 メイリアのサンクトゥアリィを上書きする形で張り直したが、何にしろ言霊の影響にある3人の攻撃が粘り強い。
「あいつら、やるなぁ。すげえじゃん!」
 アスモデウスが無邪気な声を上げている。
 さっきから、アスモデウスはずっとベリアルの応援をしているのだ。
 ならば───アルフォンスがテラをアスモデウスに向けて、撃った。
「アスモデウス様に何てことを!」
 しかし、その前に立っていた青年が、受け止める。
 何かが空間に響くも、青年自体にダメージがない。
 どうやら、悪魔魔法を展開し、何らかの力、恐らく不可視の盾を発現し、盾を失う引き換えにアスモデウスを守ったのだろう。
「レンレン、お前はやっぱ可愛い奴だなぁ!」
「アスモデウス様の為なら、何でもすると俺は誓いましたから」
 のんびりとした空気を他所に3人に守られるベリアルと彼女の父親が猛攻、蘭華とアルフォンスを狙おうとする為に隼人が防戦に徹しなければならなかった。
 やがて、現実へと戻る。


 全ての始まりの位置に戻ったSINN達、メイリアのサナティにまだ余裕はあり、サンクトゥアリィのメモリーを回復すれば、特殊空間の延長は可能だ。
 しかし、言霊の影響にあるSINNが3人おり、その状態を回復する術がない以上、戦闘の続行は危険と判断するしかなかった。
 が、隼人がタラップを降りてきた、彼女の父親の一瞬の隙を衝いて、最後のメタスタシスを成就、彼が手にしていたファイルの奪取を試みる。
「残念ですが、こちらには何もありません」
 隼人の考えが最初から分かっていたように彼は対応される。
 そう言えば、この男、的確なタイミングで言葉を投げてきていたし、的確なタイミングで攻撃を仕掛けてきた。
 その思考を、完全に理解しているかのように。
「総帥に報告した以上、それらを残すことはありません。総帥の頭にその事実が刻まれればそれで良いので」
「てめぇはどうなんだよ」
「一度見れば、全てデータは頭の中に。ならば、残す必要はございません」
 隼人に微笑んだ男は、走ってきたアスモデウスと握手するベリアルを見ながら、思い出したように言った。
「私は、王 壱紅(ワン イーホン)と申します。今日の所はこれにて」
 行かせるか、と阻むことは出来なかった。
 何故なら、空港の警備員、いや、それだけではない。
 空港の職員が次々とこちらへやってくる。
 熱狂する彼らに、蘭華が眉を顰める。
(アスモデウスさんは、本物ではない筈。なのに‥‥?)
「‥‥変じゃないですかー?」
 駆け寄ったメイリアに蘭華も頷く。。
「僕達に影響はないのもそうだけど、僕達に近い人はその影響を受けていない。何か行使しているのは間違いないだろうけど、今は確認している場合ではないし、追撃は出来ないだろうね」
 同意したアルフォンスの見解通り、これだけ人が来た上、彼らは熱狂状態。
 自分達が近づけば対策出来るかもしれないが、言霊の支配下から抜け出していない3人がいる以上、断念せざるを得ない。
 ベリアル、アスモデウス。
 彼らの邂逅、それだけではない。
 娘を自分の仕事の道具とした父親が、そこにいた。
 アスモデウスサイドの青年もテラを阻んだことより、半魔であるだろうが───
 彼らは、ただの半魔にしては、その能力が強いような気がした。
 それを確信するのは、まだこの時ではない。

 3人が言霊の支配下から抜け出たのは、彼らが空港を去り、恐らく秋葉原にある『酒池肉林』へ戻った頃だった。

「‥‥弁明のしようもありません」
 アドリアンは、短くそう言った。
 ベリアルに付き従う半魔がいる可能性が、なかった訳ではない。
 ならば、その半魔がどのような能力を継承しているかは考慮すべきだったと自らの迂闊さに立腹しているようだ。
「‥‥徒に戦線を掻き乱すなど‥‥」
 水織もまた、自身へ凄まじい立腹を覚えているようだ。
 人の命を人の範囲で救う術を求める者として、絶対に負けたくなかったのに。
(今日、この日そうであっても、私は、必ずあなたを止める)
 先を歩くなら、必ずそれを追い、何が何でも食い止める。
 彼が何の為にそれを目指すのか、その心がどうであろうとも。
 この心は、いつか必ずベリアルを止める一手を打つ。
「謝らなくていい、メイ。あなたが責めることではないよ」
 メイリアは、エルネストにひたすら謝っていた。
 戦闘当初、徹底的に狙われたのは、あの戦いで彼に言った自分の言動に起因するものであったから。
 メイリアがエルネストを愛するからこそ、彼はその情報を伝え、遭遇時は徹底的な攻撃を依頼したのだろう。
 その心情がどのようなものから来るのかは分からないが、メイリアはエルネストを危険に晒した自分が許せない。
「少なくとも、私はあなたが徹底的に狙われるよりはいい」
「でも‥‥」
 エルネストがあやすように抱きしめてくれる。
 優しい温もりが、逆に自分の言動の結果を思い知り、メイリアは涙を流した。


 彼らは、オーナー室にいた。
「レンレン、サンキューな! やっぱ頼りになるぜ! ゆっくり休めよ!」
「ありがとうございます、アスモデウス様」
 アスモデウスから労いの言葉を投げられたその青年は頭を下げる。
「助かったよ、名前を聞いていいかな」
「水月 恋です」
「覚えておくよ」
 ベリアルからも労われた、恋という名の青年がオーナー室を辞する。
 入れ替わりにマモンとモロクがやってきた。
 彼らだけではなく、客がいるようだ。
 平凡そうな、中国人男性。
 マモンが彼を案内し、モロクがドアを閉める。
 途中、壱紅が頭を下げるのを見、男性はアスモデウスの前へ歩いていく。
「お、元気そうじゃん」
 アスモデウスが歓迎の言葉を投げると、彼はにっこり笑った。
「やぁ、お久し振り」
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