【AS09】Apocalypsis SINN

担当マスター:楽市
開始15/03/02 22:00 タイプ全イベ オプションお任せオプション
状況 SLvD 参加/募集223/― 人
料金600 Rex 分類事件
舞台国ルークス 難易度至難

◆周辺地図
   

オープニング
●悪魔の王
 3月5日。
 何処までも落ちていきそうな、闇の底であった。
 かつて六体も存在した【懐の階位】も、魔界に逃れたマモンを除けば残っているのはそこに佇む彼のみとなった。
 ルキフグス。
 その名は「光を避ける者」を意味し、いにしえに明けの明星と謳われたルシファー(sz0010)に対し、その影として存在する魔将である。
「――主よ。ご気分はいかがでございますか」
 ルキフグスが、背筋を伸ばし、闇の底にある自らの主へと、呼びかけた。
「悪くはない。久しく忘れていた、力が満ちる感覚。‥‥やはり、高ぶるものがある」
 答えはあった。その声一つ、それだけにも、場を震わせそうな強大な圧力が伴っていた。
「然様であれば、よきことかと存じます」
 闇の向こう側にある魔王ルシファーの姿は、SINN達が知るものとは完全に違うものになっている。
 ディアボルス側が手にした、三つの封印。
 それは全て破壊され、魔王は、七つの束縛のうち半分近くから解き放たれたことになる。
 失われた力の半ばを取り戻したそれは、もはや、仙級ディアボルスという最上位のディアボルスとしてすら、規格外の力を得つつあった。
「アレは、どうしている」
「未だ、手にした力に苛まれているようでございます。安定するまでは数日かかるかと」
「そうか‥‥。ルキフグス、貴様の役目も終わりだな」
「ええ、そうでございますね。彼が神の子を凌駕し、世界を『罪』に満たしたならば、必ずや神は地に降り立ちましょう」
 満足げに、ルキフグスは頷く。
 戦う力を持たないこの魔将は、ルシファーの後継者となるべき存在を導く役割を担っていた。
 ――かつて、自分と同じく、闇の底の悪魔王より分かたれた存在、魔将サマエルと同じように。
 もっとも、サマエルが見出した後継者候補は、結局こちらに弓を引いたが。
「アレは良い駒に育った。‥‥あとは、ルキフグス、分かっているな?」
「無論似てございます」
「ではルキフグスよ、我が血肉へと、戻れ」
「我が主の仰せのままに」
 役割を終えた今、ルキフグスが己の存在を保つ理由はどこにもない。
 魔王の影たる黒眼の魔将は闇の中へと歩みを進め、そしてそのまま、闇の中へと溶けて消える。
 あまりにも静かでひそやかな、魔将の最期であった。
 そして――闇が胎動する。
「今しばしののちに、世界よ、震撼せよ。我が名は、魔王ルシファーなり」

●憤怒醒めやらず
 3月6日。
「ハァ‥‥、ハァ‥‥ッ!」
 与えられた一室で、カリス(sz0009)は血を吐き、のたうち回っていた。
 今、その姿は人のそれに変じているが、時折不意に制御を脱して変形することもある。
 六体存在する魔王のうち、実に二体までもその身に封じた。
 結果、身体は急激にキニスに適合し、根本から作り変えられつつある。その変化に相応しいだけの苦痛と共に。
「カリス‥‥」
 傍らで、アリア・アンジェリーニ(sz0004)がその様子を見守っていた。そうすることしか、できなかった。
「邪魔、しやがって! 肉人形め、よくも、邪魔を‥‥!」
 カリスが彼女を見る目は、もはや憎悪一色である。
 血を分けた妹と同じ姿をしたその少女を、兄は、ただただ怒りの対象としてしか見ていない。
「槍を手にしたら‥‥、殺してやる。おまえも、SINNも‥‥!」
「あなたは、そうやって世界を滅ぼして、そして、どうするのですか‥‥」
「世界を、創り直す‥‥。先生と一緒に、神を殺して、この世界を、創り直す。僕と、マリアの世界だ!」
 その瞳に、明らかに尋常ではない光を宿し、叫ぶ彼は、しかし到って本気であることを、アリアは知っていた。
 ボコリと音を立てて、人の腕だったものが甲冑を帯びた形に変形する。
 軋む身の痛みに、くぐもった呻きを洩らしながら、カリスは天井を仰いだ。
「あとちょっとだ‥‥、あと少ししたら、力が、身体に馴染む。そのときこそ‥‥!」
 もう、自分の目的しか見えなくなっているカリスに、アリアはかける言葉も見つからないまま、小さくため息をついた。
 槍に貫かれ、天へと還る。
 それはもはや決まっていること。
 世の『罪』を祓うにしても、世を『罪』で満たすにしても、結局、槍はこの身を貫くのだ。
 だから――「助けて」、だけは、言うわけにはいかなかった。

●『王』の影を追って
 3月7日。
 エリザベート・バートリーは憔悴しきっていた。
 数日前、『王』が戯れだと告げてルークス教との戦いに赴いて、そして、滅びた。
 その報せを聞いたとき、エリザベートは世界が終わったのではないかと錯覚した。
 彼女にとって、そして全てのオリジンにとって、『王』の存在は絶対である。
 滅びるはずがないと、心の中では確信しながらも、しかし滅びたという報せには、心を強く乱される。
「‥‥ガルバ様」
 このたった数日で、エリザベートは完全に、精神の平静を失っていた。
 ――その耳に、声が届いたのだ。
「エリザベート」
 ハッと、エリザベートはその声に顔を上げた。
「ガルバ様‥‥!」
 しかしどこにも、姿は見えない。
 それでも彼女の耳にははっきりと、『王』の声が聞えていた。
「私の可愛いエリザベートよ」
「ガルバ様、いずこにおられるのですか。わたくしは、エリザベートは‥‥!」
「エリザベートよ。悪魔の王と共に、ルークス市国へと向かうのだ。決着を、付けるのだ」
 どこを見ても、『王』の姿は見つけられなかった。
 しかしそのクセ、言葉はハッキリと耳に届いてくる。
「吸血鬼の悲願を、おまえ達の手で成就しておくれ。可愛いエリザベート」
「ガルバ様‥‥」
 吸血鬼の悲願。
 それは、太陽を克服し、永遠の生を得ること。
 かつて『王』は悪魔の王が神を殺し、新たな造物主となった暁にはその悲願を叶えることを条件に、悪魔に与した。
 今まさに世界の終わりが近づいているというのであれば、それはまさに吸血鬼にとっても千載一遇ではあった。
「お任せください、ガルバ様。必ずや、あなた様のご期待に応えてみせますわ」
 誰もいない虚空へ向けて、エリザベートはそう告げる。
 もう、誰の声も、その耳には届いていなかった。

●飽食の蝿
 3月8日。
「追いつめられちゃったね〜」
 ロシア。その欧州側に用意された地下施設で、子供の姿をした魔王ベルゼブブ(sz0013)はチョコレートをかじっていた。
 この国で進めていた【覚醒の地】計画も、SINNによって暴かれ、各地に用意した収容所はNATO軍による攻撃を受けている最中である。
 最終的な損害こそまだ明らかになっていないが、計画が大幅に遅れることは免れないだろう。
「これは第七の目覚めを待った方が早いかもしれないかな」
「‥‥第七の封印は、どこに?」
 問うのは、唯一残されたベルゼブブの手駒。
 ハーフブリードと化したロシアの大統領であった。
「第七の封印はね、他の六つと違って、決まった場所にあるわけじゃないんだよね」
 チョコレートを食べ終えて、今度は飴を舐めはじめたベルゼブブは、そんなことを答える。
「それは『神が定める最も相応しい場所』に現れるんだよ。『約束の地』なんて洒落た呼び方もされてたね〜。前は、エルサレムだったかな〜。ほら、ルークス・クライストが死んだ場所ね」
「では、今回は違うと‥‥」
「違うだろうね〜。まぁ、僕にはなんとなくわかるから、そこに行って全部平らげればいいでしょ」
 魔王の口ぶりは、手ごまのほぼ全て失ってなお、変わらなかった。
「では今回はどこに‥‥?」
「きっと――ルークス市国、かな」

●蘇る聖槍とエンリコの疑問
 3月9日。
 ルークス市国内、大聖堂地下。
「これが、聖槍‥‥」
 二つの欠片より、伝承武具を再現する技術にて復元されたロンギヌスの聖槍は、その見た目からして荘厳であった。
 復元を担当した市国所属のハンドラーより、槍を渡されたマリア・アンジェリーニ(sz0003)は、神妙な面持ちでそれを受け取った。
 世界の命運を担う、最も重要なものである。
 手にするマリアは身を震わせるのをなんとかこらえながら、握ってみる。
「‥‥軽い」
 その槍は、確かに軽かった。
 見た目は確かに槍でありながら、武器として使うには軽すぎる気もした。
「私は、これで‥‥」
 浄罪救世の大秘跡『ルクス・カルワリオ』を成就するために必要な聖宝であり、そして、アリアを貫くものでもある。
「‥‥これで、私が――」
 聖槍の壮麗さにひととき心奪われていたマリアの顔色に、途端に陰りがさした。
 この槍で、自分は妹の命を奪わなければならない。そうすることでしか、『黒い霧』は払えないのだと、妹自身が言っていた。
 『ルクス・カルワリオ』の準備は、すでに終わっていた。舞台だけならば、すでに整っているのだ。
 罪なるバビロンを聖なる槍にて貫いて、魔を祓う魔法エクソシスムを成就する。それが、『ルクス・カルワリオ』と呼ばれる儀式の全容だ。
「マリア、大丈夫ですか」
 彼女の身を案じて、同行してきたエンリコ・アルベルティ(sz0002)が背中をそっと支えた。
「エンリコおじ様‥‥、私、できない。アリアのこと‥‥」
 気丈さは失せて、泣きそうになっているマリアへ、エンリコは、告げた。
「それも、或いは正しいのかもしれませんね‥‥」
「え‥‥?」
 と、返すマリアに、エンリコはこの一件で覚えた疑問を、はじめて口にした。
「マリア、カリスが槍を使えることが分かったとき、アリアは驚いていたのですね?」
「はい‥‥。そうです‥‥。本気で驚いていたと、思います」
「だとしたら、それ以外にもこの秘跡には、『誰も知らない隠されたルール』があるのかもしれません」
「そんな、ものが‥‥?」
「いえ、想像です。これは、私の想像に過ぎません。希望的観測と言ってもいい。しかし、直接神から遣わされたアリアですら知らないことがあった。ならば、それが一つとは限らないでしょう」
 確かに、そう言われれば、と、思えるだけの材料はあった。
 希望的観測。それ以上のものにはなり得ないかもしれない。
 しかし絶望の淵に追いやられていたマリアの心が、それで少しだけ軽くなったのも、また事実であった。

●最後の光
 3月10日。
 世界は平和だった。
 『黒い霧』は変わらず世界を覆いつつあるも、それはここ数カ月と同じような日常で、世界のどこかで誰かが苦しみ、世界のどこかで誰かが喜ぶ。
 そんな、戦いを前にした最後の平和なひとときであった。
 そして明けて――3月11日。
 その日未明、第七の封印の目覚めを知らせる『生命の樹』がルークス市国に立ち昇った。
「‥‥ここ、なの?」
 己もまた生命の光の中に立って、マリアは大聖堂前広場で、空に上がる白い光を見上げていた。
「来るべき時が、来ましたか‥‥」
 法王ヨハネス・ウェイン二世(sz0001)は、『生命の樹』の発生が確認された直後にイタリア政府に働きかけ、ルークス市国内、及びにローマ市内に非常事態宣言が出されることとなった。
 『生命の樹』が現れたとなれば、敵は数日中にでもこのルークス市国を狙ってくるだろう。
 この情勢は、SINN達に嫌が応にも「最後の戦い」を意識させることとなった。
 のちに聖戦機関により、ロシアに潜伏していた魔王ベルゼブブの動向の一部が明らかとなり、それはルークス市国へと向かっていることが確認された。
 到達予測日時は、3月13日。
 奇しくもその日は、金曜日であった。

●その夜に
 3月11日の夜、市国には多くのSINNが集まっていた。
「えっと‥‥」
 大聖堂の地下にある作戦室に、マリアがひょっこりと顔を出す。
 何人かのSINNが、彼女に気づいて「どうしたんだ」と声をかけた。
「あの、ちょっと相談したいことがね‥‥」
 と、マリアはやや控えめに言って、相談に乗ってくれたSINN達に『ルクス・カルワリオ』についての、エンリコの見解を説明した。
「私一人じゃ、何にも思いつかなくて‥‥。だから、忙しいって分かってるけど、みんなにも意見を聞きたくて‥‥」
 言ってくる彼女に、SINN達はそれぞれの意見を言い始めるのだった。

●少女の決意
 3月12日。
「私、決めたわ‥‥」
 その日、マリアは悩みに悩んだ末に、己がなすべきことへの決意をついに固めた。

●そして終わりが始まる
 3月13日、午前。
 その日は、一段と市国周辺で『黒い霧』が濃くなっていた。
「あア、あンなニマぶジく光ッデるヂャないガ」
 魔王ベルゼブブは、立ち昇る『生命の樹』を見て、ヘドロのような身体を揺らして笑う。
 その傍らに立つ大統領が、魔王に報告をよこしてきた。
「【白魔の軍勢】も別方向より彼の地を目指していると‥‥」
「だロうネェ〜。第七ノ封印バ、残り六ヅを手にジダ者にもダらざれるがらネ」
 巨体を揺する魔王が、ニタリと笑って、
「最後ノ大勝負、やッデみよウガなァ」
 残り少ない手勢を従えて、心底楽しそうに言うのだった。

 同時刻、【腐土の軍勢】とは別方向より、吸血鬼とクドラクを率いるエリザベートと、アリア、カリスが姿を現す。
「ああ、早く世界を滅ぼさなくては‥‥」
 夢見るような口ぶりで言うエリザベートを、カリスはおかしそうに見ていた。
「『王』とやらが死んでああなるか。‥‥狂ってはいないだろうが、自分の目的以外、何も見えてはいないんだろうな」
「それは、あなたも同じこと、なのでしょう‥‥?」
「当たり前だろ。僕は僕とマリアの世界を築くさ」
 アリアに言われながら、彼は肩をすくめ、そんなことを言った。
「力もようやく馴染んだ。‥‥楽しみだよ今から。SINN達をこの手で壊して、槍で、おまえを貫くのが」
「‥‥‥‥」
 アリアはもう、何も言えなかった。無力感に、打ちひしがれそうになりながらも。
 そしてカリスは、「まぁ‥‥」と、一拍置いて、空を見上げた。
「このときを一番楽しみにしてたのは、僕じゃないだろうけどね」

「アルファにしてオメガのとき、ここに来たれり」

「‥‥嘘」
 ルークス市国。
 空に大きな影を認めて、マリアは言葉を失った。
 パトモス島で、法王が授かった啓示を共に見た者であれば、その姿に見覚えがあるだろう。
 しかし彼らがその時見たものよりも、大きさ自体はまだ達しておらず、されどその身は軽く15mは越えているだろう。尾まで含めれば、全長は、一体どれほどになるのか。
 未だ四つの封印に縛られながら、しかし三つの封印より解き放たれた悪魔の王が、ゆっくりと地面に降り立った。
 その身より噴き出すように溢れる『黒い霧』。
 宿す莫大なキニスが、存在しているだけで発散されて、周囲を『霧』で汚染していく。
 それを見たSINNは、誰もが例外なく気づいた。
 あれはイケナイモノだ。なんとしても、この場で倒さなければならないものだ、と。
「なんということだ‥‥、結界が‥‥!」 
 それが降り立つと同時に、ルークス市国を長い間守り続けた悪魔祓いの結界が砕け散る。
 悪魔の王は人に告げた。
「終わりのときだ、人間共」

■PL情報
・連動シナリオの結果により、「第七の預言」の一部が判明しました。
・連動シナリオの結果により、ルークス市国全域で「奇跡の発現確率を10ポイント上げるアルケミー」が働いています。
・連動シナリオの結果により、吸血鬼勢力の保有戦力が最低限度に留まることが確定しました。
・企画イベント「ルクス・カルワリオ」の結果により、マリアは儀式の成功率にGd4倍(最高)を得ています。
・企画イベント「ルクス・カルワリオ」の結果により、全てのSINNが「ウリエルの加護Lv12(最高)」を得ています。
・企画イベント「ルクス・カルワリオ」の結果により、全てのSINNが「ガブリエルの加護Lv12(最高)」を得ています。
・企画イベント「ルクス・カルワリオ」の結果により、全てのSINNが「ミカエルの加護Lv12(最高)」を得ています。
・企画イベント「ルクス・カルワリオ」の結果により、全てのSINNが「ラファエルの加護Lv12(最高)」を得ています。
・連動シナリオと企画イベント「収容所解放戦」の結果により、【腐土の軍勢】の勢力はこれ以上増えないことが判明しました。
・企画イベント「一縷の望み」の結果により、マリアが「愛情のカルマ」を取得し、奇跡を目指すことが決定しました。

◆登場NPC

 ヨハネス・ウェイン二世(sz0001)・♂・49歳・エンジェリング・風・聖職者
 エンリコ・アルベルティ(sz0002)・♂・45歳・エクソシスト・地・聖職者
 マリア・アンジェリーニ(sz0003)・♀・15歳?・エクソシスト・地・聖職者
 アリア・アンジェリーニ(sz0004)・♀・15歳?・?・風・?
 カリス(sz0009)・♂・19歳・?・?・?
 ルシファー(sz0010)・♂・?歳・?・無・?
 ベルゼブブ(sz0013)・♂・?歳・?・?・?

◆マスターより

こんにちは、楽市です。
これは全体イベント「【AS09】Apocalypsis SINN」のメインシナリオです。そしてSINNという長い物語の最後を飾る最終決戦です。
全体イベントシナリオは、没ありプレイングとして処理され、MVP(物語に重要な貢献をした者)を中心として物語が描かれます。
選択肢をプレイング第1行で【ア】のように記入し、次行より本文を続けて下さい。(複数選択肢不可)
このシナリオは03月13日未明から24時間程度の状況の物語となります。
最後に、今回の戦いで「死体も残らないような死に方」をしてしまった場合、そのキャラは蘇生することができなくなります。ご注意ください。

ア:ルシファーと戦う
 関連NPC:ルシファー(sz0010)
 ルシファー本体と戦うこととなります。この本体は無尽蔵に『黒い霧』を生み出し続けています。
 例え『ルクス・カルワリオ』に成功しても、ルシファーを倒さなければ新たな『黒い霧』が世界を染めるでしょう。
 ここで敗北した場合、『ルクス・カルワリオ』に成功してもSINN側の全滅という判定となり、SINNはゲームオーバーとなります。
 なお、ルシファー本体は過去に見せた時を操る能力を使ってきます。
イ:ルクス・カルワリオの成就を目指す
 関連NPC:マリア・アンジェリーニ(sz0003)、アリア・アンジェリーニ(sz0004)、カリス(sz0009)
 半ば魔王と化したカリスと戦い、アリアを奪還することを目指します。また、マリアは秘跡『ルクス・カルワリオ』の成就を目指します。
 カリスは聖槍を持っているマリアを狙ってきます。彼に聖槍を奪われた場合、その時点でSINNはゲームオーバーとなります。
 なお、カリスは周囲の任意の対象のホスティアを強制的に奪う能力を使ってきます。
ウ:【腐土の軍勢】と戦う
 関連NPC:ベルゼブブ(sz0013)
 魔王ベルゼブブとの決戦となります。ベルゼブブはルシファーの前にルークス大聖堂の封印を狙ってくるようです
 【腐土の軍勢】はほぼ半壊しており、動き易さを考えて手勢として連れているのは自身と契約したハーフブリードのみとなります。
 ここで敗北した場合、ルークス教側の持っている封印は全て奪われ、人類側に勝ち目はなくなるためSINNはゲームオーバーとなります。
 痕跡:悪しき気配
エ:吸血鬼勢力と戦う
 『王』を失ったあとの吸血鬼勢力との決戦となります。エリザベートに率いられて、上位のオリジンとクドラクがいるようです。
 ここで敗北した場合、吸血鬼勢力はルークス大聖堂へと攻め入って、法王、エンリコをはじめとして多数の職員が死亡します。
 痕跡:血の臭い、特になし×3
オ:その他の行動
 どの選択肢にも該当しない行動はこちらとなります。
 内容で判断させていただきますので、他選択肢に割り振られたり、採用率そのものが低い場合がありますのでご了承ください。

リプレイ
●吸血鬼決戦:大通りの戦い
「滅びてしまえ、滅びてしまえ!」
 エリザベート・バートリーの声ばかりが、そこには響き渡っていた。
 ルークス市国、大聖堂前広場へと真っ直ぐ伸びる大通りに、彼女と、その両脇を守る二体の吸血鬼、そして率いられた数多のクドラク達。
 一見、それは多数の軍勢のように思えるが、しかし、SINN達はまだ知らない。
 もはやこの世界でエリザベートの指揮下にある吸血鬼の勢力が、たったこれっぽちしか残っていないことを。
「永遠の夜を成就するのです‥‥!」
 熱に浮かされたようにたおやかに手を掲げるエリザベート。
 クドラク達が前に出てこようとする。
「全くこちらが見えていないようだな」
 言って、CROSSを握って九朗 或(sd4780)が集まった仲間達に祝福を施した。
「でも、殺気は凄いですね‥‥」
 と、同じく祝福を施したアキ・オドネル(sp5637)が言って、手にした拳銃の安全装置を外した。
 クドラク達は次々その姿を獣人へと変えて、こちらを見据える瞳には、苛烈な敵意と殺意が強く滾り光っている。
 ――いつ来てもおかしくないな。
 と、アシェン・カイザー(sd3874)が思った、次の瞬間には、クドラク達は一斉に動き出していた。
「やらせないわよ!」
 疾駆し、迫る狼の獣人へ、しかし白麗 霊夢(si6758)が投げつけた球形の投擲武具が命中する。
 戦いはかくも慌しく、始まった。
「‥‥参ったな、数が多い」
 上月 累(sq2012)が翼を広げて地を蹴り、飛翔すると空からクドラクを狙った。
 しかし彼自身と同種の、猛禽の獣人がそれに気づき、舞い上がって追ってくる。放った矢はクドラクの肩に命中するも、勢いは止まらなかった。
 追いつかれる直前、舌を打って累は大きく旋回する。
 そのさなか、彼は地上を見下ろして気づいた。
 ――吸血鬼達の姿が、消えていた。
「‥‥どこに?」
 直後、地上のSINN達もそれに気づいた。
「吸血鬼さん、どこへ行ったのかな?」
「知る必要などないなァ!」
 思わず探してしまったキルスティ・イングベルグ(sq1502)へ、熊の獣人が襲いかかってきた。
「今は戦いに専念するときと見た!」
 だがジョルジェ・フロレスク(sp6083)が熊の獣人へ思い切り拳をぶつける。
 クドラクが吸血鬼への壁として立ちはだかるならば、それを打ち破ることが夜の眷属共を屠る道に繋がると、彼は判断した。
「しゃらくさい!」
 全身を赤の体毛で染めた獅子の獣人が、仲間もろともジョルジュとキルスティを炎の息で包み込む。
「ぐぅ!」
 灼熱の刹那に身構えるジョルジュであったが、しかし逆巻く風が炎を吹き散らした。
「大、丈夫‥‥、風の、力で‥‥」
 ブランシュ・ブランシャール(sp4332)が、風を操って息を無効化してくれたのだ。
 ウォォォウと、雄叫びを上げながら獣の瞬発力で拳を重ねてくるクドラクを、魔力によって構成された氷の盾で受け止めながら、シャムロック・クラナド(sp9296)は姿を消した吸血鬼の姿を探そうとする。
「本当に、どこに行ったんでしょうねー‥‥」
 間延びした声で呟くと共に、彼女は敵の攻撃をスルリとかわし、背面に回って蹴りをブチ込んだ。
 空では、アーク・カイザー(sq0753)がどこにいるとも知れないエリザベートに向かって叫んでいた。
「お前らの王は去ったんだ。もう吸血鬼の出番なんて何処にも無い、なんでそれが判らないんだ!」
 だが目的の相手より返事はなく、その声に釣られて来たのは、怒りの形相を浮かべる猛禽の獣人が数体であった。
「我らが主を愚弄するかァ!」
「呪われてるだけのおまえらが、そんなことを言うなァ!」
 二度目の叫びと共に、彼の吐いた炎のブレスがクドラクの身を焼いた。
 そして地上、赤い獅子の獣人が、ルイス・ハワード(sd4979)を壁際へと追い詰めつつあった。
「負けません、絶対に‥‥!」
 エペを手に気張るルイスであるが、エンジェリングである彼女が近接戦闘をクレスニクに等しい強さを持つクドラクに挑むのは、些か無謀といえた。
 しかし――
「同じ獅子として、その振る舞いは許せない!」
 ラチェット・トーン(sp6693)が飛び込んでくると、彼は赤い獅子のクドラクに二発の蹴りをお見舞いし、肩越しに指示を出す。
「ニーチェ、今!」
「うふん、OKよ〜ん」
 緊張感の薄い声。
 しかし動き鋭く、ニーチェ・シュートラー(sp6098)の拳がクドラクのあご先を確実に捉え、その身を昏倒させようとする。
「ま、だ、だァ!」
 しかし強く牙をかみ合わせ、耐えようとするクドラクへ、
「だったら、これで仕舞いにしてやるじゃん!」
 リン・ブレイズ(sf8868)が繰り出した連撃連打が容赦なく浴びせられ、最後にはくらったアッパーに頚椎を砕かれて絶命する。断罪完了であった。
「俺達が、やらなきゃね――」
 クリシュナ・アシュレイ(sa0267)が刀を構え、クドラク達を睨んだ。これにミハイル・カウフマン(sz0041)も頷く。
 相対する獣人たちは、まごうことなき強い殺意をこちらへと向けてきている。相手が誰であろうとも、彼らはその手にかけるだろう。
 その脅威より人々を守る盾となり、刃となる者。それがパラディンであった。
「人間の分際でェ!」
「おまえらだって大して変わンねぇだろうが!」
 鷲の獣人の空からの一撃を、イェルク・マイトナー(sd3107)はしっかりと両手で握った槍で受け止めて、叫び返した。
 お返しにイェルクが撃ち放った拳銃弾は、だが空を舞うクドラクにかわされる。
 が、直後に銃声。背後から襲った激痛に、そのクドラクは「な‥‥」と、目を見開いて振り向いた。
「一直線すぎたな」
 と、一声告げる彼女はさらに二発、クドラクへ弾丸がお見舞いし、舞い落ちた先で、
「ナイスだぜ、ローウェル!」
 待ち受けていた相模 仁(sp6375)の拳がみぞおちをまともに捉え、クドラクの意識は完全に断ち切られた。
 戦いは、なお続く。SINN達の前に立ちはだかるクドラクの群れはクレスニク同様にルーガルを用い、時に広範囲に渡ってSINN達にダメージを与えた。
 しかし使える魔法が一種しかない彼らに比べ、SINN側は――
「さすがに攻め込んでくるな‥‥」
 セルゲイ・クルーツィス(sc4350)が空より状況を俯瞰し、降り立ってサナティを成就する。
 範囲内の全てのSINNが、それによって傷を癒された。エンジェリングが持つ、強大な癒しの業であった。
「ヤツを仕留めろ!」
 という声がして、セルゲイめがけて猪の獣人が突っ込んできた。
「当然、そうくるわよね」
 セルゲイの前に立って、キャサリン・モローアッチ(sd2653)は冷静にそう呟くと、拳銃を構えて猪のクドラクに銃弾を叩き込む。
「グ、ウウウウウウウ!」
 だが体力面に優れているらしく、そのクドラクはまだ沈まない。
 クドラクは怒りを滾らせた瞳でキャサリンを睨むが、しかし背後から迫るフェリシア・エドフェルト(sp7734)には気づいていなかった。
「猪突猛進も考え物かもね」
 という一言と共に、フェリシアは跳躍し、クドラクの首筋に蹴りを命中させてその意識を刈り取った。
「それにしても――」
 フェリシアのすぐ頭上で、猛禽の翼を広げたスティナ・エーケンダール(sp7978)が、戦場となっている一帯を見渡した。
 やはりそこに、吸血鬼たちの姿は見当たらなかった。
「ケァァァァァ!」
 そこへ飛び込んでくる、ミミズクのクドラク。
「わっ!?」
 と、声でばかり驚いて、スティナはクドラクの体当たりをヒラリと避けると、最小限度の挙動でその背後に回り、敵の翼に蹴りを命中させた。
 そのつま先に覚える、何かが軽く折れる音。ミミズクのクドラクは悲鳴を上げて、そのまま地面に墜落する。
「驚いたぁ‥‥」
 ドキドキしている自分の胸に手を当てて、スティナはそう呟き、息を吐くのだった。

●腐土決戦:蝿騎士団
 ルークス市国、大通りから外れた美術館近くのガーデン。
 数多の蝿を率いて、魔王ベルゼブブ(sz0013)は前進を続けていた。
「グブ、グふフゥ、綺麗な場所ダねェ〜」
 まるで物見遊山のような言い方をするベルゼブブの後ろには、数人の男女。そこには、ロシア大統領、ブロヴィッチ・ラーチンの姿もあった。
 この状況を、進退窮まった、と見る者は多いだろう。ラーチン自体、そう思っている部分はある。
 確かに現状は、追い詰められている。間違いなく。
 二人いた眷族の一人を失い、腹心たる金色の魔将を失い、魔王は今日のために資質ありと見込んだ数人と契約を交わした。急造の眷属たちである。
 ある角度から見れば、それは間違いなく苦し紛れに映るだろう。
 しかし別の角度から見れば、見え方は全く変わってくる。
 何を使ったところで、勝てばよい。
 勝ち、そして支配する。
 要するに、やるべきことはこれまでと何も変わらないのだ。
「来ましたね」
 【腐土の軍勢】を最初に出迎えたのは、佐藤 一郎 (sb2526)が操るパペットであった。
「グひ」
 しかし、カルマの力も展開されていないこの状況下で、パペット単体が相手取るにはそれはあまりに危険な相手だった。
 ベルゼブブが笑う。するとその身から湧き出た蝿の群れがパペットを包み込むように纏わりついて、その動きを完全に停止させる。
「見ヅがッヂャッだネェ〜」
 と、ベルゼブブは当然のように言う。精気感知によって、とっくにSINNの存在など知っていただろうに。
「皆さん、ご注意を」
 光の翼を広げて、イーノク・ボールドウィン(sd3868)が告げると共に、彼の魔法によって空間が現実と隔絶される。
「おそらく、魔王が率いている者達は全て魔王の眷属であるはず。彼らは魔王の力を限定的に行使することができます。カルマの力を使える方がいた方がよいでしょう」
 周りにいるSINN達が、彼の説明を受けてうなずく、返事をする、反応を返し、次々と木陰や物陰から姿を現した。
「当然の流れではあるか」
 ラーチンがSINN達を前に、そう呟く。
「グブ、じゃア、ヨロじグねェ」
 主たる魔王は言うと、己の眷属たる数人の背後へと悠々歩き、そこにドカリと腰を下ろした。
 自身が前に出るつもりは、皆無であるらしい。
 その、魔王の様子に一瞬気を取られていた魔王眷族の一人である男性へ、羽原 春乃(sp3482)が飛び出ると同時に発砲。
 弾丸はその眷属に突き刺さったが、男は苛立たしげに舌を打つばかりで、その傷に意識を向ける素振りも見せなかった。
 そうこうしてるうちに傷口は再生能力によって塞がれて、弾丸がコロンと落ちた。
「なるほど‥‥、これが魔王眷属っすか」
「クソアマァ、お返ししてやんぞォ」
 男は春乃を睨み、その身より魔王と同じく蝿の群れを湧き立たせた。
 不規則に、そして無秩序に重なる蝿の羽音。耳障りなそれが、彼女へと放たれようとする。カーク・ロッシュ(sz0092)が、自ら壁になろうとする。
「おっと、思い通りにやらせるとでも思いますか」
 オルフェオ・エゼキエーレ(si1323)が自らの心の力を場に展開する。それはカルマ。魔の空間を抑えこむ人の力であった。
「厄介なことだ‥‥」
 オルフェオと共にこの戦いに参加したダニエル・ベルトワーズ(sh5510)が、この状況を俯瞰する。
 進撃せんとする【腐土の軍勢】。
 迎え撃つSINN達。
 目の前には魔王の眷属となった半魔が数人と、魔王ベルゼブブそのもの。
 魔王眷属は数こそ少ないが、通常の半魔とは一線を画する力を持つ。正直、数で優っていても油断できるような相手ではなかった。
「クソっがァ!」
 カルマの領域が展開されても、男は構わず人を食む蝿を次々に生み出していく。
 しかし、蝿の群れが人を包む前に、先に雷鳴が轟いていた。
「いやはや、こっちを無視して攻めてくるとは実に蝿っぽいですね〜。虫だけに」
 などと、上手くもないことを言いつつも、茂呂亜亭 萌(so4078)が放った雷撃は蝿を巻き込み、魔王眷属の男に命中する。
「ガッ、アア!?」
 さらに萌の隣、並ぶように立つのは荒井 流歌(sp5604)であった。
 彼女のかざした手から吹きつける氷雪が、雷撃よりも広範囲に渡って蝿を飲み込み、散らして、凍結させていった。
「どうして魔王に従ってるのか、分からないわね。捨て駒扱いされてもおかしくないのに」
「世界征服とかそっち系に夢燃やしてる、お呼びじゃない方々ってことでしょ!」
 碇矢 未来(sp5129)が切り込んだ。
 彼女の、その刀の一閃を、男はめんどくさそうに腕で受け止めて、直後、彼は悲鳴を上げた。
「傷が、回復しねぇ! ン、っだこりゃあよぉ!」
「再生封じくらい、こっちだってできるっつー話でございまして!」
 血を散らし、混乱する男へ、未来が追撃を仕掛けようとする。
 だが、そこへ迷い込むようにして、宙を漂う小さな火の粉。男の顔色がサッと青くなり、咄嗟にその場から飛び退いた。
 直後に起きた爆発は、もはや、SINN達にとっては周知であろう、悪魔魔法であった。
 爆裂の火球――インスピラティオネ。
「人間相手になにやってるのかしらね、馬鹿じゃないの」
 と、味方であるはずの男を容赦なくコキ下ろすのは派手な外見をした、見た目十代後半の少女であった。彼女もまた、ベルゼブブの眷属なのだろう。
 その一発は、散発的でしかなかった戦闘を本格的に開始させる合図となった。
 敵方、魔王眷属はラーチンを含めて三名、男と少女、そしてラーチン。それが、SINN達が魔王の前に越えるべき壁であった。
「やってくれたようだな、こちらからもお返しだ!」
 南郷 龍馬(sq3216)が、先端が尖っている大型の火器を構えた。
 彼の魔力が充填されたそれに危機感を覚えたラーチンが、射線上より身を退けると、その奥に立っていた男へと魔力の波動は迸った。
「グ、ッガァァァァ!?」
「外したようだな」
 男の悲鳴を無視し、ラーチンは龍馬に拳銃を向ける。
 だがそこに自身へと向けられた殺気を鋭く感じ取り、発砲前に彼は舌を打ってもう一歩、退いた。
 直後、彼がそれまでいた場所を、矢が貫いた。間一髪であった。クロスボウを構えたラミア・ドルゲ(sg8786)が眉間にしわを寄せた。
「火事場泥棒のクセに、厄介な」
 クロスボウに矢をつがえて彼女は再びラーチンを狙おうとする。
 だが少女の方が生み出した蝿の群れがラミアに殺到し、彼女の視界を塞ごうとしてきた。
「グロいって!」
 十文字 翔子(sf7297)が気流を操って、蝿を吹き散らしはするものの、それでも未だ蝿は群れをなして翔子と共に戦う聖獣に喰らいついてきた。
「アハハハハハ、そのまま喰われちゃいなよ!」
 蝿にたかられた翔子を見て、少女が高らかに笑った。
「全く愚かしさが滲み出てる笑い声だね」
 どこからか、声がする。
 少女がその声に身体を強張らせる前に、透明化していたリュカ・フィオレンツィ(sk3006)は彼女の背後に姿を現し、手にした刃で少女を背中から貫いていた。
「ギ――」
「喚くな、うるさい」
 死角より忍び寄り、無防備を晒す少女の首筋へ、煌 宵蓮(sa0253)が暗器による一閃を放った。
 パクリと傷口が開いて、血が溢れ出す。それは少女にダメージよりも、強い精神的なショックを与えた。
 ヒィ、と、声にならない悲鳴を吐息と共に絞り出し、少女はその場からひとまず逃げ出そうとする。
「させませんぞ!」
 高く響き渡る、朗々たる声。
 ウルセーヌ・モローアッチ(sp5281)の操るパペット数体が、少女の行く手を阻むようにして立ち塞がった。
「ふははははははっ、快盗紳士モローアッチ参上!」
「邪魔を――」
 と、少女がウルセーヌの方に意識を完全に向けていたため、
「注意一秒だぜ、これがな!」
 ハーケン・カイザー(sc1052)が操る装甲車の突撃に対応できず、思い切りはね飛ばされてしまう。
 少女は吹き飛び、近くの木に激突。痛みは、働き始めた再生能力によって消えつつあるも、精神はまるでその回復速度に追いついていない。
 だが戦いは容赦なく、少女を飲み込み、続いていく。
「畳みかけマス! 悪く思わないでくださいネ!」
 ジェーン・ミフネ(sk6098)が投げつけてきたものは、手榴弾であった。
 それを見て、少女も、そして運悪く近くにいた魔王眷属の男も、身を伏せようとする。
 しかし、炸裂し、発生した強烈な突風は範囲内の二人を吹き飛ばし、強烈なダメージを与えた。
 起き上がろうにも起き上がれないでいる少女へ、ビート・バイン(sf5101)が装甲車の車上より設置した対物ライフルを向けて、狙いを定めていた。
「この身に代えても市国は守る。そいつが俺のジャスティス!」
 ドカンと、ライフルの銃声がガーデンを震わせる。
 弾丸は少女に命中した。しかしそれは、彼女の精神を爆ぜさせる一発でもあった。
「ッガアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
 絶叫。迸り、そして彼女は連続で四発の火の粉を辺り構わず撒き散らした。
 爆発は連鎖し、SINN達は高熱と爆風に晒される。
 焦げる空気の匂いを嗅ぎながら、ラーチンは冷静に戦況を見極めようとする。
 戦いは、始まったばかりだ。

●ルクス・カルワリオ:怒り燃ゆる
 黒の火柱が、ルークス市国の庭園を焼く。
「マリア、その槍を渡せ。渡すんだ、マリアァァァァァ!」
 響き轟くのは、黒く燃え盛る翼を羽ばたかせるカリス(sz0009)の声。
 魔王二体をその身に吸収し、人としての身体をまだ保ったまま、しかし同時に魔王としての資格を得た少年は、自ら神の敵対者を意味する「サタン」を名乗り、このルークス市国へと仕掛けてきていた。
 彼が追っているのは、聖槍ロンギヌスを持ってSINNと共に逃げるマリア・アンジェリーニ(sz0003)である。
 大聖堂より、コロッセオの方へ、そして辿り着いたのは丘の遺跡と呼ばれる場所。
 それは現在と過去の接点、『死者の間』へと通じている、ルークス市国でも限られた者しか入れない場所だった。
 大聖堂を離れ、戦場はこの場へと移る。そろそろ、マリアの方も走り続けるのがキツくなってきていた。
「‥‥ここが、終わりの場所」
 カリスよりも高い場所、光の翼を大きく広げ、アリア・アンジェリーニ(sz0004)は低く呟く。
 世界の趨勢を決める、最後の戦い。それは彼女の死に場所でもある。
 つまりはそういう呟きであった。
「追いついたぞ‥‥!」
「ハァ‥‥!」
 呼吸を荒げながら、なんとか走ろうとするマリアの背後に、カリスはいよいよ迫った。
「小雪さん!」
 柚木崎 灯(sa0113)が白兎のぬいぐるみ型のパペットに指示を下し、パペットがカリスの横っ面を蹴り飛ばした。
「邪魔を‥‥!」
 カリスは、痛みよりも苛立ちにその顔を歪め、パペットと、それを操るハンドラーを睨み据える。
「ッッするなァァァァ!」
 飛翔の勢いをそのまま突進力に転化して、カリスは、白兎パペットに体当たりをかます。
 衝撃は凄まじく、パペットは一撃のもとに砕け、機能不全に陥った。
 この戦いにはじまりの一線を引くならば、それはまさに、今、この瞬間であった。
「邪魔だ、邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だァァァァァァ!」
 カリスは、運悪く近くにいた風間 聖夜(sa4900)に手をかざすと、彼のホスティアを一気に吸収してしまう。
「う、グ‥‥」
 抗うこともできないまま、聖夜は衰弱し、その場に倒れた。
 その間にも、マリアはカリスとの距離を空け、そしてその間を塞ぐように、SINN達がカリスの前へと進んでいく。
 上随 スウソ(sq1318)も、マリアの肩を叩くと、
「皆で笑って帰ろ。大丈夫、みんながいてくれるでしょ!」
 言って、彼女もまたカリスへと立ち向かっていく。
「りすりすぱわーを見せるんだから!」
「ケダモノがッ‥‥!」
 獣化し、リスの獣人となったスウソが、カリスに向かって雷光のブレスを吐いて叩きつける。
 丘の遺跡の入り口前、生える木々が雷光に焼かれる爆ぜた。だが魔王と化した少年は、ニヤリと笑うのみで動じた様子もなく、甲冑のような甲殻に覆われた腕を伸ばし、スウソの頭を鷲掴みにした。
「ヌルいぞ、ケダモノ」
 ホスティアを直接吸われ、スウソはものの数秒で意識を失った。
 力が抜けた彼女の身体を捨てるように投げて、カリスの意識は再びマリアへと向けられようとする。
「全く、怖い目つきですね‥‥」
 と、ヨシア・アジール(sc3352)が祝福を仲間に施しながら、カリスの憤怒に染まった形相を目の当たりにして呟くと、それが聞こえていたのか、カリスの目線は彼の方へと移った。
 ヤバイ、と、ヨシアが思ったときには、すでにカリスは彼へと飛び掛ろうとしていた。
 だがその場からヨシアが退けば、すでにその後方では、ミリーナ・フェリーニ(sa0081)、御剣 龍兵(sa8659)、平柳 アレクセイ(sa8945)らが、拳銃を構えて待ち構えていた。
 突っ込んでくるカリスは、彼らにとってはいい的だ。
「名前が武器になればどんなにいいことかな」
 思い、そして言うアレクセイに、龍兵が答える。
「名前が示す俺達は、間違いなく武器になれるぜ。カリスとの因縁も今日で終わりにしてやる!」
「絶対に守ってみせるよこの街を!」
 ミリーナが猛々しく吼えて、三人は一斉にトリガーを絞った。
 重なる銃声。銃口より、火と光が瞬いて、弾丸は、カリスの身体に幾つも突き刺さる。
「グゥオオオオオオオ!」
 獣じみたその声は、雄叫びか悲鳴か。
 だが魔王を称する元人間の突撃は、弾丸数発では止まらない。
「マリアには近付けさせねぇよ!」
 四人目、東雲 燎(se4102)が叫び、45口径を発砲すると共に、彼の操るパペットがカリスを殴りつける。
 だが少年は、尾を引く雄叫びを重ねながら、パペットをむんずと掴み、それを燎自身へと投げてぶつけた。
「どうした、終わりか、そんなものかァ!」
 一度足を止め、カリスが叫ぶ。
 その声を聞きながら、だがマリアはその声に本能的な怯えを感じながらも、視線は、宙に留まっているアリアの方へ釘付けになっていた。
 逃げようともしていない。その姿を視界に入れただけで、彼女の名を叫びたいという衝動がこみ上げてくる。
「もうちょっと肩の力抜きなって、マリアお姉ちゃんさ」
 告げて、デミル・ウルゴスティア(sd9633)がマリアにCROSSを差し出してきた。
 そのCROSSには、ローレムの魔法が付与されている。マリアがそれを受け取ると、
「女の子に固執しすぎる男は嫌われるよねー?」
 と、彼は言って、自分の隣に立つメイベリン・クリニーク(se6484)に同意を求める。
「わたくしもそう思いますの。ストーカー被害はしゃれになりませんですの」
 メイベリンはコクコク頷いて、カリスへと、自分が操るパペットを向かわせた。
 二人の会話は、まるで日常のものだった。
 マリアは、自然と笑みが浮かんでくる自分を感じて、「ありがとう」と小さく言った。
 だが直後に轟く銃声が、彼女の意識を再び戦いの方へと向かせる。
「痛いじゃないか」
 自分の右肩に穿たれた穴を見て、カリスがギリ、歯を噛み締める。
「しつこい男は嫌われるって、ケツ顎は教えてくれなかったのかしら?」
 アサルトライフルを腰溜めに構えた厳島 雪花(sp0998)が、彼を真っ向から見据えて、さらに弾丸を射出した。
「邪魔くさい‥‥!」
 だがカリスは、魔力を帯びた銃弾をその身に受け、さらにショウ・マルチェッロ(sz0058)の攻撃を受けながら、まるで怯むことなく一歩、また一歩と前進してきた。
 だがその歩みを、不可視の力が押し留める。感じた力の先に、カリスはサラディン・マイムーン(sj1666)の姿を見た。
「その怨念、この場で解放してあげましょう。カリス」
「‥‥念動力魔法か。知っているぞ」
 と、瞳に凄絶な光を、カリスは宿す。
 だが、サラディンの役割は、足止め。攻撃役は別にいた。
「ウオオ!」
 勇ましい声と共に、駆け込むガディン・ベルリアン(sk6269)が、カリスの身をその爪先につけたトゥナックルで蹴り飛ばした。
「チィッ!」
 忌まわしげに、カリスは舌を打つ。
「分かるか、カリス。俺達には仲間がいる。だが、おまえはただ一人だ!」
「それが、どうしたァ!」
 蹴りに数歩分、後ずさりながらも倒れはしなかったカリスが、サラディンの念動力を撥ね退けて、ガディンの蹴りをその手で無造作に掴むと、一気に生命力を吸収。
「クゥ、オオ!」
 それでも、ガディンは意識を失う前、渾身の蹴りを一発、カリスの顔面に直撃させた。
 意地の一撃と、いってもよいだろう。
 さすがに、カリスの動きが一瞬止まる。
 六枚の翼を持ったパペットが落とした雷が彼を襲ったのは、そのときであった。
「な、に‥‥!?」
 電撃に痺れ、目を開くその少年の背中に突き立つダーツ。
 投げたシャロン・ローズ(so1811)が高らかに笑う。
「裁きの雷をとくと味わうが良いですわ! おーほっほっほっ!」
 天使型のパペットを操っていたのも彼女だ。そして、刺さったダーツが淡い光と放つと、カリスはかすかに力が抜けるような感覚を覚えた。それは、彼が吸収したホスティアを元の持ち主に還元する効果を備えた、錬金術製のダーツだった。
「――カリス、キミの気持ちが、分からないわけじゃない」
 トウマ・アンダーソン(sn7273)が、淡々と告げる。振り上げた伝承武具『童子切』を、カリスへと振り下ろし、
「だが、それは成してはいけないことだ。だから僕は、キミの前に立ちはだかる!」
「私達が、あなたの邪魔をします。こんなやり方、認められないから!」
 発生させた吹雪でカリスを叩いた花枝 美咲(sk2703)が、トウマに寄り添い、決意を告げた。
 吹き飛び、近くの木に激突したカリスは、しかし、ユラリと立ち上がって、低く笑い始める。
「‥‥言ってくれるじゃないか」
 トウマの言葉は、今のカリスにとって、聞き捨てならないものだった。
「気持ちが分かるだと‥‥。分かったつもりになっているだけだろうがァ!」
 顔をあげ、鬼の形相で、彼はその感情を物理的な衝撃波へと変え、周囲に発散する。
「なッ‥‥!?」
 その衝撃波は、カリスの足元の地面を根こそぎめくり上げてしまうほど強烈だった。
 シャロンのパペットも、トウマ達も、一度に吹き飛ばされる。
「なんだ、今のは‥‥。冗談ごとじゃないな!」
 翼舞い広げ、降り立ったラティエラ・テンタシオン(sb6570)が危機感を顔に浮かべると共に、祈りを捧げて癒しの業を成就する。
「治して、どうする。僕は、殺し直すだけだ!」
 握った拳を掲げるカリスを、マリアは、不安と共に見つめていた。
 自然、祈りの形を作るその手の上に、クローディア・エヴァーツ(sa0076)は自分の手を重ねた。
「大丈夫、きっと、みんなが勝つのよー」
「クローディア‥‥」
「ああ、そうさ」
 と、クローディアの言葉を、アビス・フォルイン(sa0959)が肯定する。
 彼は単身、ナックルを強く握ってカリスへと向かっていった。
「また、馬鹿が一人、か!」
「そうやってコケにする存在に、おまえは敗れるんだ!」
 殴りかかろうとするアビスへとカリスは手を掲げる。生じた不可視の衝撃波。岩すら砕く威力を持つそれが、彼を襲う。
「――甘いよ!」
 だがアビスの全身が強い輝きを放った。
 それは彼が身に纏っている装備が発した光。衝撃波はこの光の前に消滅し、カリスは驚きに目を剥いた。
「やってくれる。だが――精々、寿命が数秒伸びただけだ!」
 二発目の衝撃波。アビスが、これを無効化することはできなかった。
 しかし彼の拳もカリスを殴り飛ばし、その身を傾がせる。
「‥‥こんな程度で」
 唸るように言うと、背筋をまっすぐに伸ばして、カリスはさらに進もうとした。
「待ちなよ」
 その背に、アビスが声をかける。振り返ったカリスの顔が、また、怒りに歪んだ。
「‥‥しつこいヤツだな」
 彼だけではない。見れば、トウマも美咲も、ガディンも、再び立って、カリスに視線を向けていた。
「皆がこれくらいで止まると思っていたのかな?」
 告げたのは、彼ら指揮するアルフォンス・ヴィヴィエ(sf9647)であった。
「‥‥SINNめ」
 苦く呟くカリスの背後に、アリアがフワリと降り立った。
「お一人で、勝てると思っているのですか」
 無感情な声で問いかけてくる彼女を、カリスは憎悪すら籠もった目で睨んだ。
「黙れよ、肉人形」
「‥‥‥‥」
 アリアはそれ以上は何も言わず、俯くのみであった。

●最終決戦:悪魔王の進撃
 それは怒りの権化であった。
「とんでもないものが、出てきたわね‥‥」
 大聖堂前広場に降り立った悪魔王ルシファー(sz0010)を遠目に眺め、琴宮 涙湖(sb1982)はその身に薄ら寒さを感じていた。
 大きすぎる翼と、黒光りする竜の尾。中途半端に人の形を維持していながら、その体躯は天を衝くほどであり、いっそ、不気味と断言できる。
「フン、あれだけ巨大であれば狙いを定める必要もないな。必ず当たる」
 言って、ジェネレイド・キング(se9786)は自らの耳の一部を剣で削ぐと、血に濡れたそれを涙湖に渡した。
「‥‥どうしても、やるのね」
「決めたことだ。口を出すつもりか?」
 ジェネレイドの声は別段重いものではなかったが、涙湖は神妙な面持ちで「いいえ」と首を振った。
 それを見た彼は、「そうか」とだけ告げて、戦場になるであろう一帯へ向かって歩みを進めていく。
「――酷い男ね、私の主様は」
 手のひらの上、まだ乾かない血がぬめっている。その肉片をキュっと握り、涙湖は闇の権化を再び見た。
 戦いは、早くも始まろうとしていた。

「これだけの高さなのに、まだ、霧が‥‥」
 ルークス市国上空、高度はおよそ400m。
 光る翼を広げて滞空しているエテルナ・クロウカシス(sp1494)は、そこに漂っている黒い霧を見て、小さな不安を感じた。
 見下ろせば、この距離からでもそれと分かる悪魔王の巨体。
 エテルナは真っ直ぐ下に手をかざして、祈る。
「永遠など無い、時の終わりは今ここに――!」
 雷鳴。それは天からの裁きの如く、空と霧とを貫いて、ルシファーを頭上から襲った。

 ――かくて、決戦は開幕する。

 雷光は、悪魔王の頭部を見事に直撃した。
 だがバチリと小さく稲光が爆ぜたのみで、その影響は外からでは確認できなかった。
「‥‥愚か、人の子よ」
 その場にいる全員の耳に、しっかりと悪魔王のその声は響き渡る。
 大きくもない声なのに、まるで魔法のようであった。
 一秒が過ぎる、その間にも、ルシファーの身からは煙が立ち昇るように黒い霧が湧いていて、周囲は視認できる速度で汚染されていった。
 悪魔王がのそりと動く。それを見て、マイア・イェルワジ(sj7576)は直感とも呼べそうなものに衝き動かされ、カルマの力をその場で展開した。
「――ほぉ」
 悪魔王が時を止めたのは次の瞬間。
 だが、マイアが成就した愛情のカルマが、悪魔王の怒りによる時間への干渉を無効化していた。
 ルシファーが、その眼差しをマイアへと向ける。
 心に氷の刃が突き立ったように感じられた。口から迸りそうになった悲鳴をなんとか飲み込んで、マイアは呼吸を正す。
「‥‥っ、すごい、のです。でも、でも、絶対負けられないのですっ!」
 恐怖を振り払って、強い語調で言う彼女の前に、房陰 朧(sc2497)のパペットが守るように立った。
「さて、始まっちまったか」
 朧は擬態を解いた聖獣ペガサスにまたがって、クロスボウに矢を番えた。
 マイアが展開するカルマの領域の上方限界スレスレの位置を、文倉 羽留(sn2556)が飛び回り、悪魔王の造型に感嘆しながら地に降り立つ。
「うわぁ‥‥、なんだろうね、あれ‥‥」
 人型と呼ぶには変形しすぎた形状に、何より反転した顔がついているベルトが奇妙すぎる。
「さすが親玉、とんでもねぇが‥‥、見てるばっかじゃ戦いにならねぇしな」
 ケント・ハーシェル(sp0110)は言うと、場にいる仲間を祝福し、自身は伝承武具であるハンマーを手にする。
 構え、どう攻めるかを彼が考えている最中、それは放たれた。
「消え失せよ」
 黒い霧を纏った悪魔王が、その身に宿る莫大な魔力を衝撃波として撃ったのだ。
 その波動は黒い霧を散らしながら、広場の一角全体を丸々飲み込む範囲にまで伝播した。
 マイアが、朧が、派手に吹き飛ばされてしまう。
 すでにルシファーは無限界創世を解除していた。それは、よってカルマの領域から出てしまったSINN達も時間停止に巻き込まれずに済んだが、それは純粋に幸運だったからに過ぎない。
「あ、危なかったの‥‥」
 ルシファーの撃ち放った衝撃波を、ローレムの結界でなんとか凌いだ栄相 サイワ(sa0543)が、額に浮かんだ汗を拭った。
「みんなの傷を癒してくるのー!」
 結界の外に出て、魔法によって分身を作った栄相 セイワ(sa0577)が、場にいる皆の傷を癒すべく、それぞれ違う方向へと飛翔する。
「セイワ、あまり突出しすぎるなよ!」
 二人を守る立場にある東雲 凪(sb4946)が、セイワに向かって声を飛ばし、自身は静かに武器を鞘から抜いた。
 ルシファーは、衝撃波を放った場所から動かずに、超然とした佇まいでその場に直立していた。
 とめどなく湧き上がる黒い霧が、徐々に周囲を霞ませていく。その様子は、誰が見ても確認できるほど鮮明だった。
「おっかないわ、なんだよあれ‥‥。くそったれ‥‥」
 ルシファーの脅威を眼前で目の当たりにして、森川 勘介(sn6255)は静かに身と足とを震わせていた。
 戦えるのか、という疑問を強く覚える。自分に何ができそうか、彼は半ば以上本気になって考えた。
 何もないのではないか。そう思えてしまうぐらい、彼の目に、ルシファーは絶望的な相手として映った。
 悪魔王がゆっくりと右腕を振り上げた。まだ人の腕の形をしていたそれが、大きな音を立てて変形し、魔力の光を纏う刃が形成される。その刃渡りは、人の背よりも遥かに大きい。
「冗談、だろ!?」
 勘介は慌ててその場から退いた。
 直後、刃は振り下ろされて、広場全体がその衝撃に震え、地面に大きく亀裂が入った。
 見た目通りの、そして見た目以上の威力。
 だが、そこに好機を見出して、動き出す者もいる。
「道ができたね、明!」
「うん、ここから行けそう!」
 綾木 なぎさ(sp6274)と高遠 明(sp6960)が、振り下ろされたルシファーの刃の上に飛び乗ると、それを道にして一気に駆け上がっていった。
 そしてギョロリと二人を見るルシファーの瞳へ、明の方がベーっと舌を出して、そのツラを思い切り殴りつけ、蹴りつける。
 十分に勢いが乗った攻撃。ルシファーが鬱陶しげに首を振る、その首の背面、うなじ辺りに白縫 勇魚(sp1063)が転移してきた。
「この、一太刀で!」
 魔力を這わせた刃が、ルシファーの首に深く食い込んだ。
 傷口から噴き出る黒いガスのように見える霧。吸いこんでしまった勇魚は、胸の底に淀む何かを感じて、もう一度転移する。
「オイオイ、大丈夫か!」
 地に転移し、気持ち悪さに膝を突く勇魚へ、勘介が駆け寄った。
「地に這い、苦しみと共に散るがよい」
 魔王が、再び刃と化した腕を振り上げようとする。明となぎさは、慌ててルシファーから飛び降りた。
「危ないことをするのはめっ、ですわー」
 風祭 鈴音(si5986)が、雷光をその手より放った。迸ったそれはルシファーの顔に直撃するが、だが他の魔王がそうであるように、ルシファーもまた、あらゆる外的脅威に対する即時適応能力を有していた。
 すでにエテルナの雷光を浴びたこの悪魔王は、とっくに適応し、完全なる耐性を身につけていたのだ。
 そして鈴音の一撃は、不幸にもルシファーの意識を彼女へと引き寄せてしまう。
「鈴音さん、伏せてください!」
 ヴェイン・ブラックバベル(sc6733)が叫び、悪魔王に向けた拳銃を乱射する。
 一発目は、効果があった。だが二発目以降は、ただ弾かれるのみ。そして彼に、魔の腕刀は振り下ろされた。
 ――悲鳴はなかった。ただ、血が激しく散った。
「ヴェインさんー!」
 鈴音が慌てて彼へと走っていく。
 悪魔王は、すでに彼から興味を外し、再び、大聖堂へ向けて歩み始めた。
「ここで終わらせるわけには、いかないんだよ!」
 花村 三月(sj0016)もパペットを操り、自身も真っ白い拳銃で牽制するが、ルシファーがその口から吐き出した暗闇としか形容のしようがないブレスを浴びる。
「三月、大丈夫か、オイ!」
「な、なんとか‥‥」
 近くで見ていたカミーユ・ランベール(sf0920)に、薬を飲み終えた三月が弱い声を返した。
 ルシファーが、大気を鳴動させ、衝撃波を解き放ったのはその直後。
 それを喰らった者にしてみれば世界が終わるのではないか、というほどの事態であっただろう。
 地面に放射状の亀裂を入れる一撃に、SINN達の隊列は大きく崩れた。
 そして魔王の身からは陽炎が揺らめくように黒い霧が放たれ続け、世界を、ますます黒に染めていく。
「‥‥黒い霧は、罪。でも、キニスだったら――」
 全身に走る痛みを我慢して、立ち上がった皆本 愛子(sb0512)が自ら錬成した欠片を掲げ、握り締める。
 それは狙い通りの効果を発揮し、彼女の立っている場所を中心に、広場の一角を占める黒い霧を薄めていった。
「どうか、皆さま、無事にお戻りくださいませ‥‥」
 負った傷の少なかったセレスティア・アジール(sd3609)が、神へ祈ると共に仲間を癒していると、鷹羽 叶望(sd3665)が小走りに近付いてきた。
「大丈夫、みたいだな」
 彼は、セレスティアと、彼女に癒された仲間達の様子に小さく安堵のため息をこぼすと、詠唱を行なって祝福を施した。
「‥‥四大天使の加護の力があるおかげですわ」
 セレスティアが彼に言う。エンジェリングである彼女は、その加護をより近くに感じているのか、このルークス市国全体に働いているそれをハッキリと知覚していた。
「勝てない道理は、ないですよね。あっちは、一度目も二度目も、失敗してるんですから」
 叶望がカバーできない範囲にいるSINN達に祝福を与えながら、ニコラ・エフィンジャー(sd5801)が言った。
「来たな、祝福来た。これで勝つる! メイン盾は倒れぬ!」
 大型の盾を担ぎ、ブリリアント・テザー(sa0072)がルシファーを見上げ、睨んだ。
「傷ついたらしっかり治療してやるから、ばっちり行ってこい!」
 声援にもならない声援は、きっと彼ならではのものなのだろう。
 医療活動用のミニバンに乗ってきたガブリエル・オリヴェイラ(sa0293)が、ルシファーへと向かおうとするSINN達を送りだした。
 彼らの魔王に対する戦意は、その強大さを前にしても、挫けることなく高かった。
 されど、だからといってルシファーはそう簡単に打ち破れる相手ではなく――
「愚かなり、その小さき身、細き腕にて我が歩みを止められると驕るか」
 三発目の衝撃波が、空間に迸った。
 ナイ・ルーラ(sb0124)は、大地の紋章が刻まれた盾を掲げ、全身で踏ん張ってなんとか波動をやり過ごした。
 しかしその威力に、掲げた盾がミシリと軋み、その威力のほどを彼に余すところなく伝えてくる。
「‥‥さすがは悪魔王、ですか」
 言ってから、彼は自らが愛する女性のことを思った。
 死亡フラグにするわけには、いかないな。重ねて、そう思うのだった。

●吸血鬼決戦:二大騎士の脅威
「そこにいるな‥‥?」
 見つけたのは、魔法を成就したばかりのアンリ・ラファイエット(sp6723)であった。
 戦場は徐々に大聖堂前広場へと近付いて、クドラク達の目から見ても、大聖堂はいよいよ大きくなってきたところだった。
 ルシファーによって市国を守る結界は破壊され、長らく魔を退けてきた聖なる都は今や、黒い霧にまみれつつあった。
 その中で、アンリは感じ取ったのだ。クドラクの群れの奥に、二つの吸血鬼の気配を。
「みんな、あそこだよ!」
 と、空より、オリヴィエ・ベル(sp7597)がアンリが見つけた場所を指でさし示す。
「させはせんぞォ!」
 と、そちらへ向かおうとするアンリを、虎のクドラクが阻もうとする。
 しかしそれは囮、義兄に敵の注意を引き付け、本命であるオリヴィエが敵陣の背後へと転移して、雷光のブレスを解き放つ。
「ちぃ‥‥!」
 何もないところから、声がした。
「下郎風情が‥‥」
「ケダモノの分際で不敬なり!」
 現れたのは、白と黒、対照的な二色の全身甲冑に身を包んだ二体の吸血鬼であった。
 光を完全に透過させるヴラド。その媒体となる外套は、今のオリヴィエのブレスによって完全に破壊された。
 そして姿を現した二体の吸血鬼を前にして、SINN達はビリビリと空気の震えのようなものをそろって感じる。威圧感。強大な実力を有する相手であることは、明白だった。
 大公――『黒騎公』。
 侯爵――『白騎侯』。
 エリザベートの側近たる、吸血鬼屈指の戦力が、この二体であった。
「なるほど、只者ではなさそうだ」
 ハンマーを手にし、呟く癒槻 サルヴァトーレ(sc5529)の傍らで、長谷 綾子(se2407)がライフルに予備の銀弾を装填し、
「泣いても笑ってもこれで最後です。‥‥生き残りましょう」
「‥‥ああ、そうだね。そろそろ綾子君にプロポーズをしても良いのか相談する為にも、生き残らないとだね」
 緊張も何もない声音でそう言うサルヴァトーレを、綾子は目を丸くして見つめた。
「‥‥癒槻さん、あの、それ――」
 声も表情も強張らせる彼女へ、
「そういえば、この戦いが終わったら求婚、結婚をしようと言うのは、死亡フラグだそうだね」
「分かってるならなんで言うんですか!?」
「死ぬ気なんて、さらさらないからさ。――行こう」
 駆け、ハンマーを振りかぶるサルヴァトーレへ、『黒騎公』は「ふん」と鼻を鳴らす。
「ああ、もう!」
 ライフルを構え、綾子は『黒騎公』を狙い撃ちした。
 弾丸は甲冑に弾かれ、火花を散らす。しかし敵に動じた様子はなく、サルヴァトーレと武器を交えた。
 サルヴァトーレのハンマーが、黒の甲冑を打ち据える。
 返ってくる衝撃は、武器を掴むサルヴァトーレの手を完全に痺れさせるほどだった。
 綾子の弾丸もすべて弾かれ、そして一方で甲冑には傷一つない。
 尋常ではない強度。そして硬度であった。
「こちらも、はじめようか」
 大剣を持つ『黒騎公』とは違って、『白騎侯』はその手に武器は持っていなかった。
 それでも悠然と佇んで、兜の奥からSINNを見つめている。
「――お馬鹿さん」
 余裕ぶる『白騎侯』を、ノーラ・ローゼンハイン(so6720)が嘲笑い、彼女の差し向けたパペットが、吸血鬼の足元で盛大な爆発を巻き起こす。
 轟音と爆炎。チリチリと肌を焼く余波に、ノーラは「惨めね」と呟く。
「ノーラ、まだだ!」
 叫ぶナイト・レイヴン(sp0274)の声に、ノーラはハッとした。
 煙の向こう側から、火の粉を散らし、白い影が飛び出してくる。
 ナイトが拳銃を連発し、パペットを向かわせるも、しかし『白騎侯』は残像すらできる速度で動き、それら攻撃全てをかわした。
 パラディンならばその動き、その速度には見覚えがあるだろう。
 風の魔力による身体加速とほぼ同等の速度を、その侯爵は有していた。
「遅いな。そして、弱い」
「言ってなよ!」
 と、ヴィオラ・トーン(sp6120)が殴りかかった。
「みんなでいくんだ!」
 オリヴィエが指示を出し、自身もまた『白騎侯』への攻撃へと加わった。
 連携力を高める魔法によって、尋常ならざる速度を持つ『白騎侯』を捉えようとするも、それでも敵の速度は、彼らの連携を凌駕する。
「遅いと言っている!」
 よけ、殴り、クレスニク達を翻弄する『白騎侯』。
 ならばと、少し離れた場所で、メーコ・カトウ(sh3828)がかざした手に、小型の太陽を生み出した。
 黒い霧が漂う中、陽光が二体の吸血鬼を照らさんとする。
「これで、どう‥‥!」
「ヌルいな」
 だが光は、二体の吸血鬼が纏う闇に吸い込まれるようにして途絶え、届いていなかった。
 以前、『王』ガルバがその身に纏っていたものと同じ、それは夜を纏う『暗夜のヴラド』であった。
「矮小だな、人間共」
「非力だな、獣人共」
 『黒騎公』が、そして『白騎侯』が連なるように嘲笑い、動く。
 未だ数を残すクドラク達に加え、堅固不倒の『黒騎公』と俊敏苛烈の『白騎侯』が加われば、戦況は一気に吸血鬼側へと傾いてしまう。
「いけない、怪我をしたものは下がるんだ! まだ戦える、などとは言わないでくれ!」
 次々増える負傷者に、ジェローム・モローアッチ(sc1464)が顔色を変えて呼びかけた。
「これで、どうですー!」
 と、『黒騎公』を相手取り、紺野 きつね(sp9415)が攻め立てるも、その拳も蹴りも、甲冑を砕くにはまるで足りず、彼女は『暗夜のヴラド』の媒体を探したが、おそらく敵はそれを懐に忍ばせているのだろう、外から見てもそれらしきものは見つからない。
「負けないんだからねー」
 と、言ったのは五老海 ディアナ(sq3106)。
 本来白い体毛を、魔法によって赤くした彼女が、二体のオリジンへと吹雪のブレスをぶつけた。
 バキリと鋭く凍る音、しかしそれぞれ帯びる甲冑は、共に抵抗の力を持っているのか、まるで通じた様子もない。
「火を吹くかと思ったぞ、クマコロが!」
 『黒騎公』が大剣を振り上げる。そこへ、ディアナを庇うように、鷹宮 奏一朗(sp8529)が殴りこんできた。
「女ァ、痛めつけてんじゃねぇぞ!」
「ならばその手で突破して見せよ」
 奏一朗の前に立ったのは、『白騎侯』であった。
「上等ォ! ド派手に掃除してやるぜ!」
 勢いをつけ、風の音だけが耳の中に渦を巻く。
 しかし体術に優れた奏一朗をもってしても、一人では『白騎侯』の速度に追いすがることはできなかった。
 何より、相手がオリジンだということが、最悪だ。
 甲冑に守られたオリジンに、クレスニクの拳は届かない。オリジンが持つ超常的な再生能力を弱めることができないのだ。
 仮に他の手段でこのオリジンに傷をつけたところで、それは文字通り、かすり傷程度にもなりはしない。
 だから今も――
「威勢だけはよかったな、無意味だったが!」
 『白騎侯』が奏一朗を追い詰め、その両腕を覆う分厚いガントレットで殴りつけようとする。
 不意に、膝の裏側に痛みが走ったのは、そのときのこと。
 痛みはすぐに消え、傷は巻き戻すようにして消失したが、不意を突かれたという事実が『白騎侯』の意識を逸らさせた。
「何者か‥‥!」
 と、振り返ったが、そこには何もなかった。
 当然だ、今の一撃。それは鷹羽 歩夢(sj1664)が手にするライフルによって成した跳弾を用いたものだったのだから。
 弾丸は鎧の隙間を貫き、『白騎侯』の動きを止めた。彼が持つ超速度。それは『白兎のヴラド』と呼ばれる、甲冑に施したヴラドの効果によるものだ。

「――神はパウロの手によりて世の常ならぬ力ある業を行い給う」

 ジェラール・テステュ(sa8825)が、その呪いを今、破る。
 元々、仲間が呪われたときのために、或いは、クドラクをどうにかするために用意してきた魔法であった。
 だがそれが最も必要とされる場面。
 今を置いて、他になかった。
「なッ‥‥!?」
 成就した呪い破りの魔法が、『白騎侯』の甲冑に働いていたヴラドの効果を完全に消失させた。
「ぬぅ!」
 動きを止めた『黒騎公』へも、ジェラールは呪い破りの魔法を行使する。
 黒の甲冑、その硬度と耐久性を著しく強化していた『魔鉄のヴラド』は引き剥がされて、甲冑の色がただの鉄色へと変わり果てた。
「隙だらけだよ――」
 と、雫石 結氷(sp9763)が浴びせた吹雪のブレスが、二体のオリジンの動きを鈍らせる。
「オノレェェェェ!」
 激昂する『白騎侯』は、しかし、その速度を失い、立ちはだかる雫石 雪凪(sp8252)の連打を浴び、再生能力を失った。
「呪いに縋らなければ殴り合うこともできないか!」
「グアアアアアアアア!」
 雪凪の拳に兜を吹き飛ばされて、ブン殴られた『白騎侯』はひかない痛みに絶叫する。
 殴った雪凪の拳には、結氷が毒化した血がしっかりと塗りたくられていた。
「ええええい、オノレ‥‥! 殺せ!」
 止まない激痛にのたうつ『白騎侯』を目にして、『黒騎公』がクドラクに命じる。
「ピンチになったら部下頼りか? 全く、格好の悪い!」
 カルディア・モローアッチ(si9465)、義憤と共に投げつけた伝承武具『乾坤圏』が、差し向けられたクドラクを薙ぎ倒し、彼女の手元へと舞い戻る。
 もはや、クドラクもその数を減らし、二体のオリジンは完全に追い詰められていた。
 かろうじてその身を守るものを言えば、太陽避けの『暗夜のヴラド』くらいなもの。
 場に働くヴラドなど、媒体の準備も出来ていない以上、望めるはずもない。
「――こうなれば」
 と、呟き、二体のオリジンは互いに向き合うと、『白騎侯』は拳で、『黒騎公』は大剣で、互いを撃ち合い、斬り合い、その身を霧と化す。
「逃げる気か‥‥!」
 オリジンはディアボルスと同じく、その身を霧散化することができる。
 ――だがそれは、SINN側にとっても既知の事実であった。
「‥‥此処で、終わりにするの」
 すでにそれは完成していた。
 シャーロット・エルフィン(si6767)の手によって錬成された輝く立方体は、彼女が立っている場所を中心に、一定の範囲内に効果をもたらし、そしてその範囲内を彷徨う霊体化したオリジンの姿を光によって浮き彫りにした。
 輝きを纏った二つの霊体が、戸惑うように空を舞っている。
 霊体を可視化する。
 それだけのアルケミーではあるが、この場に於いては効果的面であった。
「吸血鬼の皆さんにも、そろそろ舞台から降りてもらわないとね」
 『黒騎公』を焼き尽くしたのは、アルベルト・ルードヴィッヒ(sa0074)の浄化の炎であった。
 噴き上げる白の中に、それは輝きごと飲み込まれ、影も残さず消滅する。
「‥‥SINNの連携とその力、味わってもらえたかな?」
 とぼけた風に、彼はそんなことを言うのだった。
「この手の為す事が、主の御心に沿うものでありますよう――」
 残された『白騎侯』の霊体も、アンネリーゼ・ブライトナー(so1524)のCROSSより溢れた光を浴びて、そのまま薄れて消えていった。
「終わり、ですね」
 アンネリーゼの呟きの通りに、残されたクドラク達が無力化されたのもそれからまもなくのこと。
 吸血鬼勢力と呼ばれた者達。そのほぼ全てが、SINN達によって鎮圧された。
 エリザベート・バートリーとその手勢が大聖堂に到着したのは、ちょうど、そのときのことだった。

●腐土決戦:飽食の喜び
 イーノクが世界を隔絶する聖域を成就して、そろそろ五分が過ぎようとしていた。
 ここまでの戦況を一言で表すのならば、SINN有利。その一語に尽きるだろう。
 主に戦っているのは、少女と男。ラーチンも、戦闘に加わってはいるものの、その攻撃は散発的であり、積極性は皆無であった。
「テメェ、ホンキでやれや!」
 と、男から叱責が飛ぶが、大国ロシアを統べる大統領に対して、随分とデカイ口を叩けるものだと、ラーチンは思って笑うばかり。
 男がラーチンに忌々しげな眼差しを送りつつ、咆哮と共に全身から強烈な放電を発生させる。
 それはどこぞの悪魔の魔法なのか、ラーチンが知っているものではなかった。
 きっと、SINNのうちにも知る者は少なかろう。
 しかし初めて見る攻撃でも、オジョサーマ・アクヤク(sn7437)は盾をかざして電撃を受け止め、生じた隙間に後ろから飛び出した種子島 カグヤ(sh3932)が、構えた日本刀で男を切りつける。
「オーッホッホッホッホ、いくら魔王の眷属でもスタンドプレーはいけませんわ!」
「鹿島神流剣術免許皆伝、魔を断つ刀、カグヤとして戦うのみです!」
 ギリリと奥歯を鳴らし、男が二人を睨む。
「テッ、メェ‥‥ら!」
 だが殴りかかろうとしたその動きは、明らかに鈍くなっていた。
 凍結。
 カグヤが持った刀は、氷の魔力を帯びていた。
 ザワリと、男から黒い煙が上がるように、蝿の群れが再び湧いて出る。
 しかしオジョサーマとカグヤは即座にその場を退避、そして二人揃って視線を見上げた。
 つられて男が頭上を見れば、そこには、光の翼を広げている村正 刀(sf6896)がいた。
「吹っ飛べやァ!」
 放たれた火球が地面に着弾し、巻き起こった爆発は男を丸々飲み込んだ。
「何やってんのよ、もォ!」
 爆発の範囲外にいた少女が、男に向かって野次を飛ばす。
 その背後より、ハーケンの操るパペットが迫るが、少女はそれの気配に気づくなり、手にした大型のハンマーを振り回し、パペットを殴りつけた。
「うざったいんだよ!」
 後追いに放った火球が炸裂し、炎の花と轟音と、傷ついたSINNが爆風に煽られ、転がる。
「全く、派手好きだな。‥‥怪我をした者は後ろへ。直してもらって」
 黒い軍服を纏い、パペットを侍らせたジュラルディン・ブルフォード(sn9010)が仲間に指示を出し、その後方では両角 和沙(so2565)が癒しの魔法による治療を行っていた。
「ハハン、群れなきゃ戦えないって、ダサいわね」
 その様子を、鼻でせせら笑い、少女が口から吐き出したのは、どす黒い毒のブレスであった。
「やってくれるじゃねぇか、これがよ!」
 対抗するように、ハーケンは装甲車の催涙弾を発射。
 少女の足元に転がったそれから、凄まじい勢いで催涙ガスが放出される。
「ちょっ‥‥、クソが!」
 少女は慌ててその身に魔力を纏った。しかし遅く、生身に染み込んだガスによって、目に激痛が走り、その場に座り込む。
 隙ができる。その隙を、ジュディス・バシッチ(sp1426)が活用する。
「うふふ、うふ、さぁ、このお薬をどうぞ」
 奇妙な笑いを漏らしつつ、彼女は傷ついた仲間へ持ってきた薬を配っていった。
「くそ、‥‥くそっ!」
 ゴシゴシと目をこすっている少女を、ブルース・ゴールドバーグ(sp2273)が狙う。
 構えた重機関銃が重い手応えを彼の身に伝え、魔力を帯びた弾丸を吐き出すと、それは少女の身体に命中し、瞬く間に穴を穿ち肉を散らす。
 絶叫としか呼びようのない悲鳴。少女がブルースを睨み、何事かを唱えると、再生を待つまでもなく傷が消えた。
 エンジェリングが使うような治癒の魔法、なのだろう。
 一体ここまで幾度、この魔王眷属は悪魔魔法を使ってきたのか。
 数えてはいない。
 しかしそろそろ機も熟したかと、ニコラス・コーウェン(se7212)が少女へと手をかざす。
 気づいた少女が、その視線をブルースから彼へと移そうとした。
「――確実に、殺す」
 ニコラスの短い一声。そして彼が広げた光の翼が虹色の光沢を得て、成就した魔法はあっさりと、少女の命を奪った。
「‥‥‥‥あ?」
 くたりと、力を失って倒れ伏した少女を見て、男の口から間の抜けた声が漏れた。
 男は少女に観察しようとする。だがニコラスの存在を警戒しているのか、むしろその足は少女から離れていった。
 だがそのおかげで、彼は側面より迫っているものに気づくことができず、
「マエダ!」
 マユリ・バルギース(sp0231)の声が響けば、男の左側より、脇差を構えた聖戦士型のパペットが切り込んでいく。
「ナメ、っる、なァ!」
 顔を憤怒の形相に変えて、男は迎撃すべく全身に炎を纏った。
 しかし、マユリのそれはブラフ。本命は、右側だ。
「――ナカノ!」
 突っ込み、間合いを一気に潰した魔剣士型のパペットが、剣を大きく振り抜いて、漆黒のオーラを解き放った。
 完全なる不意打ち。対応しきれず、男は絶叫と共に吹き飛ぶ。
「好機。貴様の罪、この私が断ち切る!」
 御剣 キョウ(sp0401)がその身を心の炎に包みこむ。
 狂乱した彼は炎を纏った男よりなお烈火の如く、刃は敵を切り刻み、肉と骨とを切り裂いた。
「グ、ギ、アァァァァァ!」
 汚い悲鳴だ。
 戦いを眺めていたラーチンは、そのように思う。
 男は討ち取られるだろう。程なく、SINN達の前に敗れ去り、この場に骸を晒すことになるだろう。
 この結果を、予測できていなかったわけではない。
 男と少女、この二人が魔王の眷属に選ばれるに足る器かと問われれば、ラーチンは絶対の自信を持って「否」と答えるだろう。
 それは何より、背後に蟠り、腐臭を放ち続けている魔王自身も分かっているはずのことだった。
「何がしたかったのかしら」
 問いかけるレイメイ・ウィンスレット(so0759)。ラーチンは、書を抱え、自分を見る彼女に向けて、軽く肩をすくめる。
「どうして、わざわざ人をやめたりしたのか、興味があるわ。大統領閣下」
「なるほどね。随分と肝の据わった女性であるようだ。‥‥失礼な物言いだったら、謝罪するが」
 戦いのさなか、味方である魔王眷属の男がたった今討たれ、SINN達の意識が自身に向きつつあることを知りながら、ラーチンはその物腰を崩さずに言った。
「魔王の眷属なんかに堕ちて、何がしたかったの?」
「堕ちたのではない、這い上がったのさ」
 また、彼は肩をすくめる。
「君は我が祖国の歴史を知っているか? 世界の歴史を紐解けば、それは目を逸らさない限り視界の内に収まるはずだ。わがロシアの歴史、ソヴィエトと呼ばれていた頃にあった大粛清、そして冷戦も――」
「それくらいは、知っているわよ」
 レイメイは言葉を交わし、そして書を開く。
 彼女の狙いは真名の取得。魔王の半魔たるこの男との会話によって、彼女が持つ書には、上手くすれば契約悪魔の真名に近付くヒントが浮かぶ。
 だがラーチンは、低く笑った。
「どれだけ強い力を手に入れたところで、争いが終わるわけではない。敵国との、政敵との、同朋との、終わりなき争いが続く。力を持てば持つほど、だ」
 言って、そして彼は指摘する。
「結局、大国の統治者になったところで、手にできた力は人の社会の枠組みを超えられるものではなかった。だから、欲した。もっと強い力を、そして、争うことのない世界を築ける力を、ね」
 言葉を重ねるその顔に、笑みは深くなって、
「ところで、無駄な努力は終わったかい?」
 書には、何も浮かばなかった。ラーチンは書の持つ力を、跳ね退けていたからだ。
 SINNが彼を囲む。もはや、魔王眷属といえど、単独でどうにかなる状況ではない。それは明白だった。
「君達は素晴らしい」
 ラーチンは素直に称賛した。
「個の力に限れば、優っているのは我々だった。だが、それ以外において、全ての面で優っているのは君たちだった。装備も、魔法の練度も、個人間の連携も」
 SINN達が作る輪の中心で、そう語るラーチンに、殺気はなかった。ただ、蝿の飛び回る羽音だけが耳障りに響いている。
「だがそれでも――」
 ラーチンは、スッと緩やかに両手を広げた。SINN達が身構える。

「私に敗北はない」

 雷鳴が轟いた。
 降り注ぐ稲妻に、SINN達は驚き、場を離れる。
 ラーチンを囲う我が、一回り大きくなった。稲妻は、ラーチンの周囲にのみ落ちていた。
「グブ、ブふフゥ‥‥」
 腐臭と、汚い笑い声。魔王の身より湧き出た蝿が、ラーチンにたかり、その身を喰らい尽していく。
「最後マで、最期まデ忠実だッダねェ。イイよ。君モ産んデあげルガラねェ」
「そのお言葉が聞ければ十分」
 蝿に喰われ、身を細くしてゆくその苦痛は、想像を絶するものであるはずだ。
 しかしラーチンの声は揺らがず、彼はそのまま、魔王に喰われてこの世界から消滅した。同じように、男と少女の骸も、蝿に全て喰らわれてしまう。
「グヘ、グヘヘヘェ‥‥」
「ベルゼブブ!」
 目論みを挫かれたレイメイが、転移銃と呼称される伝承武具を魔王に向けて発砲する。
「オ?」
 それは命中すると同時に、魔王の持つ頑強な身体を弱体化させ、短い時間、魔神程度にまで貶めた。
「覚悟してもらいます!」
 続くように動き出したのが、スィニエーク・マリートヴァ(sj4641)であった。
 彼女の放った一矢が、そのヘドロのような身体に突き立つと同時、火の魔力は音を轟かせて炸裂し、魔神の身体をも無効化せしめる。
 スィニエークの手に、手応えはあった。衝撃に巻き上がった土煙が晴れていく。
 だがそこに、佇む魔王はまだ泰然自若の様子で佇んで、
 撃った矢がヘドロの身体に呑まれて消えた。
「ゲヘェ、ヂグヂグずルねェ」
「‥‥‥‥魔王ベルゼブブ、どうしてあなたは、悪魔にその身を堕としたのですか」
 レイメイがラーチンに尋ねたことを、プリム・ローズ(sn6401)が魔王に問う。
 ラーチンは「這い上がった」と言っていた。ならば魔王の返答は――
「オ‥‥」

「お腹ズいだァ〜」

 デロリと長い舌をその口から垂れさせて、魔王はその身から蝿を湧かせる。
「た、食べダイんダヨ。お腹ズイダ。全部、全部食べダイ。美味ジイもの、神モ、世界モ、食べデみただグなッダだゲダよォ〜、グブふゥ〜」
 食欲。ある意味も、最も純粋なる欲求。
 それこそが理由であると、魔王は、語った。
 崇高でもなければ、壮大さもない、それは実にありふれた、常軌を逸した答えだった。
 再びの雷鳴。落ちた稲妻がSINNを襲う。
「この雷、バアルのやろか‥‥。あの魔王、吸収した悪魔の力を使えるのかもしれへんなぁ‥‥」
 ラティーファ・アミン(sq2900)の考察は当たっていた。
 魔王の身体が突如、炎に包まれて燃え上がる。そしてその身から散った火の粉が、巨大な爆発を、周囲に引き起こした。
 喰らった男と少女が、それぞれ持っていた力であった。
「SINNハ美味ジいのガナぁ〜。グフゥ、だノジミだなァ〜」
 周囲から強烈な敵意を浴びながら、腐土の魔王は蝿を纏い、今から喰らうSINNの味を想像して笑みを浮かべるのだった。

●ルクス・カルワリオ:少女への声、少女の声
 ――一体、どんな感情を向ければよいのだろう。
 目の前で繰り広げられる戦い。
 それはマリアが知る仲間たちと、マリアを求める魔王との、大いなる戦いであった。
「カリス――! あんたは、失う痛みに恐れ逃げてるだけ。自分にとって楽な方法を選んだだけじゃない!」
 九面 あずみ(sn7507)が、カリスへと強く思いをぶつければ、魔王は、「黙れ!」とそれを一蹴しようとする。
「黙って、たまるもんか! 気持ちを押し付けるだけの兄だけとの世界だなんて、妹から言わせて貰えれば、真っ平ご免なのよ!」
「黙れと言っている!」
 カリス、黒の翼を大きく広げて、怒りを再び破壊の波動へと変換する。
 だがアウグスト・ソウザ(sa2367)は盾を構え、それをなんとか凌ぐと、
「これが、加護の力か‥‥」
 己の身にある暖かな力の循環を実感する。
 それは彼らの祈りが呼び起こした、四大天使の加護の力であった。
「ムカつくんだよ、天使如きが‥‥!」
「カリス‥‥、マリアは、アリアを助けたいと言っているぞ。おまえのしたことの結果が、マリアのリスクに繋がっているんだぞ」
「それがどうした。だったら槍を渡せ。それを僕が使えばいい。マリアは、何もする必要はないんだ!」
「‥‥強情っぱりめ」
 なんとか、カリスを動揺させようとするアウグストだが、まるで話が通じない。ため息が出そうになる。
 これらの会話は全て、マリアの耳にも届いていた。
 あずみやアウグストが、自分を案じてくれていることが嬉しくて、反面、カリスの行動原理が自分であることが、辛かった。
 私が、皆に、カリスに、どんな感情を向ければいいのだろう。
 聖槍をグッと腕の中に抱えこんで、マリアは考え続ける。
 しかし戦いは、そんな彼女の悩みをよそに、続いていた。

「どいたどいたー! ブッぱなすぜー!」
 巨大な金属の塊が、木々の隙間から姿を現した。
 それはユリウス・ブライトナー(si7758)が操作する、軽戦車であった。
「そんな玩具で火遊びか?」
 嘲笑うカリスへ、ユリウスは「言ったな!」と、ムキになって砲塔を彼へと向けた。
 銃声などとは比較しようもない強烈な轟音を響かせて、主砲が発射。炸裂し、爆発は土砂を派手に巻き上げた。カリスの身体が土煙に隠れる。
 その身に魔力を這わせたカリスに、いかに強力といえど単純な物理衝撃は通用しない。
 精々、衝撃に身体が吹き飛ばされる程度のものだった。それも、ダメージには繋がらないが。
「無駄なことを‥‥」
 呟いて、カリスは立ち上がる。
 そして土煙が晴れようとしたとき、そこから飛び出してきた人影に、彼は眉をひそめた。
「‥‥マリア?」
 聖槍を手にしたマリアが、一直線にカリスに向かって駆けてくる。
 これは何を意味しているのかと、一瞬、カリスは考えた。
 しかし直後、次々に、マリアが現れて走ってくるではないか。
 ここに到り彼は、その全てが幻影であることを悟った。そして、唇を噛む。
「くだらないことを!」
 怒り、迸った魔力の衝撃が、土ぼこりとマリアの幻影とを一気に消し飛ばした。
 戦車に乗っている者の仕業かと、彼がそちらを見れば、直後、その身体に思い切り水がぶっかけられた。
「何‥‥?」
「‥‥効果はありませんか」
 戦車上より、聖水を詰めたウォーターライフルを構えたブリギッタ・ブライトナー(si7746)がカリスの反応を確認していた。
 魔王になりかけているというカリス。それがどういった状態なのか、確かめるための一手である。
「幻影も消されちゃったか。陽動にもならなかったね」
 マリアの幻影をアルケミーによって生み出したのは、戦車に同乗しているギルベルト・ブライトナー(si7759)であった。
「おちょくってっくれたな‥‥?」
 カリスの中に、苛立ちと怒りが滾る。あの戦車を壊そう。あの戦車の中にいる奴らの四肢を千切ろう。最後に首をもいでやろう。
 暴力的な想像を浮かべながら、一歩、戦車へと踏み出そうとする。
 そのとき、すでにSINN達の一部は、アリアの奪還に向けて動き始めていた。
「――アリア様」
「あなたは‥‥、彼方さん‥‥?」
 戦場の片隅、有栖川 彼方(sp2815)から話しかけられて、アリアは彼女を見る。
「あなたを助けに来ました。さぁ、マリア様が、お待ちです」
「助けに‥‥」
 彼方にそう言われても、だが、アリアの表情は動かない。
 差しのべられた手を、彼女が取ることはなかった。
「アリア、様‥‥?」
「彼方さん、私はここにいます。ここで、戦いの結末を、見届けます」
 決然と、アリアは言う。
 今、カリスの手中にこの身があるとして、彼方に助けられマリアのもとに行ったとしても、それで、自らは果たすべき役割の何が変わるというのか。
「この戦いは、あなた達の戦いです。私の身を案じるよりも、勝つことだけを、お考えください」
 アリアは、そう、彼方に告げた。
「アリア様‥‥」
「――何を、している!」
 彼方が何かを告げようとする。だがそれを、怒りにまみれた声が阻み、上から塗り潰した。
「カリス‥‥!」
「人の目を盗んでチョコマカと‥‥、ソレをおまえ達なんかに渡すと思うかァ!」
 カリスの言いようは、まるでアリアを人として扱っていなかった。だがアリア自身、何も言い返すことなく、粛々と、それを受け入れて、
「殺すぞ‥‥」
 甲殻に覆われたカリスの掌から、鈍く光る骨剣がズルリと伸びる。
 彼方はライフルをその手に構えてカリスと相対しようとした。
「彼方さん、逃げてください!」
 アリアが彼方の身を案じる。だが彼女は退こうとはせず、むしろアリアをカリスから庇うように、その前に立った。
「八つ裂きが望みか!」
「その前にあなたが凍ってしまいなさい」
 冷やかに、その声は滑り込んできた。
 一陣の風が吹く。それは氷雪と強烈な冷気を伴って、カリスを包みこんだ。
「呆れたわ。同じように妹を持つ身としてはあなたのやってることは減点だらけよ。マリアにはマリアの、アリアにはアリアの意志があるのに、あなたは全然、それを認めてないじゃない」
「黙れよ、黙れェ!」
 吹雪を彼に浴びせたティファニー・エヴァーツ(sa1133)が、翼を閉じて地面に降り立つ。
 彼女の言葉は、きっと、カリスの核心の一部を突いていた。
 カリスの表情に浮かぶ激情が、今一瞬、より強く、荒々しくなる。
 しかし彼へと向けられる言葉は、それで終わったわけではなかった。
「神様にお怒りなのはわかりますけれど、やってることは三流ですわよ、カリス様」
 媛 瑞玉(sd3404)であった。
「おまえ‥‥」
 彼女は、いつものように軽薄で、それでいて艶のある笑みをその顔に浮かべて、カリスへと言葉を紡いでいく。
「ええ、そうですわね。神様は理不尽ですわ。私もそれは重々承知しております。けれど、だからってそのために妹を泣かすって馬鹿なの? 馬鹿ですわね」
「‥‥‥‥」
 カリスが押し黙る。瑞玉の指摘に、思うところがあるのだろうか。
「あなたはまだご存じないのでしょうけど、マリア様はアリア様を救うために決断しましたわよ?」
 その言葉に、最初に反応したのはカリスではなく、
「‥‥え?」
 ――アリアであった。
「全く、ひどい話ですよね」
 と、それは何に対する言葉であったのか、少し離れた場所でリーリヤ・パルフョーノフ(so2515)が呟くと、彼女の操るパンダ型のパペットがカリスを思い切りブン殴った。
 それが、スイッチとなる。
「グアアアアアアアアアアア!」
 咆哮が炸裂し、カリスはパンダのパペットを掴み、そのまま地面に叩きつけ、踏みつけた。
 怒りが、臨界点を突破する。同時に、彼が無意識的に行なっていた周囲へのホスティアの吸収が、一気に激化した。
「きついお仕置きをくれてやりますよ!」
 叫び、レオン・ブラットショー(sn7285)が手榴弾を投げつけるも、噴出した聖水はカリスを濡らすだけで焼きはしなかった。
「邪魔なんだよォォォォォォォォォ!」
 逆に、レオンの方にまでホスティアの吸収範囲は拡大し、彼は命を座れて膝を屈しそうになった。
「あ‥‥、ァ‥‥」
 アリアは、自分の見ている前で行われているこの戦いに、我知らず、身を震わせていた。
 今やカリスは、その場にいるだけで命ある者全てを殺す存在と成り果てている。
「みんな‥‥、が、頑張って‥‥!」
 倒れ、力尽きようとする戦士たちを、三輪山 珠里(sb3536)が癒しの業によって支えようとするが、回復させたそばから、カリスはその命を吸い上げていくのだ。
 魔王の名を冠するに値する暴虐。アリアは、息を止めた。
 そしてマリアは――
「行っちゃ、ダメなんだよね‥‥」
 必死に耐えていた。
 戦場が、アリアのいる場所へと移り、もはやマリアは気が気でなかった。
「大丈夫よ、きっと」
 と、サラ・オブライエン(so7648)が横で励ましているが、その言葉も、今のマリアには半ばほどしか届いていない。
「さぁて、できること、しよか」
 郡上 浅葱(sd2624)が風を操って、カリスの動きをわずかにでも鈍らせようとする。
「こんなもので‥‥!」
「そうだね、キミにとっては大したことはないのだろう。でも、僕達にとっては大きいんだよ」
 と、彼の動きが乱れたその隙を突いて、リュールング・アマーリア(sg1023)が錬金製の弾丸を仕込んだ銃を発砲した。
 それはカリスに大したダメージは与えられない。しかし錬金術の効果によって、カリスの視界の一切が、闇に覆われる。
「クソッ‥‥!」
 叫べども、何も見えず、カリスの動きがさらに大きく乱れた。
 これを好機と見て、何人かが動き出す。
「アリア!」
 空より、神代 翼(sb3007)がアリアへと声を張り上げる。
「君は、このままでいいのか。君はこのまま、槍に貫かれて終わって、本当にいいのか! 君だって、人間だろう!」
 訴えるその言葉に、アリアの表情が歪む。
 だが、噛み締めた歯は開かず、耐えている彼女を破るだけの言葉を、未だ翼は紡げない。
「アリア、君の望みを言えばいいんだ!」
「――それは無責任だろう?」
 冷たい声。翼の言葉を打ち砕く、魔王の眼差し。
「アリアを助けて、世界を滅ぼすのか? この肉人形を人間扱いして、他の人間を有象無象扱いするのか?」
「‥‥カリス!」
 カリスはすでに視力を取り戻していた。
 その瞳、殺意と、憎悪と、人が持つあらゆる負の念にまみれた眼光が、翼を射抜く。
 しかしカリスが空へと舞う前、詩馬 光之助(si7745)が刀を鞘から引き抜いて、静かにその前に立って構えた。
「哀れな男だ、カリスよ」
「‥‥なんだって?」
「マリア殿は、迷いの中でもしかと決意を固め、アリア殿を救う為にここに立っているでござる。それに対して、おまえは何だ」
「口ではどうとでも言える。‥‥言いたいことがあるんなら、先に力で示して見せろよ!」
 標的が、光之助に変わった。カリスが殺意の笑みと共に襲いかかった。
 光之助の握る刃が軽やかに躍る。
「受けきれるか、我が奥義――!」

「迷いは、捨てられませんか?」
 揺らぐアリアへ、イェンス・レーン(sk2780)が問いを投げた。
「――迷いなど、ありません」
 固く、アリアは告げる。
「私達には、あります」
「‥‥え?」
 しかしイェンスのこの返事に、彼女は虚を突かれたように聞き返し、
「私達は、貴女を助けたいと思っています。しかし、それが貴女の想いに沿っていなければ、結局、私達の行ないは自分勝手な行ないということになってしまいます」
「そんなことは‥‥」
「いえ、そうなのですよ」
 戸惑いながらも否定しようとするアリアを、イェンスはさらに強い声で否定した。
「しかし、私達はやはり、貴女を助けたい。マリアさんが誰よりもそれを願っているのはもちろんのこと、この場にいる皆も――」
「‥‥‥‥」
 言葉を出せずにいるアリアへ、イェンスは、そう、問うのだ。

「貴女は、どうですか?」

 と。
「貴女は何を望まれますか、アリアさん」
「私は‥‥」
「もしも貴女に、生きたいと願う気持ちがあれば、どうか、それを口にしてください」
 翼の言葉が、アリアの心によみがえる。
 人として、願うこと。アリア自身の、望み。
 だがそれを望めば、それは自らの役目の放棄であり、そして、世界の――
「アリア!」
 マリアの声が聞こえたのは、そのときだった。
「こっちへ来て、そこは危ないから! 早く、お願い!」
 彼女はこの期に及んで、まだ、アリアの心配をしているのだ。
 その姿を見て、アリアは、マリアが持っている聖槍よりも、マリア自身の方から、目が離せなかった。
 彼女はいつだってそうだ。こっちが考えていることなんて、感情でブッ飛ばしてしまう。
「もし――」
 イェンスが微笑んだ。
「もし、助けを求める気持ちがあるなら、どうか、それを口にしてください。その一言があるだけで、私達から迷いは消えて、きっと、何十倍にも力を尽くせるはずですから」
 アリアの瞳から、一筋、涙がこぼれた。
 閉ざしていた気持ちがポロリと、その震える唇からこぼれ出る。

「助けてください‥‥」

「絶対に助ける!」
 果たして、叫んだのは誰だったのか。
 いや、もはや叫んだのは誰でもいい。それは今や、この場にいるSINN全ての総意となったのだから。
「アリア様、今こそ貴女を助け出します!」
 ずっと、ずっと待ち続けていた彼方が、行動に出る。
 彼女は魔法によって自らの筋力を増大させると、その場でアリアを抱きかかえ、走り出した。
「何をしている、おまえェェェェェェェェェ!」
 当然のように、カリスが気づく。彼は彼方に手をかざし、ホスティアを吸い上げようとした。
 彼方は自身の身体が重くなったと感じた。強烈な脱力感は、秒単位で命を吸われ、ダメージが蓄積されていってるせいだ。
「――邪魔を、させていただきますよ」
 それをイェンスが阻む。
 彼が錬成した黒い革が、生命力の吸収を一時的に阻んだ。
 本来、ルクス・カルワリオの儀式に使うはずだったそれを、彼はこの場で使用した。
 その黒革によって、ホスティア吸収が阻まれている数秒、彼方はアリアを抱き上げたまま、マリアの方へと走っていく。
「アリア!」
 マリアが目に涙を溜めて、アリアの名を叫んだ。
 その一言は、幾千幾万の言葉よりもなお雄弁に、マリアの、アリアに対する想いを物語っていた。
「姉様‥‥」
 と、答えるアリアは両腕を広げ、マリアに抱き付いた。
 それは、この場にいる全てのSINNが目指した光景の一つであった。
「マリアァァァアアアアアア!」
 だが水を差す無粋な声。カリスが燃える翼を広げ、突っ込んでこようとする。
「いつまでも厨二病患ってんじゃないぜ、カリス!」
 鳥のような飛行機械にまたがって、アーサー・ラヴレス(sa4830)がカリスに逆に突っ込んだ。
 彼の騎乗の一撃を受けて、燃える翼が大きく裂かれる。
「グゥゥゥゥゥ!!?」
 空で、大きく軌道を狂わせる彼へ、アーサーがびしっとキメて、
「如何なる時もアーサー流、それが俺のやり方だ!」
「アーサー、かっこいい!」
 マリアがはしゃいで声援を送った。
 だがカリスは、さらに殺気を増すばかり。
「全て‥‥」
 彼は唸る。
「全て‥‥!」
 彼は呪う。
「全て――壊す!」
 彼は怒る。
「全て、全て壊す! 壊してやる! このサタンが、全てをだ!」
 浄罪救世。それを成す為の、最後の試練が、そこに立ちはだかっていた。

●最終決戦:罪と呼ばれるもの
 悪魔王の威容を、SINN達はただ見上げることしかできなかった。
「もう、終わり、とは言うまいな」
 ルシファーの声が響く。
 だがその声に、果たして何人が噛みつけるのか。
 幾度目かになる魔力の波動は、一度は傷を癒した彼らを容赦なく打ち据えて、再び地面に転がした。
 アルケミーによって一度は薄まった黒い霧も、その発生源が変わらず健在であるならば、その濃度は時と共に高くなってゆくばかり。
 悪魔王、ディアボルスの頂点。SINN達はそれを、否応もなく実感するしかなかった。
「‥‥目が、ないわけじゃありません」
 その身に大天使の力を顕現し、空を舞うクラリーチェ・ラグランジュ(se5708)が、ルシファーの背面に回って、その尾に並ぶ鋭い突起の一つに白い紐を結びつけた。
 瞬間、彼女の頭の中に浮かぶルシファーが持つ能力。それは、先ほどからこの魔王が放ち続けている魔力の波動であった。
 クラリーチェが結んだのは『獣縛り』と称された伝承武具だ。かつて黄昏の狼を封じたとされるそれは、彼女に魔王の力の一端を教えてくれた。
 ただ、肝心の封印能力は、悪魔王の高すぎる抵抗力によって無効化されてしまったが。
 しかし封印の可能性が尽きたわけではない。
「兄様! 今です!」
「了解、この一撃にて――!」
 彼女が合図を送ると、ダンテ・エイナウディ(sk2704)がそれに応じて手にした槍をルシファーに向かって全力で投擲した。
 聖槍として伝えられてきたものを素材に使っているそれは、クラリーチェが使ったもの動揺に封印の力を秘めている。
 槍は、ルシファーの身に確かに突き立った。だがしかし叶わない。
 悪魔王の抵抗力は、当然ながら生半可ではなかった。
「試み、そして知れ。全ては徒労であると」
 ルシファーは言葉を紡ぐ。彼女たちの努力などこの魔王は意にも介していないのだと、聞く者全てに伝わった。
「言ってくれるじゃない‥‥」
 だがそれに憤慨する者もいた。
 レティシア・モローアッチ(sa0070)である。
「今の言葉、どっちかといえば天才の私を怒らせたわよ!」
「で、そんな姫さんにつきあうことになるわけだな。いいけどよ、別に!」
 彼女と共に、ラルフ・フェアウェイ(sg4313)が走り、ロングソードを構えた。
 魔王は敢然と立ち向かってくる二人を視認するや、その瞳は強く輝き、光が迸った。
「姫さん!」
「オーライ!」
 レティシアが、手にしていた瓶の中の液体を周囲にぶちまける。
 するとそれはたちどころに虹色の霧状に変化して、二人を包み込んだ。
 魔王の光線は霧に届くや、目に見えて減衰し、ラルフは装備している防具でそれを完全に受け止めきる。
「お返しだ、受け取れよ!」
 ラルフが反撃に出た。赤い光を纏ったロングソードでの、渾身の一撃。
 巨体ゆえ、俊敏さなど望めないルシファーの、その太い足を、刃が確かに切り裂いた。
 直後、その足がいきなり蹴り上げられ、ラルフを襲う。
「やっべ‥‥!」
 彼は、直感より防具に魔力を注ぎ、巨大質量に数mも吹き飛ばされながら、着地。なんとか凌ぐ。
 レティシアが錬成した、ダメージを緩和するミストがあったからこその結果であった。
 それがなければ、と、考えると、ぞっとする。
「大丈夫、ラルフ?」
「‥‥ちょっとやばかった。姫さんのおかげだぜ」
 素直に礼を言うと、ラルフはナックルを握り締める。レティシアもパペットをスレッドで強化し、
「援護するわ」
「援護し合おうぜ」
 頷きあって、彼女たちは黒い霧の中で自分たちだけの霧を纏い、再び、魔王へと立ち向かっていった。

 黒い霧が濃度を増していく。
 それはもはや、SINNであってもさなかにいるだけで気分が悪くなってくるレベルにまで高まっていた。
 黒い霧。
 可視化したキニス。
 それは本来、不可視の霊的物質であり、魔界と呼ばれる領域より漏れ出て生物を蝕み、悪魔へと変える、いわば全ての根源とも呼べるものだ。
 ルシファーから、それが無尽蔵に湧き続けている。
 これの意味するところをSINN達が知るのは、この数分後のことだった。

「死せよ、命ある者共」
 ルシファーが息を吹きかけるように闇のブレスを吐いた。
「くそ、危ないなぁ‥‥!」
 酒匂 博信(sh4156)が盾を前に突き出し、なんとかブレスを阻みはしたが、小型の盾では防げるものも高が知れる。
 闇に身体を焼かれ、彼はフラリとその身を傾がせた。
「おっと、危ないね。大丈夫?」
 ルバート・ウォルトン(sd4930)がその身を受け止め、支え直すと、博信は「ありがとう」と礼を一言、足を踏ん張り直した。
 ルシファーへは、天道 一輝(sg8206)や董 春華(sz0075)らが挑んでいた。封印が安置されている大聖堂へと近づけるまいと、彼らは激しく抵抗する。
「世界に光を取り戻す。それが俺達の使命だ!」
「喚くか、人よ。神の創りし土くれ共が」
 静かに響くルシファーの声。
 だが開戦時に比べれば、確かにSINN達の側は勢いを盛り返してきていた。
 少なくともここ数分、ルシファーは大聖堂へと近づけておらず、SINN達の奮戦によってその場に繋ぎ止められているのだから。
 そしてルバートが狙っていた瞬間が、きた。
 それは、刃を形成するルシファーの腕が、横薙ぎに振るわれた直後、巨体の動きが硬直する隙を突いての行動だった。
「あまり人間をなめるなよ、ルシファー‥‥」
 声に力はなかった。だが錆びた懐中時計を掴む手には、異様なほどに力が込められていた。
 それは彼が錬成した最後の錬金術製のアイテム。ルバートは掴んだ時計を大きく振りかぶって、悪魔王へと投げつけた。
 狙い通りの効果を発揮すれば、それは多少なりとも、ルシファーが持つ時を操る力を封じたことだろう。
 しかし発揮された効果は、彼が想定したものとは違っていた。
 本人にとっては不本意だろう。しかし、戦況においてはどうか。それは別問題である。
 悪魔王の動きが、目に見えて鈍る。
 発揮された効果は、時間の鈍化。
 ルシファーに流れる時間が、そのアイテムの効果によって一時的に緩やかになった。
「チャンス、ですね。できることをやらせていただきますね」
 実和 真朋(sn6429)は、この機を逃さなかった。
「お願いできますか?」
 と、彼女に請われ、ディミトリエ・シルヴェストリ(sb9264)がうなづいた。
「大丈夫だ。奴にSINNという存在のなんたるか、教えてやろう」
 ディミトリエは、真朋が錬成したクリームをアローの先端に塗りたくり、バイクを発進させる。
 超絶の操縦技術を持つ彼が、衝撃波によって砕け、平坦さを失った広場を駆け抜けて、やがて目の前にせり上がった瓦礫。
 それをジャンプ台にしてバイクを大きく宙に躍らせる。
「悪魔王よ、古風な武器と侮るなかれだ。聖なる力を乗せた一撃は、重いぞ!」
 ルシファーの尾の上に着地し、ディミトリエはルシファーの背に一矢を放つ。
 命中した瞬間、身を捻ろうとする悪魔王から彼はバイクで再度跳躍、地面へと降りて場を離脱する。
 直後に、真朋の錬金クリームが効果を発揮した。
 それは奇しくも、ルバートと同じくルシファーの時間操作能力に干渉するためのものだった。
 そして、実際に発揮された効果もまた、ルバートのそれとよく似ていた。
 ルシファーの動きが止まる。悪魔王に流れる時間が完全に停止したのだ。

 今だ――!

 全てのSINN達がそう感じた。
 ルシファーほどの存在である。
 いかに自由なる魔法の錬金術といえど、その効果は長くは続かないだろう。それは、この場にいる者全てが心得ていた。
 だからこそその短い時間に全てを賭ける。その気概もまた、全ての者が持っている者だ。
 ただ、その重き数秒の内、実に十数秒を思考に費やした者がいる。
 カーク・ルッフォ(sc5283)である。
「――魔王、黒い霧、キニス、魔界創世」
 小さく呟き、彼は己の考えをまとめようとする。
 それは、かねてより抱いていた疑問であった。
 魔王と呼ばれる存在が有する、魔界創世という能力。即ち、魔王には世界を創る能力があるということ。
 実際、『魔界』と呼ばれる領域が魔王達によって作られたのだということを示唆する情報も、過去に出てきている。
 ならばつまりは、そういうことなのだろう。
 そして、黒い霧――キニスは本来、魔界からこの世界に漏れ出ているものであるということ。
 加えて今、彼らが相対しているルシファーより、黒い霧が発生しているという事実。
 ――何かが、見えた気がした。
「試すしかないか」
 短く言って決断。彼と、彼に協力する数名は、互いに頷き合う。
 カークが手にしたのはSINNの手で現代に蘇った伝承武具の一つ、『冥鍵』を称されるナイフである。
 このナイフを、彼と、そしてヴェルンハルト・ラヴィーネ(sp3868)、エティエンヌ・マティユ(sj6626)の三人がそれぞれ有していた。
 同じ名を持つ武器でも、全てが違った特徴を備えている。そして同時に、同じ特徴も備えている。
「ヤバそうな相手ですね、全く‥‥!」
 エティエンヌのドローに入るべく参戦したマリク・マグノリア(sp3854)が、持ちこんだ素材より、場に働いているカルマの効果を高めるアイテムを錬成する。
「始めようか」
「これで、収束するとよいがな」
 エティエンヌとヴェルンハルトが言って、カークと共に詠唱に入った。
 成就する魔法は全員同じ。アンカリオ封印の魔法、ペトラである。
 『冥鍵』は、このペトラの魔法の効果を高める力を持っているのだ。
「――俺の、考え通りならば!」
 しかし詠唱が終わる前に、ルシファーの時間が動き出した。
 魔王は翼を大きく広げると、今すぐにでも、飛翔しようと動きを見せる。
 間に合えと、カークは胸で叫んだ。
 そして、三人はほぼ同時にペトラを成就し、魔王を中心とした一定範囲に強い封印の力が働いた。
「‥‥これは」
 超然とし続けていた魔王の声に、はじめて、揺らぎが生じる。
 そしてSINN達は、そこに生じた変化に一様に驚きを見せた。
「やはり、か‥‥!」
 カークの考えは正しかった。
 重ねられたペトラの効果によって、魔王自身から湧き続ける黒い霧の量が減ったのだ。
「魔界を創ったのが魔王達ならば、その魔王の中の魔王であるルシファーからキニスが生じているならば‥‥、ルシファーこそが、全てのキニスの発生源ということになる!」
 それはつまり、マリアが『ルクス・カルワリオ』を成就して、世界を包む黒い霧が全て祓われたところで、今の姿のルシファーが存在する限り、黒い霧は湧き続けるということ。
 カークの言葉にSINN達は驚き、そして納得した。
 全てのキニスの発生源が、この巨大な魔王であるならば、それはまさしく悪魔の王と呼ぶしかない。
 ペトラの魔法が効果を発揮したのは、ルシファーがキニスの発生源であると共に、魔界という領域の原点でもあるからだ。
 いわば、存在自体が特異点。
 ゆえに、空間に作用するペトラは有効であった。
「よくぞ、解き明かした」
 魔王が告げる。そして、ゆっくりと、両腕を広げた。
「我が身こそが『罪』である。おまえ達が定めし七罪、
 すなわち『傲慢』、
 すなわち『嫉妬』、
 すなわち『暴食』、
 すなわち『強欲』、
 すなわち『色欲』、
 すなわち『怠惰』、
 すなわち『憤怒』、
 全ては我が身よりいずる黒き霧が育むものである」
 黒い霧は『罪』である。
 いまいち掴めなかった言葉の意味が、これであった。
 全てのキニスがルシファーから生じているものならば、あらゆるものを蝕み世の悪たる悪魔へと堕とすそれは、形を持った『罪』と呼べる。
 そしてその言葉に続くように、さらなる変化が生じた。
「霧が‥‥」
 ルークス市国に広がりつつあった霧が、ルシファーへと集まり始めたのだ。
「滅びよ、神の愚息共」
 闇に覆われた向こうから、魔王の声が低く響いた。
 その声に、SINN達はこの戦いの最終局面の訪れを、実感するのだった。

●吸血鬼決戦:我らが血と盟約のもとに
 彼女は、蒼白の肌の上に、血に染まったドレスを着て現れた。
 ――報告にあった、『装束のヴラド』、ですか。
 大聖堂にて、法王や職員らがいる地下施設への入り口を守っていたテオ・マリピエーロ(sk8101)は、エリザベートの姿を見て、そう判断する。
 それはきっと、彼女を見た全てのSINNも同じであろう。
「何故邪魔をするのですか。何故立ちはだかるのです。永遠の夜。永遠の夜を――」
 SINN達に向けての言葉なのか、うわごとなのか。
 エリザベートの瞳は揺らぎ、たゆたうばかりで、きっと誰が何を言っても届かないであろうと、彼女を見る者全てに思わせる姿であった。
 その周りには、彼女を守るように獣化したクドラクが十体ほど。
「悪魔の尻馬に乗るつもりですか‥‥、誇りも無いのですね吸血鬼とは」
 大聖堂で待ち伏せていたうちの一人、セイディ・ゲランフェル(sp8658)が、エリザベートを厳しく糾した。
 しかしエリザベートはその細い指で彼女を示し、ただ、言う。
「斃れなさい、邪魔をするのならば」
 クドラク達が動き始めた。
「この期に及んでも、あなた達は吸血鬼に従うのですね‥‥」
 クドラク達へ、セイディが向けるのは大きな哀しさと少しの哀れみだった。
 しかしクドラク達は声もなく、表情も動かさずのそりのそりと、彼女へと近付いていく。
「固まっているのならば好都合だ!」
 と、高所より、降り立ったアスラン・ノヴァク(sq1286)が、雷光のブレスでクドラク達を巻き込んだ。
 エリザベートもそれを浴びながら、しかし、血に染まったドレスは彼女の身を完全に守り、その顔に浮かぶ微笑はいささかも揺るがなかった。
 ――厄介な。
 アスラン自身、そう思った。
 報告書によればかの『装束のヴラド』の媒体は死体であるというが、それらしきものは彼が見る限り、どこにもなかった。
 用意する時間とて、なかったはずだが――
「夜を――」
「気持ち悪いぜ、あんた!」
 来海 朽葉(sp4469)が顔をしかめ、己の操るパペットでエリザベートを凍らせ、その歩みを止めようとする。
 しかし彼女が纏う血染めのドレスは凍結にさえ強い耐性を見せた。逆にパペットの方が、エリザベートに一蹴される始末だ。
「うふ、ふ、ふふ、ふふふ‥‥」
 不気味に笑うエリザベートに、しかし漆黒の影狼が喰らいつく。
 その牙は確かに、エリザベートののどへと突き立てられた。そして、転移。現れたのは、ユーチャリス・ミッドナイト(sp9432)。
「えい」
 と、声のみは軽いながらも、空で身を翻し、繰り出した蹴り一閃、エリザベートの身が大きく吹き飛ばされた。
「危ないよ、ユーチャリス」
 と、着地し、体勢を直せないでいる彼女に向かうクドラクを、シグルフリート・ウォールター(sp9359)がナックルで殴りつけた。
 ガッ、と、手に残る鈍い感覚。だがエリザベートもクドラクも、ユラリと揺れて立ち上がる。
「‥‥ええ、『王』、ガルバ様、大丈夫ですわ。大丈夫――」
 エリザベートの呟きを聞いて、シグルフリートは考える。
 本当に、『王』は滅びたのか、と。どうしても、そうは思えないのだ。
「あはは、あは、うふふ‥‥」
 目に狂気の光を滲ませて、エリザベーとは大聖堂の大礼拝堂を闊歩する。
「どこにおられるのですか」
 虚空へと投げられたその問いは、ガルバを探してのものではない。SINN達が一斉に総毛立った。言葉に込められた殺意。その深さは、底が見えなかった。
「夜を、差し上げましょう」
 ゆらり、ふらりと歩くエリザベートへ、
「そんなこと、させないって!」
 千種 蜜(sp9590)がたっぷりと助走をつけて。渾身の体当たり。
 周りを囲むクドラク達が蜜を狙うが、アナスタシア・ルーリン(sq0767)が蜜を巻き込まない位置より、手榴弾を投げつける。
「通って‥‥!」
 願うアナスタシア。炸裂した手榴弾は、広い範囲に強烈な閃光を爆ぜさせた。
 すでに、彼女は仲間よりその手榴弾に太陽の魔力を込めてもらっている。吸血鬼がその光を浴びれば、大きなダメージを与えることも可能なのだが――
「うふ、ふふ、ふふふ、ふ‥‥」
 だが光が収まって、その向こう側に、エリザベートは悠然と佇み、笑っていた。
 周りのクドラク達もほとんど、光を浴びても目も眩んでいないようだ。
「おどきなさい」
 先へ進もうとするエリザベートが、その直後に、見えない何かとぶつかった。
「えーい!」
 と、透明化を解除して、姿を現したアリス・フリュクレフ(sq1159)がエリザベートを殴る蹴る。
 続くように、オズウェル・クローチェ(sq1494)が己の影から生み出した狼をけしかけるも、エリザベートは、

「アハハ、アハハハハハ!」

 高く笑ってその全てを受け止めて、そして、鋭さにも過ぎる動きで反撃、ドレスを翻して繰り出した回し蹴りが、アリスを大きく吹き飛ばした。
「アリス!」
 オズウェルが叫び、己の身を挺してアリスを受け止め、支えた。
「パンチ、届いてなかったぁ‥‥」
 悔しげに言うアリス。彼女はその拳を通して感じていた。
 自分の攻撃は、『装束のヴラド』によって完全に遮られ、エリザベートの体にまで届いていない。ということを。
 笑う彼女を囲むクドラク。そして相対するSINN達。その多くは、クレスニクであり。
 だからこそ、なのだろうか。エリザベートは軽く小首を傾げ、心底よりの疑問を、口にした。
「何故、邪魔をするのですか?」
 顔に浮かぶ表情は、無邪気であった。
 その問いが純粋な問いかけでしかなく、含みも裏も全くないことを、SINN達は悟った。
 ゆえに、気味が悪かった。
「『王』はわたくしに約束してくださったのですよ。夜を、太陽の昇らない永遠の夜を、この世界に生み出すのだと――」
「それが、ヴァンパイアの目的なんスか?」
 警戒を緩めず、志島 陽平(sa0038)がエリザベートに問いかけた。
 永遠の夜などというお題目、普通に考えれば、実現するはずもない。それこそ、世界を作り替えでもしない限り。
「そう‥‥、そうですわ。悪魔は神を殺し、魔王は世界を創りなおし、我が『王』は新たな世界の夜に君臨するのです。だからこそ、邪魔をしないでくださいまし」
 パシリと軽い音がする。陽平の拳を、エリザベートが片手で受け止めた音だった。
 ――随分と、まぁ。
 と、内心で苦く思ったのは、陽平自身。
 今の拳、そんな軽々しく扱われるような一撃ではないはずなのだが、それを防ぐエリザベートを考えれば、やはり思い当たるのは、『装束のヴラド』か。
 だが、どこに媒体がある。『装束のヴラド』を構成する媒体――すなわち、死体は。
 エリザベートと、それを取り囲むクドラク達。この場は彼女らにとって敵地ど真ん中であり、媒体を準備するヒマなどあるはずがないのだが。
「‥‥イーゴリ、これ。キミの方がきっと使いこなせると思う」
 エスター・ゴア(sq0475)はイーゴリ・トルストイ(sq0700)に自らが身につけていた紫の花の髪飾りを渡す。
 それは、吸血鬼の秘密を探る力を持った髪飾りだった。
「ああ、使いこなしてみせよう」
 イーゴリはそれを受け取ると、マーナガルムの魔法をその場で行使した。
 彼が見る光景、聞える音、感じる匂い、そこに吸血鬼の存在を感じ取る、知覚の魔法である。
 当然のことながら、エリザベートの存在は感じ取れた。そして彼女以外の吸血鬼は、少なくともイーゴリが感じ取れる範囲にはいない。それも分かった。
 そしてエスターより受け取った髪飾りが、彼に濃厚な血の匂いを感じさせた。
 それは呪いの媒体の存在を、血の匂いという形で知らせる効果を持つ。
「‥‥エリザベート、貴様」
 深い怒りを宿した声。隣のエスターが、彼の様子に小さく驚く。
「イーゴリ、どうしたの‥‥?」
 その問いに答える。そして皆に告げる。イーゴリはそこにある呪いの媒体の存在を、その身で感じとっていた。

「そこにいるクドラクは、全て死体か‥‥!」

「うふふ、ふふ、ふふふ‥‥」
 エリザベートはたおやかに笑うのみ。
 そしてクドラク達が――生前と同じ能力を保ち、エリザベートの意のままに従う死体人形となる呪い、『舞踏のヴラド』の効果によって、今も動き続ける獣人達の亡骸が、一斉に動き出した。
「なんて、ことを‥‥!」
 シュナイト・ヴァール(sp7330)が、感じた憤慨をそのまま声にする。
「礎となりなさい。穢れた血の子らよ。あなた達はわたくし達にとっての汚点。永遠の夜を謳歌する資格などありはしないのですから」
「その答えが聞ければ十分よ、私たちはそんな資格全然いらない! 最後に舞台に残っているのは貴女だけよ、孤独な 道化!」
 アンナリーナ・バーリフェルト(sp9596)は言って、声もなく迫る獅子のクドラクへ渾身の一打をお見舞いした。
 相手はすでに死体。そして呪いの媒体。だがその肉体は紛れもなくライカンスロープ、つまりは同朋。
 肉を叩き骨を軋ませる感触に、嫌気がさす。
「だが、やるさ」
 シュナイトも、人形と化した媒体クドラクとの戦闘に加わった。
 それが本当に必要であるならば、ためらうことなどあってはならない。エリザベートに操られている限り、このクドラク達の尊厳は、もてあそばれ続けるのだから。
「壊し合いなさい、穢れた子達。悪しき血を流して、死に絶えてしまえばよいのです」
「そのセリフ、そっくりそのまま返してやるッスよ!」
 陽平が再び、エリザベートを狙った。
 だが『装束のヴラド』がないとしても、エリザベート自身が超一級の実力を備えた戦士でもある。
 陽平の攻撃はいずれもかわされ、防がれて、逆にエリザベートが陽平の腕を掴み、ニタリと笑う。
「クッ‥‥!?」
 強烈な脱力感が陽平を襲った。触れた個所より、エリザベートが直接生命力を吸い上げているのだ。
 だがここで、陽平はグッと歯を噛み締め、堪える。
「今ッス!」
「とっても、隙あり!」
 ニア・ルーラ(sa1439)が、全身を使って『王槍』の名を持つ伝承武具を投擲した。
 槍は、真っすぐエリザベートに命中するも、その貫通力を以てしても、『装束のヴラド』を貫くことはできなかった。
「んなろっ! いいかげんにぶっ倒れろ!」
 ゴスタ・ユオン(sp9246)も渾身の一発をくらわせるが、それもまた通じず、エリザベートの笑みは深まる。
「戯れが望みであれば、その命、全て喰らい尽すまで戯れて差し上げましょう」
 あくまでもエリザベートは余裕を崩さない。だが気づいているのだろうか、その周囲では確実に、呪いの媒体に使っているクドラクの亡骸が壊されつつある、その事実を。
 そしてエリザベート本人にも、ときはくる。

「エリザベートよ――」

 カツンと、一際高い靴音を立てて、彼はエリザベートに呼び掛けた。
「あ‥‥」
 振り返り、エリザベートは言葉を失う。
 青白い肌、華美な服装。そこに立っているのは、彼女が崇敬する『王』ガルバの姿であった。
「『王』――」
 思わず、一切の戦闘行動をやめて立ち尽くす彼女は、果たしてその『王』自身に殴られたとき、何を思っただろうか。
「この程度に騙される馬鹿だったのかよ、おまえ」
「お、ァ‥‥!」
 その一撃は、ダメージには至らなかった。しかし、自分を嘲笑う『王』の姿に、エリザベートの瞳は驚愕に見開かれ――
「所詮は血を吸う穢らわしい種族♪ 血を吸われたヤツは可哀想♪ 王は自分達に敵わないと理解しあっさり滅びを受け入れた、っときたもんだ」
 調子っぱずれの鼻歌交じりに、ガルバの姿をしたその男は、続けてエリザベートを挑発する。ニヤリ、ガルバの顔のまま浮かべたあくどい笑みに、エリザベートが絶叫する。
「ア、アアアアアアアアアアアアア! 『王』を、わたくしの『王』を、侮辱するかァァァァ! け、汚らわしい獣風情がァ!」
 狂ったように怒鳴ると、エリザベートはガルバの幻影を纏った彼――ルナール・シュヴァリエ(sp6369)の腕を掴み、そこに己の牙を突き立てた。血が溢れ、それを彼女は啜りたてる。
「クッ、クック、御苦労さん」
 エリザベートが自分の血を吸ったのを確認し、ルナールはその姿を自分のものへと戻した。
「‥‥か?」
 血を啜ったエリザベートの身体が揺らぐ。
 不意に力が抜けていくのを感じた。
 それは、錯覚ではない。ルナールが、エリザベートに視線を向けて、
「蝕まれろよ、クソババア」
 それは毒血であった。
 成就した魔法により、血を吸血鬼にも作用する毒に変えたルナールは、それがエリザベートを蝕んだことを確認し、そのまま倒れた。
 彼もまた、吸血による呪いに蝕まれたからだ。
 アンナリーナが駆け寄り、その身体を支えた。
 一方で、エリザベートがその歩みを明らかにおかしくし、内側からこみあげてくる不快感に胸元を押さえた。
 そこは大聖堂の窓から外が見える場所。
 そして外から窓を通じて大聖堂内部が見える場所。
 つまり――エルマ・グラナーテ(sj0377)の射線上であった。
「丸見えだぜ、惨殺女」
 呟きと共に、指先がトリガーをひいた。
 狙撃に必要なのは、見切ることとこだわること。その瞬間だけは、相手を射抜くためだけに生きること。
 放たれた一発は、エリザベートの左胸に命中する。
 それはエルマが用意した対吸血鬼用の一発。吸血鬼が誇る夜魔の肉体を貫き、エリザベートの心臓に大きな穴が穿たれた。
 心臓を砕くまでには至らずとも、傷口から大量の血が噴いて、エリザベートはその身を揺るがせる。
「‥‥あれ?」
 再生が始まらない。
 いや、始まっているが、それは随分と鈍く、傷口はまだ埋まりもしていない。

「ここまで、なのです」

 彼女は、その手に太陽を灯していた。
 ヒメコ・フェリーチェ(sq1409)の手に輝く太陽の光が、強く強く、エリザベートを照らしていた。
 彼女、だけではない。
 陽平も、
 アンナリーナも、
 イーゴリも、
 きつねも、全員が手に太陽を輝かせて、エリザベートを囲んでいた。
 その足元には、砕け、壊されたクドラク達の亡骸。媒体としての効果は、もはや完全に失われていた。
「ああ‥‥、夜を‥‥、夜の帳を‥‥」
 太陽の光から逃げるように、彼女は腕で顔を覆おうとする。
 しかしその身は太陽に焼かれ、ドレスにしみついた血は呪いの効果が失せたからか、黒く変色している。

「我らが血と盟約のもとに――今、夜は明けるのです!」

 ヒメコの声。
 そして、力を失った吸血鬼へと、裁きの光が下される。
「『王』! ‥‥『王』! 何処にいらっしゃれるのですか、我が『王』! ガルバ様‥‥!」
 呼びかけても、呼びかけても、あれほど鮮明にエリザベートに届いていた『王』の声はもうどこからも聞えずに、まるで、『この身に宿っていた『王』が抜け出してしまった』かのような喪失感。
 そして太陽の光が、エリザベートの身を焼いた。
「エリザベート、これが太陽の‥‥、生ある者の輝きなのです!」
「ァ‥‥‥‥」
 小さなその悲鳴が、断末魔の声だった。
 神代より生き延びて、『王』に従い生き続けた、最強の吸血鬼エリザベート・バートリー。
 その身は、たった数十年も生きていない若輩共に焼かれ、ここに、永遠の死が与えられた。
 身は灰となり、崩れていく。
 その中でエリザベートは最後まで、『王』を求め続けた。
 だがその想いは届かずに、彼女という存在は、何よりも忌々しい、太陽の光の中に溶けて、消えた。
 深き夜が今ここに、終わりを告げたのだった。

●腐土決戦:最後に喰らうもの
 空間を、村正が再び隔離する。
 魔王ベルゼブブ。その存在がルークス市国にあること自体、SINN達にとっては窮地でしかない。
「グブ、ぶヘヘヘェ‥‥」
 低く笑いながら、ベルゼブブの灰色の肌から次々に蝿が湧いて出る。
 村正の放った火球が、爆発を起こし、火炎は蝿を呑みこんで焼き尽くすものの、次の瞬間には、蝿はまた魔王から湧きつつあった。
「私たちSINNがいる限り、この世に悪はたぶん栄えないのですよー!」
 御剣 四葉(si5949)がその声に力を帯びさせ、咆哮として魔王へと向ける。
 しかしさすがに魔の頂に立つ者。その抵抗力は生半可ではない。
「今、何ガジだァ〜?」
 汚く笑いながら、魔王は四葉を挑発する。
 彼女が撃った弾丸も、全てその溶けた肉に沈み、消えてしまう。
 魔王は、大聖堂への歩みを止めていた。
 ここで進んでも、隔離空間が消えれば元いた場所まで戻される。ベルゼブブはそれをとっくに知っていた。
「邪魔ヲじナイでぐれヨ」
 封印を目指す魔王は、憮然と言うが、構わずにベルトワーズが刀で斬りつけようとする。
「ブふゥ」
 ベルゼブブが短い手をかざすと、それは伸びて先端を錐のように尖らせてベルトワーズの胸を狙った。
「――遅い」
 一声呟いて、敵の攻撃をするりとかわしたベルトワーズは、返す刀でベルゼブブの身を深く斬り裂いた。
 その一撃、手応えは確かなれど、魔王の笑みを消すには至らない。
 ――あまり、博打は好きではないけれど。
 握ったハンドルを強く回し、エレオノーラ・フリートラント(so1032)がバイクを疾駆させ、魔王へと突っ込んだ。
 その遥か後方では、珠坂 菜那佳(so7174)が設置した対魔重火器で狙いを定めていた。
「勝負と行こう。私の命をベットだ!」
 エレオノーラが、バイクでのすれ違いざま、手にした長剣で魔王を薙ぎ斬らんとする。
 刃は、その粘液状の身体を確かに裂いて、魔王が「グォ」と小さく呻いた。
 だが湧き出た蝿が彼女のバイクのエンジンへとたかり、攻撃直後に車体が激しくブレる。
「‥‥ダメ、か!」
 堪え切れず、バイクは横転。エレオノーラはその場から投げ出され、なんとか受け身を取って地面を転がった。
 だがそれはちょうどよかった。
「こ、のー!」
 魔力を極限まで注いだ菜那佳の対魔ブラストが、ベルゼブブへと放たれた。
 強烈な魔力の波動が、魔王を巻き込んで大聖堂の壁に直撃。これを粉砕させる。
「グヒヒィ‥‥」
 魔王のドテッ腹に、巨大な風穴が開いた。
 それは粘液によってすぐに満たされて消えてしまう。
 ダメージはきっと与えたはずだ。しかし、それがどれほどのダメージなのか、菜那佳には判断がつかなかった。
「全く、気持ち悪いったらないんだよ!」
 龍造寺 理香子(so2973)の放った重力波も、最初の一発は見事に命中し、魔王の身を震わせる。
「もう一丁!」
 だが、続けて放った二発目は当たった瞬間にバチンと弾かれ、ベルゼブブに一切効果を与えられない。
 それは瞬間的に外的脅威への耐性を得る進化の力であった。
「これはちょっと参るね〜」
 と、苦い顔をして小さく笑うのは、ナタク・ルシフェラーゼ(sa2677)であった。
 パラディンとして、人々の明日を守るために戦い続ける。そこに全く異論はないが、問題は、攻めれば攻めるほどに、こちらが取れる手段が減っていく相手である、ということだった。
「それでも、やるしかないけどさ!」
 ナタクは『竜殺しの剣』と称された伝承武具を持って地面を疾駆。ベルゼブブに向かって、体重を乗せた一撃をお見舞いする。
 返ってきた手応えは鈍く、確かに魔王の身を切り裂いているはずだが、それが応えているかどうか、まるで見通せないのがネックだった。
 ナタク自身、すでに気づいていることではあるが、この魔王はずっとそうだ。
 周りをSINNに囲まれて、これまで散々攻撃を浴びながら、だがその巨体は傾ぐ様子もなく、マイペースに笑っている。
 ダメージを受けているのか。
 受けているならばどれほどなのか。
 見た目から、それが全く分からないのだ。
 神も世界も全て喰らうと言ってのけたこの魔王。もしや、敵の攻撃すらも喰っているとでもいうのか。
「グヒひィ」
 笑うと、周囲に再び雷が落ちた。
「あっぶな!」
 ナタクは一度退いて雷をかわし、魔王との間に距離を開けた。ラティーファが言っていたとおり、敵はバアルが使っていた雷の能力を使えるのは確からしい。
 彼女が暴いた情報は、この場においてはかなり有益であった。SINN達は雷を警戒し、ベルゼブブを前に常に立ち位置を変えつうづける。
 ボコリ、ボコリとその爛れた腐肉の表面に泡が生じ、蝿がまたしても湧き出てきた。
「全部、全部、ゼェェェェェェェェェェェ〜んブ、喰べヂャイだァ〜〜〜い」
「気持ち悪ィんですよ」
 周囲を飛び回り、石壁も木々も全て喰らっていく蝿をベルゼブブごと巻き込んで、ニコラスのイグニスが炸裂する。
 爆炎は蝿を消し去るが、その中からベルゼブブは変わらぬ姿を現して、笑っていた。
「効いてない‥‥?」
 誰かが、呟いた。
 これまで戦ってきた魔王は、それぞれ強大ではあったが、SINNの攻撃でダメージを与えることはできていた。
 だがこの魔王は、この、蝿の王は――
「モう、終ワりナのガナァァ〜?」
 SINN達の心を挫くようにして、魔王は笑い続けていた。
 戦う者達の間に、重い空気が漂い始める。
 だが、それでも――
「デブに目のものを見せてやるのです!」
 張りのある声で、キリエ・オーラティオ(so2538)が叫んだ。
 彼女が成就したのはクオヴァディス。悪魔の真名を見破る魔法である。
 その、聖痕が刻まれた瞳は、悪魔の隠された真なる名を暴く力を持っている。
 だが――
「無駄ナごドダねェ。脳みゾがパングじぢゃウヨ?」
 見た瞬間に、キリエは酷い頭痛を覚え、その場に膝をついた。
 頭の中に乱れ飛ぶ数多の映像。それは神代より様々に呼ばれてきたベルゼブブの名を示す景色であった。
 人の身では普通は耐えきれない、強烈な情報の嵐に、キリエは意識を失いそうになった。
 しかし彼女は、その強い精神力によって、踏み留まる。
「そうは、問屋が卸さないのです‥‥!」
 顔を青くし、額に汗を浮かべながら、彼女はベルゼブブを睨み続けた。
 しかしそれでも、この急場、無数ある真名候補から一つを絞り込むことはさすがにできまいと、魔王は高を括っていた。
「主よ、主よ、我らは汝の名によりて――‥‥」
 彼女が唱え始めたのは、全ての能力を封じ込める戒めの魔法。だが詠唱途中に、限界は訪れた。
 膝を突いたまま、立ち上がれずに倒れこみそうになる彼女を、ウィリディシア・クレール(sj3049)が抱き支える。
「――――」
 キリエは、意識を失う直前、ウィリディシアに小さく何かを伝えた。
 と、同時に、サンクトゥアリィの効果が終了して、場にいる全員が現実世界へと帰還する。
「ヤッど戻っデごレダネぇ、封印ハどごガナァ〜」
 グヒ、グヒと笑いを交え、ベルゼブブが大聖堂へ向かって移動しようとする。
 だがウィリディシアが、魔王の歩みを遮った。
「ここから先へは進ませない」
「邪魔、ずルンだネェ〜」
「ええ。封印も渡さないわ」
 彼女は、詠唱を始めた。
 それはウィリディシアの額を囲うように聖痕を刻み、かざした手から発生した光の荊が、伸び始める。
「‥‥ギザマ」
 明らかな変化が、ベルゼブブに現れた。
 あれほど余裕を滲ませていたその顔から、笑みが消えたのだ。
 ウィリディシアの詠唱を聞いた瞬間のことだった。光の荊が、魔王の身に絡みつく。
 ベルゼブブはそれを掴み、引きちぎろうとして、刹那、巨大な瞳が丸々と見開かれた。

「あの子が教えてくれたのよ」

 詠唱を終えたウィリディシアが、静かに告げる。
 光の荊は、魔王の持つ能力を、ほぼ全て封じていた。
 それは、ウィリディシアが詠唱の中にキリエから聞いた名を盛り込んだがゆえの結果であった。
 だがそれだけではない。魔王の能力を封じるに到った最も大きな理由は、今この場にいる、SINN達の奮闘に他ならない。
 攻めて、攻めて、攻め続けたがゆえに、累積し続けたダメージが魔王の無尽蔵にも見えた体力を削り落とし、抵抗力を低下させたのだ。
「食らい尽くすのは、こちらの側よ」
 告げるウィリディシアに、ベルゼブブは何も言えぬまま。
 群れるということについて、間違いなく、ベルゼブブは悪魔の中で最も突出した存在であっただろう。
 しかし今や、その身からは分身たる蝿の一匹も生み出せず、グヒと、小さく喉を鳴らす魔王の周りを、SINN達が取り囲む。
「邪悪なる魔王へ告げます。人は神のいとし子。学び、成長するものなのです」
 大聖堂より、ソフィア・イェリツァ(sb4811)が歩いてくる。
 彼女は握ったCROSSを手に、詠唱を始めた。
「我等の主にして、主なるルークス・クライストの御名によりて――」
 それを聞きながら、力を失い、その場に腐臭を漂わせるベルゼブブは、天を仰ぎ、黒い霧の向こうの空を見つめた。
「グヒ、ゾウか‥‥」
 神代の時代よりあくなき喜びを求め、飽食を重ねてきた腐土の魔王ベルゼブブ。
 その身が最期に喰らうのは――

「‥‥罰か」

 成就したシギルムの魔法が、かざしたCROSSの中に魔王を封印する。
「ええ、罰です」
 魔王の最後の言葉に、ソフィアは頷き、場にいるSINN達を見渡した。
「封印は、守られたのね」
 ウィリディシアが、静かに呟く。
 喝采はその直後。弾けたように、声と声とが重なりあった。
 【獣の軍勢】の六大勢力の一角、【腐土の軍勢】は、ここについに、潰えたのだった。

●ルクス・カルワリオ:汝、隣人を愛せよ
 遺跡周辺が、大きく、鳴動しているようであった。
「マリア‥‥」
 魔王サタンの名を得た少年、本名をカリス・クライストと呼ばれた彼は、たった一人の、そして実の妹を目にして、思うことがあった。
「愛している。世界よりも、ずっと」
 言われ、マリアは胸に刺さるものがあった。
 彼にとって世界は、祝福ではなく呪いに満ちたものだったのだろう。
 悪魔の王と契約を交わし、この世界全てを黒で染め上げることをよしとする程に。
 そして彼の魂の天秤に乗せられた、世界と対になる錘が、自分なのだ。
「――殺す」
 カリスが呟いた。
「殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す――」
 彼はゆっくりと翼を開いて、その翼は黒く燃え上がり、周囲の命を吸い上げて、生い茂る草木が緑を失い、茶色になって、その命の一片までも吸い尽されて、枯れ果て、崩れ落ちていく。
「これは、また‥‥」
 十分に離れていても、なお、ゆっくりと自身の命が吸われてゆく感覚を覚えながら、ダニエル・ダントン(sa2712)が恐れを口にした。
「人の身を保ちながらも魔王の名を冠する。それに値するだけの力はある、ということですか‥‥」
 老練の戦士は、初めて相対するタイプの敵を見極めようと、ジッとカリスを観察する。
 だがそのときすでに、ライラ・ルシュディー(sb2519)は行動に出ていた。
「ここからならば、能力も発揮できまい!」
 彼女がいる場所は地の底。
 地中より、周囲の植物を介してカリスの居場所を知覚する彼女は、カリスがいる場所へと向けて魔法を放とうとする。
「――気づかないとでも思ったか」
 だがカリスは、精気知覚能力により、地中のライラの存在に気づいていた。
 ライラのミスは、カリスの能力が目視を要するものだと勘違いしたことだ。
 彼が地面に掌を置く。それは、今まさにライラが魔法を放とうとした瞬間のことだった。
「そんな、ことが‥‥!?」
 引力のようなものを、ライラは感じた。
 吸いつける力、引っ張り上げる力。感じたそれは錯覚で、実際に吸われているのは彼女の体ではなく、その命だ。
「浅知恵だ」
「カリス!」
 断じるカリスに、ライラは地中にて彼の名を叫び、せめてもの一矢を放った。
 術者の指定に従って、土石を超えた光の矢が、カリスの胸を直撃する。
 その様子を確認する前に、ライラはすでに意識を失っていた。
「僕の邪魔を、するな」
 カリスは身を起こし、自分と相対するSINNを睨んで言う。
「次は、誰だ?」

「ごめんね、アリア」
 それは儀式を始める前の、マリアの台詞であった。
 浄罪救世の大秘跡『ルクス・カルワリオ』。
 この世界を満たしつつある『黒い霧』を祓い得る唯一の方法であるが、その内容は、マリアが手にしている聖槍でアリアを貫く、というものだ。
 つまりは、それに対する「ごめんね」であった。
 聞いてから、アリアは小さく微笑んだ。マリアが見る、久方ぶりのアリアの笑顔だった。
「姉様、私は、死にたくありません」
「‥‥うん、そうだよね」
 頷き、やや俯いた姉に、アリアはもう一つ、言葉を重ねた。
「けれど、世界が終わってしまうのも、イヤです」
「アリア‥‥」
「だから、どっちも助けてください。世界も、私も」
 イェンスとの会話の末、やっと自分の思いを口に出せたからか、それを言うアリアの表情は、マリアから見てもどこか垢抜けていた。
「うん、絶対、助けてあげる」
 当然、マリアはそう答える。
「‥‥儀式とやらで、手が必要なら、そんときは参加してやるよ」
 鉄パイプを肩に担ぎ、淀屋 ケイ太(so8112)がぶっきらぼうに告げた。
「俺らに任せておけって二人とも。んで、アリア、こいつはお守りだ。持っててくれ」
 アントーニオ・インザーギ(sa5938)がアリアに渡したのは、なんというべきか、掌に収まる大きさの野球のホームベースだった。
「本当はよ、このルクス・カルワリオとかいうふざけた儀式をベースボールばりに楽しい催しにしてやろうかと思ってたんだが、ちょっと失敗しちまったみたいでな」
 どこか恥ずかしそうに、彼は言った。
 その言葉は、ルークス教徒ではないアントーニオだからこその、彼らしい言葉でもあった。
「‥‥ありがとうございます」
 アリアは受け取ったそれを、両手で握った。
 儀式が、始まろうとしている。そして、カリスとの戦いも、また、激化する。
 SINN達に求められているのは、カリスの打倒、或いは足止めだった。
 マリアが聖槍によって『ルクス・カルワリオ』を成就させるその時まで、彼女にカリスを近づけさせない。
 それが、SINN達に課せられた絶対の任務である。
「マリアァァァァァァァァ‥‥!」
「全く、そんな声出して、妹がこれまでどんな顔をしてきたのか、ちゃんと見ろ、お兄ちゃん!」
 乱れた足取りで進もうとするカリスへ、玖月 絢紅(sh4500)が放った重力波が突き刺さる。
「全くだぜ、おまえ、つまんねぇよ」
 絢紅と共に、命を吸われながらも戦う日向 蒼伊(so6943)が、大型のオートマチック拳銃を連射。カリスの身体に穴を穿つ。
「そういうことさ、クソガキが。これ以上、誰かを犠牲なんかにしてたまるもんか」
 加えての、エステファニア・アランサバル(so2457)の援護射撃がさらにカリスを撃ち抜いた。
 だが――
「フ、フ、フフ‥‥」
 低く、低く、カリスは笑う。
 すでに長い時間を、単身、SINNと戦い抜いて、生命力の吸収によってその命脈を保ち続ける彼の力。
 その源は怒り。
 悪魔王ルシファーの時を操る能力と同じく、彼は怒りを根底において、その怒りのままに命を吸い上げ燃やし続ける。
 そして、その怒りが深く、激しくなったならば――
「邪魔をするな‥‥」
 呟きと共に歩む。その行く手を、陸奥 政宗(sa0958)やアレックス・ラウ(sz0033)が阻んだ。
「マリア君の邪魔はさせない、俺が炎のディフェンダー陸奥政宗だ!」
 決意、戦意と共に政宗はナックルを握り締め、そのまま昏倒する。
 生命力を吸われ、衰弱によって意識が断たれるまで、ものの数秒。カリスのホスティア吸収速度は、それほどの異常な域に達していた。
「奪ってやる‥‥。壊してやるぞ、ルークス教!」
 周りの命を無差別に、そして無尽蔵に喰っていくカリスに、近づいていった者達は次々生命を吸われ、倒れていく。
 一転、SINN達の中に逃れようのない危機感が走った。
 カリスの存在が、『ルクス・カルワリオ』の成就を不可能にする。その危機感であった。
「この場に満ちる憎悪がルークスの教えの限界、なのだとしても、世界の終焉を是認する理由になど、なりはしません」
 だがレイジ・イカルガ(sh2614)は、この状況でもカリスに対して、「ここで斬る」という決意のもとに挑み、一撃を与えた。
 魔力を伴った刃が、肉を切り裂く確かな感触。
「貴様ァァァァァ!」
 カリスはいきり立って、レイジが退く前にその腕を掴みあげる。
「レイジさん!」
 パートナーである竜造寺 こま(sj3153)が、彼の名を叫んだ。
 その声が、命を喰われて意識が消えかけていたレイジに、ひとたびの力を与えた。
「俺が倒れても――まだ、その後ろには何人もいる!」
 ドスリと、刃を介して重い感触。剣の切っ先が、カリスの腹を深く抉っていた。
 その傷もすぐに消えるかもしれないとしても、一撃加えた事実は、レイジにとって悪くはない結果だった。
「‥‥枯れ果てるまで喰ってやる」
 カリスは地獄の底から響かせるように言うと、レイジの首を掴み、その命を直接吸い尽くそうとする。
 それは、こまの前で繰り広げられた光景だった。
 ――死んじゃう。
 思った時、こまが感じたのは、底知れない恐怖だった。
 それは世界が終わるかもしれないという不安にも通じるものでもある。
 しかし聞えた声が、彼女の強張っていた身体を通り過ぎる。
「レイジ!」
「レイジさん!」
 マリアとアリアが、彼の名を呼んだのだ。
 二人で並んでいるその姿を見たとき、何故だろうか、こまは安堵した。
 ああ、もう大丈夫だ。
 根拠もないのに、そう思えた。
 そしてその想いが、彼女の心に奇跡を起こす力を与えた。

 ――ごめんね、レイジさん。

 きっと自分の選択を、レイジは喜ばないだろう。彼はそういう人だから。
 けれど絶対に必要なことなのだと、こま自身、言い訳しがたい確信を得ているのだ。
 ならばやるしかない。
 それは、喜びの感情を源とした奇跡。
 本来、自分には使えないはずのものを己の手におさめる業である。
 こまが選んだのは、クレスニクが使う自己犠牲の魔法だった。
 ――ユーミル。
 己の生命力を広い範囲に放出し、範囲内の全てのSINNに大いなる癒しを与える魔法だ。
「なン‥‥!?」
 カリスも、驚いたことだろう。
 こまが成就させたそれは、暖かな光となって場を満たし、命を喰われて倒れたSINNに新たな活力を与えたのだから。
「こまさん‥‥」
 カリスの手を離れ、戻ってきたレイジが動かなくなった彼女を抱き上げる。
 ユーミルは自己犠牲の魔法だ。全ての命を場に放出し、こまの命は、すでにそのとき尽きていた。
「もう少し、待っていてください。すぐに目覚めさせますから」
 レイジはこまの頭を撫でると、より強い決意を瞳に秘めて剣を構える。
 彼だけではなかった。カリスによって昏倒させられた全てのSINNが、意識を取り戻して立ち上がり、立ちはだかったのだ。
「なんでだ‥‥」
 カリスは呆然となって、歩みを止めて立ち尽くした。
 何度叩いた。
 何人の命を吸った。
 どれだけのダメージを彼らに負わせた。
 カリスは、今や吸収した魔王をほぼ自分の存在に統合し、第六の封印の祭壇で得た力も十全に使いこなせるようになっていた。
 この身はほとんど魔王に等しく、人如きが抗える存在ではない。
 そのはず、なのに――
「なん、なんだ!」
 それはかすれた、苦鳴の声だった。
「何度、何度立つ! 何度立つつもりだ! しつこいんだよ、邪魔をするなよ! 僕の、僕とマリアの邪魔をするな‥‥!」
 血を吐くよりもなお、辛く、痛々しい叫びであった。
 力を持つ者の余裕は何処にもなく、嘆き、悲哀こそが、そのほとんどを占めていた。
 根底にあるのは怒り。
 カリスという少年の奥底でボコリと沸き立つ、マグマよりもよっぽど高い熱を有した、燃え上がる怒りであろう。
 それだけを罪とすることは横暴なれど、その怒りにより彼がした行いは、間違いなく罪だった。
 自らの怒りのままに他者の命を奪い、殺し尽くす。
 魔王となった今のカリスの姿は、『罪』という言葉を体現していた。
「‥‥かみさま」
 ハルキュオネ・バジレア(sh3934)が、手を重ねて祈りを捧げる。
 その頬を伝う、一筋の汗。
 怖い。カリスを見てずっと、ハルキュオネはそれを感じ続けてきた。
 怖いけれど、みんな頑張っているから、ハルキュオネも頑張って、祈りを捧げ続けた。
 彼女は、夢願い、祈り捧ぐ子羊。
 その身は、神からの加護を強く得ているのだ。
「主よ――」
 ハルキュオネにならうように、バビロンを名乗って以降、決して行なわなかった神へ祈りを、アリアが捧げた。
「お前達なんかに何ができる!」
「そのセリフ、そのままあんたにお返ししてやるさ!」
 真正面から突撃してきたカリスに、ファミリア・サミオン(sb0511)が啖呵を切る。
「今度こそ、あんたを止めるよ。悪魔になってまで、それで妹が喜ぶと思ってるのかい、この大馬鹿野郎!」
 エステファニアの援護を受けながら、彼女はかつてそうしたように『光雲槍』と称される伝承の槍を投げつけた。
「こんなもの、今さらァァァァァァ!」
 槍は、彼の肩に命中した。穂先は深くカリスを抉り、肩を貫通する。
 しかし勢いは止まらない。カリスの目は真っ直ぐ、マリアを見据えている。
「どうして、あんたは‥‥!」
 ファミリアは強く歯噛みした。そして成就した念動の魔法が、彼の身体を一瞬、縛る。
「今だ、ゴンスケー!」
 柴神 壱子(sa5546)が命じる。飛び出した柴犬型のパペットが、カリスの足を止めるため彼に襲い掛かった。
「人形風情がァ!」
 そう叫び、侮るカリスだが、パペットの動きは鋭く、そして激しかった。
 壱子が成した魔法。パペットと自身を繋ぐスレッドという絆を通じて、そのパペットは限界を超えた力を発揮していた。
「皆さん、今こそ祈りましょう。奇跡を、願いましょう」
 ダントンが告げて、ハルキュオネと壱子が、「うん」と首肯した。
 奇跡などという、曖昧な言葉。
 しかし感情の奥底に眠る原初の力、カルマと呼ばれるそれを得るに到った者達は、奇跡を起こすための奇跡を、ここに体現しようとしている。
 そして双子星の聖女へ、それぞれ、話しかける者がいた。
「――マリア」
 マリアへと話しかけたのは、ギィ・ラグランジュ(sf9609)だ。
「ギィ‥‥?」
「愛してるぜ。世界と同じくらいな」
「‥‥え――?」
 顔を寄せて、彼が言ったそれは、マリアにしか聞こえないくらいの小さな声量だった。
 そしてマリアが次に何か言おうとしたとき、すでに彼は背を向けていた。
 その背姿に、マリアは言葉を紡ぐことができない。下手な言葉は選べない。語りかけることこそが無粋。
 今のギィの姿は、マリアにそう悟らせるような空気を、纏っていた。
 それはきっと、人が覚悟と呼ぶものだったのだろう。
 一方、アリアに話かけたのは、烏ツ木 保介(sd0147)だった。
「アリアさん」
「‥‥保介さん、その、何か?」
 アリアは、少し声を控えるような感じで彼と向き合った。
 そんなアリアの様子を見て、彼はただ一言、言葉も少なく言った。
「あんたを、犠牲になんぞさせやしないからな」
 口調だけ見れば、それは何かに挑むかのような強さがあった。
 しかし言葉通りに受け取れば、アリアは口元にかすかに笑みを浮かべて、答えは返さず、頷いた。
「ホースケー」
 ハルキュオネが、アリアから離れた保介に手を差し伸べる。
「ん」
「‥‥ん」
 保介がその手を取ってぎゅっと握った。
 彼の表情に変化はない。だが、握られた手のぬくもりを感じるハルキュオネの方は、満足げに笑っている。
 手を離し、保介は次にCROSSを握った。
 叫び声が聞こえる。途絶えることのない、魔王の声。カリスの声が。
 とある孤児院で一度亡くなった、数多の悪魔の犠牲の一人。ルークス・クライストの子孫を自称する少年は、今やあるべき姿を魔王のそれに変えて、世界を黒に染め上げようとしている。
「――せめて、人として」
 決意と共に、保介は歩み出した。

 ――パペットが彼を阻む。畜生ですらない、機械人形の分際で。
「このガラクタが!」
 苛立ち、いきり立って、乱暴に打ち払う。
 マリアの姿が見えていた。その手には槍を持ち、すぐ前には祈りを捧げる格好の肉人形。
 今これからまさに、彼女は救世主になろうとしている。
「させるか、させるか‥‥! させるかァァァァァ!」
 マリアから槍を取り上げなければならない。
 あの槍で肉人形を貫き、ブチ殺し、世界を全て霧に沈めてやらなければならない。
 こんな世界だから。こんな、呪うしかない世界だから。
 カリスは翼を広げ、一気にマリアの待っている場所まで突っ切ろうとする。
「縛わんだふるー!」
 だが今度は、パペットの操縦者が彼を阻もうとしてきた。
 壱子が撃った錬成弾丸が、細い鎖となってカリスの翼に巻き付いた。翼を開けない。飛翔できない。
「ど、こ、まで、も!」
 ギジリギジリと噛んだ歯に痛みが走る。
 飛べないのならば駆けるまでと、カリスは大きく踏み出した。
 その前に立ったのは、パラディンの正装を纏った剣士。大剣を構え、カリスを真っ直ぐ睨んでいる。
「今さら雑兵一人如きが!」
 駆けて、触れて、喰ってやる。
 今の自分にはそれができるのだから。
 だが誤算は――相対するパラディンが決めた、覚悟の強さ。
「カリス――」
 ゾクリと、カリスの背に悪寒が走った。
 そのパラディンは――面を上げたギィは、大剣を真っ直ぐに突き出して、そこに全体重を駆けた突進を仕掛ける。
「貴様‥‥!」
 カリスが身構えたときには、遅かった。
 その分厚い切っ先はカリスの身体の中心を捉え、深く、深く食い込んだ。
「グガ‥‥ッ!?」
「マリアを求めるおまえの愛は、所詮、本物の愛じゃない。そんなものが、愛であってたまるか。カリス‥‥、おまえは空っぽだ!」
「な、にをォ‥‥」
 剣の柄をしっかりと掴み、身を低くして、ギィはさらに深く、剣を押し込んだ。
 力を込めた爪先が、地面に低く沈み込む。
 カリスも、耐えていた。身を剣に貫かれながら、踏ん張って、後ずさるまいと全身を強張らせた。
 だがギィの一言が、彼の意識を沸騰させる。

「カリス――聖杯の名を持つ男。所詮おまえは『入れ物』だ」

「黙れェェェェェェェェェェ!」
 絶叫と共に伸ばした腕が、ギィの首筋を掴んだ。
 魔王サタンが命を吸う。脱力感と霞む視界。意識が白むが、ギィは自ら舌を噛み切って、痛みによって短い覚醒を得る。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
 カリスが体勢を崩したその瞬間、その剣で彼を貫いたまま、ギィは前へ前へと進み始めた。
 背後にはマリア。あそこにカリスを行かせはしないと、彼の魂が叫んでいる。
 カリスが抗おうとする。何故阻む。何故マリアのところまで行かせてくれない。何故だ。何故だ。何故だ。心の中で叫びを重ね。
 だがギィはカリスを遠ざける 命を吸われ、着実に死へと近づきながら、自らの全てを燃やして。
「僕の――」
「マリアの――」

「「邪魔を、するなァッ!」」

 叫びは完全に重なって、押し勝ったのはギィの方。
 そして命を削りながら圧し進み、カリスを貫くギィの切っ先が遺跡の外壁に突き立って、カリスをその場に縫い止めた。
「グウオオ、貴様ァァァァ!」
 カリスがギィを食い尽くそうとした。だが、その命果てる前に、ギィは叫ぶ。
「やれ、マリアァァァァァァァ!」
「――ギィ!」
 彼の声が聞こえた。マリアは、アリアを見る。
 二人は共に、時が来たのだと感じた。
 皆が、頑張ってくれている。この世界を、救うために。
 世界を救う。その言葉を、その言葉通りの規模で実感できている者は、きっとこの場には誰もいない。
 SINNたちが守ろうとしているのは、自分の愛する者。大切な存在。日常。環境。
 そういった、あくまでも世界の限られた一側面でしかないだろう。
 だが一人で守れるものに限りがあるのだとしても、それが十も百も集まれば、守れるものも、守られるものの規模も増えていく。
 そしてその結果として、世界は守られるのだ。
 ――SINN達の手によって。
「世界を救うよ。アリアも、一緒に」
 マリアが聖槍を構えた。
 アリアは立って、一心に祈りを捧げ続ける。
 『ルクス・カルワリオ』は、いわばエクソシスムを全世界規模で行なう秘蹟だ。
 世界に憑いた黒き霧、キニスという名の負の根源を、退魔の力によって祓い清める。
 それは、エクソシスムにも、エムンドにも、メギドにも、他のあらゆる浄化にも通じる、浄化の力の最たるものだった。
「やらせるか、やらせるものかァァァァァアアア!」
 自分を壁に縫い付けている剣を、命尽き果てたギィを、カリスは乱暴にどけようとする。
 だが動かない。硬直したギィの身体は、それ自体が壁となっていた。
 カリスは抜け出ようと、暴れようとする。もがこうとする。
 だが不意に、その動きすらも何かの力に縛られた。
「僕達はハンドラーのやり方で、世界を救う手助けをするからね!」
「そういうことです。しばし、大人しくしていてください」
 後方、壁越しに、エリオット・フレイザー(si0562)と小茄子川 隆人(sp1454)がカリスへ告げた。
 二人がシンクロアルケミーによって錬成したのは、細い紐だった。
 それは『獣縛り』と呼ばれる伝承素材を使った、この場限りの封印の紐。カリスの力の根源に干渉し、それを束縛する。
「‥‥もしも」
 動けずにいる彼の前に、歩み寄ってくる玖月 水織(sh0007)が、静かに告げた。
「もしも地獄で赤い翼のあの人に会ったら、伝えておいて」
 彼女もまたハンドラー。錬成した銀の小箱を、その手の中で握り潰す。
「――馬鹿魔王、ってね」
 カリスの周囲を淡い輝きが漂った。
 嫌な光だ。カリスの精神に突き刺さってくる、とても嫌な感触の光だ。
「うああ、あああああああああああああああああ!」
 怒りと、憎悪と、口惜しさに、魔王は狂乱する。
 彼の見開ききったその目が、聖槍を突き出そうとするマリアの姿を捉えた。
 聖槍が光を纏う。ルークス市国がこれまでに得た三つの封印の力が、そこに宿ったのだ。
「マリア――」
「カリス‥‥」
 マリアが振り向いて、彼を見た。
「あなたの、私への愛が本物だったとしても、私には、あなたは決して受け入れられない」
「マリア‥‥、どうしてだ‥‥」

「さようなら、カリス」

 それは、別れの言葉であった。
 彼女だけを求めた魔王と、愛する全てを手にしようとした神の子の、決別の瞬間。
 時が止まったかのように動かなくなったカリスの視界から、マリアが消えた。前に立った誰かの体が、彼の視界を全て覆った。

「――汚れたる霊、全ての悪魔の力、全ての地獄の侵略者ども、全ての悪しき軍団、使節及び党派どもよ」

 それは保介の声だった。
 カリスの前に立って、彼に真っ直ぐCROSSを掲げて、保介は呪文を詠唱する。

「――汝が誰なりとも、我等は、汝を追い払う。我等の主ルークス・クライストの御名と御力によりて」

 エクソシスムは罪を祓う魔法であると書かれた資料が、つい先日発見された。
 それは実に抽象的な表現であったが、しかし、同時にきわめて重要な資料でもあった。

「――汝が主の教会と、主の像と似姿に創られ、主の小羊のいとも貴き御血によりて贖われたる魂より、跡形もなく逃げ失せ、追放されんことを」

 SINN達が知るところではないが、カリスが行なった魔王の吸収は、かつて星一族が悪魔へと転生した方法と同じものであった。
 ただ、魔王という存在は他の悪魔とは一線を画するものであるがゆえ、カリスはこれだけの力を得ることができたのだ。

「――もっとも狡猾なる蛇よ、今より後、敢えて人類を欺き、教会を迫害し、主の選び給いし者を苦しめることなく、もみがらの如くに吹き飛ばさるべし」

 そして、そのメカニズムの根幹は、『憑依』にきわめて近いものであった。
 カリスは感じた。
 自らの中に宿した魔が、今、剥がされようとしている。

「――いとも高き主が汝に命ず。汝の全くの傲慢において、未だに汝が等しと主張せるかの御者、全ての人間が救われることを望み給う御者、主なる御父が汝に命ず」

「やめろ‥‥」
 だが動けずに、震える唇。
 寒気の奥の恐怖に、彼は短く呟いた。

「――主なる御子が汝に命ず。主なる聖霊が汝に命ず。クライスト、人となり給いし主の御言葉が汝に命ず」

 告げる言葉のその向こう、かすかに見える輝きは、聖槍が放つ退魔の光であろう。
「やめろよ‥‥!」
 慄きの声を聞く者はいない。懇願にも等しいそれは、もはや誰にも届きはしない。

「――クロスの神聖なる印が汝に命ず。ルークス教徒の信仰の諸玄義の力が汝に命ず」

 詠唱は続く。魔が薄れ、カリスの腕の甲殻にピシリと一筋の亀裂が入った。
 叫ぶことすらできなくなった彼の脳裏で、記憶がリフレインされていく。
 何故、神を呪ったのか。
 何故、罪を犯したのか。
 何故、マリアを求めたのか。
 何故、怒りに駆られたのか。

「――栄えある主の御母マリアが汝に命ず。彼女は、謙遜によりて無原罪の御宿りの最初の瞬間より、汝の思い上がれる頭を踏み砕き給えり」

 亀裂は全身に及び、迫る己の滅びを感じ取る。
 なんとなく、カリスは分かったような気がした。
 自分の根幹にあるものは、怒りだとばかり思っていた。それがあるからこそ、自分は世界を壊そうと思ったのだ、と。
 だがSINNと戦い、マリアに拒まれて、ここで滅びを迎える今になって、やっと気付いた。
 怒りは副産物でしかなかったのだ。
 気がついてみれば、それはひどく簡単な理由だった。

「愛さなかったから、か」

「――使徒達の信仰が汝に命ず。諸々の殉教者の血と、全ての聖人達の敬虔なる代祷が汝に命ず!」
 保介が、エクソシスムを完成させる。
 それはマリアがアリアに槍を突き立て、そしてカルマの力を解放したのと全くの同時。
 かくして奇跡は成就して――
 一人の魔王が祓われて、一人の少女が救われた。

●最終決戦:聖なる純潔
 その闇が晴れたとき、ルシファーは空を見上げていた。
 彼にとってそれは、滅するべき敵を睨み据えるのと同義であった。
 ――神を殺す。
 ルシファーという存在の全ての、この目的一点に集約されている。
 神を殺す。
 そのために、彼は神代の時代より、ここまで在り続けてきたのだ。
 【獣の軍勢】も、【呪われた竜】も、全てが、神殺しを達成するための過程でしかない。
 人の世を滅ぼすという行動も、やはり、過程の一つであり、中継点に過ぎない。
 そして神殺しさえ叶えば、後のことなどどうでもよかった。
 ゆえにカリスを見出したのだ。
 神の子の直系に連なる血を継ぎながら、己と同じく神に怒り、神を呪う鬼子。
 神を殺したのち、残された世界はカリスがどうとでもすればいい。或いは、それが吸血鬼であっても、ルシファーにとっては大差ないことだ。
 悪魔王は、神さえ殺せれば、それでよいのだから。
「ゆえに人よ――」
 ルシファーが視線を、地に群がる虫の如きSINN達へと移す。
「終焉を与えよう」
 黒い霧を収束させることで、その身をより強く、より悪しきものへと作り変えて、新たな姿で悪魔の王はそう告げた。
 翼はより大きく、尾はより禍々しく、内側から溢れるキニスは抑えきれず、黒い炎となって噴き出している。
 両腕両足は甲殻に覆われ、或いは獣の様相に変じ、身は一回りも大きくなったその姿。
 魔王の力を得たカリスがこれに近い姿をしていたことに、何人かが気づいた。
 SINN達は、ルシファーから目が離せなかった。
 これまで散々悪魔と戦ってきた彼らでも、今の悪魔王の姿を一瞥のみで終わらせることはできない。
 神の映し身。世界を創造した主なる存在の一角。その在り様を、理屈ではなく肌で感じ取り、抗えない畏怖に身を固めそうになる。
「魔王‥‥ルシファー、なんて凶悪な姿だ。でも、臆すわけにはいかないかな」
「そういうことだぜ!」
 クライス・レアリット(sp2026)の言葉を認め、ヴィルヘルム・レオンハルト(si9976)が聖なる力を帯びた伝承武具を手に、突っ込んでいく。
 ルシファーの尾の横薙ぎをかわし、大上段より渾身の一撃をその尾にブチ当てた。
 バキンと、硬いものが砕ける音がして、ルシファーの尾に大きな傷が残った。だがヴィルヘルムが身を退く前に、傷は急速に縮まって、3秒も経たないうちに消えていた。
「なんだ、今の‥‥!?」
 目を瞠る彼へ、クライスが「退くんだ!」と指示を出した。
 素直にその場から下がった彼は、仲間に、今自分が見た情報を伝達する。
 再生能力。に、しても異常な速度だ。ヴァンパイアオリジンの超再生に匹敵するか、凌駕しているかもしれない。
「――状況を確認する」
 リディヤ・ジュラフスカヤ(sd9570)が拳銃弾を装填し、ルシファーに向かって二度、発砲する。
 一発目は、小さいながらもルシファーの表面を傷つけた。だが、同じ弾丸二発目は傷がつくことなく、弾かれる。
 完全適応による進化の力が健在であることは、これで確認された。
 そして一発目の傷も、すでに消えている。
 あらゆる攻撃は最初の一回目しか通じない。
 そして半端な攻撃では超速の再生能力によって即座に回復されてしまう。
 確認できたのは、そんな、SINN達にとって絶望的ともいえる情報であった。
「もしかしてですけど〜‥‥」
 メイリア・フォーサイス(sa1823)が、ふと、気付いた。
 リディヤの銃弾による傷が刹那に修復されたとき、彼女はその傷に黒い傷が纏わりついていたのを見た。
「あのルシファーの再生には、黒い霧が使われているんじゃないでしょうかー?」
 それは、誰もが納得できる話であった。
 黒い霧が、キニスがルシファーを発生源としているならば、キニス自体がルシファーであるともいえるワケで。ならばそれを使って己の身を修復することくらい、できても何もおかしくはない。

「打つ手が、ないってことかい――?」

 ポツリとフィル・トランソー(sz0054)が漏らしたその言葉。
 ごく薄い紙に垂らした水滴がサッと染み渡るように、それはSINN達の間に広がっていった。
 完全に打つ手がない、ワケではない。
 無論、取れる手段は幾つかある。
 進化能力を限定回数無効化する武器や、キニスを祓う手段だって、あるにはある。
 だがそれら全てを駆使したとして、はたしてルシファーを滅ぼすだけの力が得られるかどうか、その一点が問題だった。
 もし、メイリアの推察が当たっていたならば、場に黒い霧がある限り、ルシファーの自己修復を止めることはできないということになる。
 そして現状、世界は既にその半ば以上が黒い霧に覆われているのだ。
 ――まるで世界を相手にして戦っているみたいだ。と、誰かが思った。
 相手は、この世界を神と共に創造し、そして堕天してなお、魔界という領域を作り上げた存在。おそらくは、最も神に近い存在なのだから。
 世界一つと戦っている。その表現はあながち、間違いでもないのだ。

「我が身を討つこと叶わぬと、知ったか。人よ」

 全員の頭に、その声は直接響き渡った。
 悪魔の王が絶望を前に立ち尽くす人々を睥睨し、言葉を下そうとする。
「知れ。我が身を討たんとすることの無意味さを。おまえ達の行ないの意味するところは、無と同義である」
「ふざ、けるな‥‥!」
 当然のごとく、SINNはそれに抗った。従う謂れなど、一体どこにあるというのか。
「我らに貴様を討てないと、そうホザくか! 魔王め!」
 アドリアン・メルクーシン(sb5618)などは特に激しく反応し、魔王に向かって銃口を向けている。
「試すがよい。そして知るがよい」
 だが魔王の声色は平らかだった。
「そして試すたびに、おまえ達は我が身を討つすべを一つずつ、失ってゆく」
「‥‥‥‥!」
 事実であった。
「尽くしてみよ。そして、抗ってみよ。おまえ達の持てる力の全てを我が身を討つことのみに費やしてみよ」
 挑発、などではあるまいと、ジェネレイド辺りもすでに気づいていた。
 この魔王の言葉は、ただの厳然たる事実を、そのまま告げているに過ぎない。
「おまえ達が全てをなげうって、なお、立っているのは我が身である。世界一つ、殺すことができなくばこの身は決して滅びぬ」
「‥‥‥‥」
 悪魔王が見下ろしている。それを、SINN達は睨み返しながら、だが反論を口にできる者は、いなかった。
 魔王の言葉が全て偽りない真実であることを、痛感していたからだ。
「絶望せよ。おまえ達の行ないは全て無に帰す。おまえ達の命もまた、無に帰す。そして神をこの世に下ろし、神すらも無に帰そう」
 ルシファーは、そもそもこの戦い自体、中継点としてしか見ていない。負けるなどと、微塵も思っていない。
 あまりに傲慢に過ぎた心。だがその傲慢を自らに許すほど、隔絶した力を持っている。それは、間違いなかった。
 だからこそ――

「ふざけてんじゃねぇぜ、ケツアゴが!」

 はねっ返りな性分ならば、そう叫ぶしかないではないか。
 叫んだのは、狼牙 隼人(sa8584)。握った拳を突き出して、魔王に向かって文句と唾を同時に飛ばす。
「あなた達じゃ僕ちゃんには勝てませんから絶望して首を括って死んでください邪魔ですホント、だぁ? 言ってくれるじゃねぇか!」
 あえて茶化した物言いで、だが、その瞳に宿る光は力強く、
「強いからなんだって? 世界を創ったからなんだって? 神を殺すからなんだって? 分かりにくいんだよ、俺は頭が悪ィんだ!」
 貫禄のINT2である。
「グダグダぬかしてねぇでかかってこいよ、両腕重すぎて口しか動かねぇのかよ、ボケナスが!」
 闇の凝縮体。燦然たる魔王。堕ちた明けの明星たる悪魔の王ルシファーを前にして、この物言いであった。
「絶望してくださいなんぞお願いされて、するわけねぇだろうが! 俺を、俺達を――」

「人間を、ナメてんじゃねぇぞ!」

「ク、クックック‥‥、フッハッハッハッハ‥‥!」
 隼人が啖呵を切ったのち、ジェネレイドが笑い出した。
「そうだな。ああ、気圧されてしまっては何も言えないが、しかし所詮こけおどし、そして結局は単純な話だ」
 彼もまた、前に出て悪魔王と相対する。
「ルシファー、貴様の能力の根源が怒りならば、それは結局俺達人間と何も変わらないということだ」
 王であろうとする者の言葉に、何人かが、ハッとする。
 魔王の力の根底にエモーションがあるならば、それは確かに、彼らSINNと同じであるから。
「貴様は怒りで気に食わんものを潰そうとする餓鬼に過ぎん」
「‥‥それが答えか」
 悪魔王は沈黙し、ややあってから口を開いた。
「ならば滅せよ」
 天は静かに震え、地は大きく震え、天地のはざまに立つ魔王より、無量の殺気が放たれる。
「おまえ達、その肉のひとかけらまで、闇の底に融かしてくれよう」
 ルシファーを中心に黒い霧が収束していく。それは、近づくだけで吐き気を催すほどの悪しき重圧を生み出し、発散していた。
 魔王が本気になろうとしている。
 けれど――

「私達は、SINNです!」

 聖女の名を冠する甲冑に身を固め、決然と叫ぶ須経 蘭華(sb0118)の言う通りであった。
 我らはSINN。聖なる純潔の名のもとに、悪を滅する心ある者。
 ならば悪に屈することなど、選択肢に最初からあるはずがないのだ。
 悪魔王が巨大な腕刀を振り上げる。
 だが目を逸らす者は一人もいない。
 全員が、武器を構え、魔法の準備を開始する。戦うのだ。
「死ね」
 告げて、ルシファーが莫大な魔力を秘めたその腕刀を振るおうとした、その瞬間――

 光が、天を突き刺した。

「‥‥何事だ!?」
 それは、ジェネレイドをも狼狽させる光景だった。
 光が奔ったのは一瞬のこと、だが直後に、今度は空の景色が一変する。
「‥‥霧が、光の中に」
 黒雲にしか見えないほど、空に蟠っていた黒い霧の隙間から、暖かな光が射し込んだ。
 光に触れるなり、霧は溶けるようにして消えていくではないか。
 それは、嵐が通り過ぎた夜明けの風景によく似ていた。
 違うのは、射し込んだ光が地上の黒い霧をも消してゆく、ということだ。
「なんだと‥‥」
 悪魔王がそう呟くのを、蘭華は確かに聞いた。
 その声には、驚愕の色が含まれているように、彼女には受け取れた。
 何があったかなど、考えるまでもない。
「やったんですね‥‥、皆さんが」
 浄罪救世の大秘跡――『ルクス・カルワリオ』が成就したのだ。
 天に満ちる光が、次々に、黒い霧を消していく。
 それは救いの光。
 ルークス市国だけではない、オーストラリアが、アメリカが、南米が、中国が、世界の全てに光は遍く降り注ぎ、黒い霧を祓っていった。
『――皆さん、マリアさん達が、やりましたよ』
 その情報は、ユビキタス・トリニティス(sa1273)が特殊通信機を介して全世界のSINN達へと伝えたものだった。
 情報は伝播していく。ルークス市国の中を、外を、速やかに。
 各地にいるSINN達の喝采が聞こえてくるようだった。

「勝つぞ」

 静かに、ウィルフレッド・モーガン(si9469)が言った。
「世界は救われた。ならばあとは、俺達が勝つだけだ。それで、ミッションコンプリートだ」
 彼の言うとおりであった。
 『ルクス・カルワリオ』が成就したならば、求められるべきはあと一つ、この場における勝利のみ。
「死力を尽くせ。それだけでいい。極めてシンプルな話だ」
「応、分かりやすいぜ!」
 朔真 紅虎(si9669)がサムズアップすると、竜造寺 巌(si7760)も「そうだなぁ!」と快活に笑った。
「ちょっと、待ってくれるかしら」
「どうかしたんか、ミラベルの姉貴?」
 ミラベル・ロロット(si6100)に止められて、紅虎が首を傾げる。
「戦うなら、少し待ってもらえないかしら。‥‥とっておきの錬金をするわ」
「ほぉ‥‥?」
「前線で戦う人たちの心を繋いで、それを力にするの。みんなの力を一つに、って、ロマンじゃないかしら?」
 少し気恥ずかしげに、照れ笑いを浮かべるミラベルに、紅虎は「いいっすね」と同意を寄越す。
「時間は、完成までどれくらいかかる? 敵は待ってはくれんぞ」
 言うウィルフレッドに、ミラベルは数秒考え込んで、
「一分半‥‥、いえ、もう準備は終わってる。一分、あればいいわ」
「わかった。いいだろう」
 ウィルフレッドは鬼の面を模した聖面を顔に装着する。
「その一分、この命を賭けて稼ぐとしよう」
 紅虎が、巌が、「俺も一緒に」と立とうとする。だがウィルフレッドはそれを手で制した。
「紅虎、おまえの一本気なところは美点だが、己の命の張りどころを間違えるな。巌、おまえの爆発力が最も必要とされるのは、一分後だ」
 その言葉は強い説得力を持っていた。
 だからこそ二人はその場は抑え、ウィルフレッドは立ち上がる。
「俺は一緒についていくぜ、アニキのサポートをするなら今しかないだろ」
 立ったウィルフレッドの隣に、風峰 カイム(so6159)が並んだ。
 ウィルフレッドは彼を見ると、「勝手にしろ」、とだけ言う。
 そしていつの間にか、もう片側の隣には、ダニエル・マッケラン(so1035)の姿があった。
「カルマは俺が維持する。援護は任せておけ。行ってこい」
 ウィルフレッドは口元に小さく笑みを浮かべて、愛用の野太刀を抜いた。
「行くんですね」
 話しかけてきたのは、その野太刀の製作者、ハンドラーのリリアン・ミナルディ(se7452)であった。
「ああ、ちょっと軽く鬼を切りにな。‥‥と、なんだそれは、ギターか?」
 見れば、リリアンは白百合がデザインされた可愛らしいギターを抱えていた。
「歌でも披露するつもりか、この戦場で?」
「ええ、白百合の錬金術師オンステージをしようかな、なんて」
 弦を弾くと高鳴るビート。それだけでなんとなくでも、ウィルフレッドは察する。
「精々、場を盛り上げてくれ。クライマックスにはBGMがなきゃ話にならん」
「誰のクライマックスですか?」
「決まってるだろう? SINNの、だ。俺は前座だがな」
 言って、彼は手にした太刀に魔力を注ぎ、その刀身に鬼の炎を灯らせた。
「行くぞカイム、俺達の命の賭けどころだ!」
「一分、もってみせるぜ!」
 カイムを従えて、ウィルフレッドが駆け出した。直後に、マッケランが愛情のカルマを展開、ライフルを構える。
「さて、それじゃあ、私も行きましょうか」
 リリアンがピックを手に、一度息を吸い込んだ。
 戦いの場。おそらく、SINNとしては最後の。だからこそ、務めあげようという意欲は、次から次から湧いてくる。

「――Sacread INNocence」

 曲名を静かに告げて、リリアンはギターを爪弾き、歌い始めた。
 その音色は、不思議なことに、銃声、爆音、悲鳴乱れ飛ぶ戦場の隅々にまで響き渡った。
「この歌は――」
 ルークス市国の一角、そこで逃げ遅れている者がいないか探していたルヴァニアン・フェアテール(sd3774)の耳にも、リリアンの歌は届いた。
「‥‥元気が出る歌だね」
 そう思えた。
 だが、リリアンはハンドラー。何も歌うためだけに、ギターを準備してきたわけではない。
 そのギターこそが、彼女の錬成したもの。音自体に魔力を宿し、それは、魔王が持つ完全適応進化能力を抑制する。
「――今のままのあなたで居てください♪ 叶えたい未来があるから♪」
 その歌詞は、戦っている相手を考えれば、とんだ皮肉であった。
 ウィルフレッドは笑みを抑えず、刃をルシファーに叩きつける。
 ――そう、俺にはこれがいい。
 一心不乱、刃を振るい、しかし心のどこかにある、そんな思い。
 信者として振る舞いながら、自分の根幹にあるのは、間違いなく復讐心。どう取り繕っても抗えない自らを、彼はこの場で使い果たそうとする。
 リリアンの錬金ギターの効果によって、進化の力は確かに消失していた。
 ウィルフレッドが叩き、叩き、その攻撃は幾度重ねてもルシファーの身に傷を残した。
 カイムの銃弾も、マッケランの援護射撃も、一発限りということはなかった。
 着実に、この悪魔の王に対して、ダメージを蓄積していっている。
 三十秒が過ぎた。
「愚かなるかな、小さき者共」
 ルシファーが強烈な魔力の波動を放射する。
 避けきれず、ウィルフレッドの聖面が割れて、片目が露出した。
 人の顔、鬼の顔、どちらが自分か、いつからだろうか、分からなくなっていた。
「小さいだと‥‥」
 ルークスの戦鬼が、その顔を今こそ憤怒に歪め、叫んだ。

「その小さき者にここまで追い込まれて、いいザマだな、悪魔の王!」

 身に感情の炎を纏って、彼は尾から一気にルシファーの身体を駆け上がると、強く明滅を繰り返す悪魔王の胸部に野太刀を全力で突き立てた。
 刃が、その胸の奥へ、奥へと突き刺さる。怒り。感情の全てを注いで、そして、一分が過ぎた。
「散るか、偽りの教徒よ」
「ああ――、それでいい」
 振り上げられるルシファーの腕。
 胸部から投げ出され、自由落下状態となって宙を漂うウィルフレッドに、無情の刃が振り下ろされた。
 大質量が地面を叩き、黒い霧が晴れた大聖堂前広場に、激震が走る。
「ウィルさん――!」
 練成を終えたミラベルが、ウィルフレッドの名を呼べども、しかし返事は帰ってこない。
 だがウィルフレッドの見せた一分間の雄姿は、場にいる全てのSINNの心を確かに繋いだ。
 ミラベルが、錬成した穂先を地面に突き立てる。
「みんなで、勝って!」
 穂先は、突き立てた瞬間に砕けると、直後に場の空気が熱を帯びた。
 心の共鳴。それを確かに、皆が感じ取った。
「ああ、行ってくるぜ、ミラベル!」
 巌が駆ける。そして紅虎も刀を肩に担いで、
「なぁ、ミラベルの姉貴よ」
「紅虎くん?」
「この戦いが終わったら、朔真になっちゃくれねぇかい?」
 いきなり、そんなことを言い出した。
「‥‥え?」
 ミラベルも、これには硬直する。
「返事は、この戦いが終わってからでいいからよ、じゃ、ちょっくら行ってくらぁ!」
「え、あ、え‥‥」
 事態を把握できていないミラベルをそこに置いたまま、紅虎も走っていった。
「えええええええええ!?」
 ミラベルの悲鳴じみた声が、直後にその場に轟いた。

「最高の一撃を、キメてやるよ!」
 ジョニー・ジョーンズ(sa2517)が伝承武具グングニルを強く掴んだ。
「ええ、やってやりましょう」
 エルネスト・ブノワ(sz0035)も、眼差し鋭く武器を構え、魔法を成就する。
「私たち、悪魔なんかに負けないよね、タエ‥‥」
「当たり前でしょ。それをこれから証明するわ。見ていて、ひびを入れてやるから!」
 児玉 初音(sp1503)が鷺沼 妙子(sp1602)にアローを渡すと、妙子は力強く、そう言い切った。
 リリアンの歌が、最終パートに入ろうとしている。
 終わる直前、それが最後の攻撃のタイミング。仕切るのは蘭華だ。彼女は旗のついた槍を手に、言った。
「皆さん、今こそ自らの力で奇跡をもぎ取りましょう!」
 地が、今こそ鳴動する。
 SINN達はルシファーを見た。
 黒い霧は祓われて、されど悪魔の王は闇を纏っている。その闇がルシファーの頭上一点に収束しつつあった。
 尋常ではない魔力が、そこに集中している。全力の一撃が来ることは、誰の目にも明白だった。
「滅びよ」
「そっちこそですよ!」
 彼女は今こそ、旗を掲げた。
「一同、構えて――」
 そう、蘭華が言いかけたときだった。
 いずこかより放たれた矢がルシファーに突き立って、収束していた闇が、拡散する。
「ぬ、う‥‥」
 ルシファーが矢の射出方向を見やれば、和弓を構えたジェネレイドが立っていた。
「――やはりな」
 彼は、笑った。
「怒りを鎮める矢。‥‥効果があったか。言ったぞルシファー、おまえは俺達人間と何も変わらない、と」
「消えよ」
 拡散しながらも、消失はしていない闇の塊が、ジェネレイドへと向けて放たれた。
 迫る闇に、しかし彼は笑みを崩さず、
「終わりだ。疾く滅び去れ」
 その言葉を最後に、彼の身は闇に喰われて吹き飛んだ。

「攻撃、開始ィィィィィ!」

 蘭華が旗を掲げて号令を下した。
 ルシファーがそちらを向き、瞳より放たれた強烈な光線が、掲げた旗を槍ごと焼く。
 だがすでに、始まりは告げられた。
 SINN達の一斉攻撃。その狙いは一点、ウィルフレッドが野太刀を突き立てた、ルシファーの胸部である。
「この、一射に――全部乗せる!」
 妙子の放った一矢が、胸部に命中。
 大地の力が炸裂し、弓矢とは思いがたい威力を発生させる。それは彼女の言葉通りに、ルシファーの身に亀裂を生じさせた。
 そして砕け、窪んだその一点に、魔法が、弾丸が殺到した。リリアンが曲を終える、それは数秒前のこと。
 ルシファーの身が傾ぐ。魔王は膝を突いて、闇を収束させようとする。
「やらせるわけ、ねぇだろうがー!」
 駆け抜けた巌が、力と魔力を込めたナックルの一撃。爆音。彼自身すらも傷つけて、亀裂は広がった。
「突きぬけろォ!」
 ジョニーがグングニルを投げつける。それは胸部亀裂の中央に深く突き立った。
 続く攻撃。続く攻撃。一秒が過ぎて、二秒が過ぎて、広がる亀裂。蠢く魔王。
「カチ割ってやんぜ、この俺の最大奥義でェェェェェェェェェ!」
 自らの身を加速して、隼人が後のことを考えない全速全力全撃全開のラッシュをキメる。
 一打ごとに魔王の身は砕け、そして、一打ごとに魔王の身は震えた。

 ――何故だ。

 魔王が、天を仰ぐ。
 それは殺すべき神を睨むに等しい行為。だが、もはやその行為は意味を失おうとしている。
 神代より、数千年、数万年、それ以上の歳月を経て、到った結果がこれならば、何故、何処で、何を、間違えた。
 何故、到達できない。
 何故、どうして。
 奇しくもそれは、己が見出した悪魔王の後継たるカリスと同様の思考であった。
 何故、敗れる。
 何故、神に到れぬ。
 考えながら、悪魔王は自らに訪れる滅びの時を知る。
 人を人と侮ったがゆえならば、ならば人とは何なのか。悪魔よりも、よほどぜい弱なこの生き物は、何故、神は己のいとし子などと――
 きっと、ルシファーにそれは理解できない。
 カリスが悟れたその理由を、この悪魔が知ることはないだろう。
 何故ならば、神のもとを去ったそのとき、ルシファーは心に輝く星すらも、己の魂と共に堕としてしまったから。
 愛なき者ゆえに、聖なる純潔の意味を、理解することはないのだ。
 ウィルフレッドの野太刀の切っ先が、ルシファーの身を貫いて、その背に姿を見せた。
 誰の攻撃が最後であったのか。どの攻撃が最後であったのか。それは誰にもわからない。
 集中攻撃の末、野太刀の刀身が耐久限界を超えて折れるのと同時に、ルシファーの身もまた、貫かれた。
 天を仰ぎ、ルシファーは膝をついて、呟いた。

「――神め」

 怒りの言葉。
 呪いの言葉。
 それが悪魔の王の、最期の言葉。
「‥‥ルシファーが」
 見上げるリリアンが気づいた。曲は終わり、役目を終えたギターは色褪せて崩れていく。
 それと同じように、ルシファーの身もまた崩れ始めていた。
 SINNであれば誰もが知っている現象。できそこないや融魔を倒した際に見られる、キニスへの還元である。
 どこまでも、どこまでも、この悪魔の王は、悪魔なのであった。
 全力を尽くし、傷ついて、疲れに身体重くして、もはや口を開ける余力もなく、SINN達はその光景を自らの目に焼き付けた。
 後世、新たに編纂される聖典の中に記されることとなる、悪魔王の最期。
 それは天から注ぐ光の中に、ルシファーが溶けるように消えていく。そんな光景だった。
 悪魔王は消えた。
 ルークス市国に迫る脅威は、ここに全て、潰えたのだった。

 空を見上げれば、蒼が広がっている。
 SINN達はそれだけで、長かった戦いの終わりを、実感することができた。
 そう、皆が知った。
 戦いは、終わったのだ。と。

●永遠の旅人
 エリザベートの身体から抜け出して、彼はひたすら天へと昇る。
 質量のない、霊体たるその身に物理法則は適用されず、やがて、彼は大気圏を超えて人が宇宙と呼ぶ高度にまで到った。
 そこに天国はない。ただ、宇宙空間が重く暗く、広がっているのみだった。
「なかなかの見ものではあった、か」
 呟く。彼はすでに肉体を得て、消滅する前の姿を取り戻していた。
 ――吸血鬼の『王』、ガルバ。
 いや、正確に記すのであれば、この世界において吸血鬼と呼ばれる種族にごく近い性質を持った異界の存在、ガルバ。である。
 世界から世界へと渡り歩き、思うがままに振る舞う彼は、基本的に滅びることのない永遠存在だ。
 この世界において吸血鬼の『王』として振る舞ってきたのは、全て、己が興味を満たすため。
 今回の戦いとて、悪魔の憑依と同じ理屈で自らを霊体化させてエリザベートに宿ることで、最高の席から戦いを観覧することができた。
 彼本来の能力を用いれば、そのくらいのことは容易に実現せしめるのだ。
 あくまで客演。
 請われて出たにすぎない端役。
 いつしか誰かに告げたその言葉は、ただの真実でしかなかった。ということだ。
「悪魔の王よ」
 宇宙空間でありながら、時を操るディアボルスの盟主へと、彼は言葉を向ける。
「存分に、戦いぬくことはできたのか」
 その問いかけに返事はなく、しかし、見下ろす星の有り様が、ガルバに答えを告げていた。
 世界を覆いつつあった黒は失せ、蒼きを取り戻したその星は、彼の目から見ても美しい。
「世界の命運を賭けた戦いは、いかなるものであっても、壮烈だ」
 満足したように彼は言う。
「――私も再び世界を渡ろう。終わりなき旅路、次はどのようにして、この無聊を慰めたものか」
 呟いて、それから周囲の空間がユラリと揺らぐ。
 この世界に於ける、おそらくは最悪のエキストラは、こうして、世界を後にした。
 これもまた、一つの物語の終わり方であった。

●彼女はただいまと言った
 自分を呼ぶ声が聞こえる。
 最初、夢かと思った。
 奇妙な浮遊感の中を漂って、だが自分を呼ぶ声に引きずり上げられるようにして、意識は徐々に覚醒へと向かう。
 眠りの海より浮上して、意識は表層へ、アリアはゆっくり目を開けた。
「アリア」
「‥‥皆さん、それに、マリア姉様」
 最初に見えたのは、自分を覗きこむSINN達の顔。
 その奥にマリアを認めて、アリアは、ぱちくりと瞬きをした。
「何だ、起きちまったのか。揉み損ねたぜ」
「隼人さん、後で大聖堂裏です」
「ヒィ!?」
 軽く言う隼人が、蘭華の笑顔でのツッコミに顔を青くする。
「あの、これ、は‥‥」
 まだ状況を理解できないでいるアリアが、身を起こし、とりあえず周囲を確認した。
 SINN達が、そこに集まっていた。
 彼女にとっては見慣れた場所。ルークス大聖堂の医務室である。
「あ‥‥」
 見ると、ギィとウィルフレッドが、近くのベッドに寝かされていた。
 今回の戦いで、特に無茶をした二人である。
 だが共に、その働きは戦い趨勢に大きな影響を与えることとなった。
「大変だったんですよ。蘇生魔法、なんとか間に合いましたけど」
 不安げに二人を見ているアリアに、リリアンが告げた。
「無事だったんだから、よかったけれどね」
 ウィリディシアも小さく息をついている。
「で、アリア、痛いとことかは?」
 ルナールがややつっけんどんに尋ねてきた。
 アリアは、「特には」と首を横に振りながら、マリアを見る。
「あの‥‥、私‥‥?」
 記憶がどうにも曖昧だった。
 確か、カリスとの戦闘の終盤、マリアが槍を構えて、自分は、その槍に確かに貫かれて――
「カリス、は‥‥?」
「消えちまいましたよ」
 保介が肩をすくめた。
「消え、た‥‥?」
「‥‥エクソシスムを成就したら、カリス自体、消えちゃったんだって」
 マリアが告げる。
 アリアは、その理由をなんとなく、察した。
 きっとカリスの身体は、そもそも限界だったのだ。
 悪魔になりかけた神の子。
 二体もの魔王を吸収し、無理矢理に力を手にしたその身体が、完全無事であるわけがない。
 元々は、人間でしかないのだから。
 近くで接してきたからこそ分かる。ルシファーとカリス、似ているようで全く違う、この二者。
 ルシファーは心に愛がなく、カリスは心にある愛に気付けなかった。
 その違い。たった、それだけの違いだったのだ。
 だが、もう、終わったことだと、アリアは思考を振り払う。
「勝ったんですよね」
「はいなのです、完全勝利なのです!」
 ヒメコが陽気Vサイン。
 有史以前より続く戦いに終止符が打たれたのだ。はしゃいで当然である。
 だが、世界創造より続く神と魔の因縁が、断ち切られたことへの実感。それを実際に得ている者が果たしてどれだけいるものか。
 大部分は、これからゆっくり感じていくことになるだろう。悪魔の脅威が過ぎ去った、平和な世界の日々の中で。
「でも、私、どうして‥‥」
「もちろん、皆が願ったからですよ」
 儀式を終え、天に昇るはずだった自分が生きている事実。
 自ら願ったこととはいえ、こうして実際に生き残ると、やはり思うところはある。だがそれを、イェンスが優しく諭した。
 世界もアリアも救いたかった。その結果が、今、ここにある風景であった。
「――皆さん」
 アリアが、マリアと、そしてSINN達に顔を挙げる。そして言った。
「ただいま、戻りました」
「「「おかえり!」」」

 SINN。

 それは、愛情の尊さを知る者達のことであり、
 それは、喜びの価値を知る者達のことであり、
 それは、昇意の気高さを知る者達のことであり、
 それは、怒りの激しさを知る者達のことであり、
 それは、哀しみの深みを知る者達のことであり、
 それは、惑いの果ての道を知る者達のことであり、

 それは、ルークス・クライストの名のもとに、世界を終末から救い、光をもたらした者達のことである。

MVP
狼牙 隼人 (sa8584
♂ 人間 パラディン 風
須経 蘭華 (sb0118
♀ 人間 エクソシスト 地
烏ツ木 保介 (sd0147
♂ 人間 エクソシスト 風
リリアン・ミナルディ (se7452
♀ 人間 ハンドラー 風
ギィ・ラグランジュ (sf9609
♂ 人間 パラディン 地
ウィルフレッド・モーガン (si9469
♂ 人間 パラディン 火
ウィリディシア・クレール (sj3049
♀ 人間 エクソシスト 地
イェンス・レーン (sk2780
♂ 人間 ハンドラー 水
ルナール・シュヴァリエ (sp6369
♂ 獣人 クレスニク 水
ヒメコ・フェリーチェ (sq1409
♀ 獣人 クレスニク 風

参加者一覧
九門 蓮華(sa0014)H水 轟 弾護(sa0018)H風 志島 陽平(sa0038)K地 レティシア・モローアッチ(sa0070)H水
ブリリアント・テザー(sa0072)P地 アルベルト・ルードヴィッヒ(sa0074)E火 クローディア・エヴァーツ(sa0076)E水 ミリーナ・フェリーニ(sa0081)P火
柚木崎 灯(sa0113)H水 煌 宵蓮(sa0253)P水 クリシュナ・アシュレイ(sa0267)P水 ガブリエル・オリヴェイラ(sa0293)H地
栄相 サイワ(sa0543)E地 栄相 セイワ(sa0577)A風 陸奥 政宗(sa0958)P火 アビス・フォルイン(sa0959)E水
ティファニー・エヴァーツ(sa1133)A水 ユビキタス・トリニティス(sa1273)H風 ジナイーダ・ジューコフ(sa1375)E地 ニア・ルーラ(sa1439)H水
メイリア・フォーサイス(sa1823)A風 アウグスト・ソウザ(sa2367)P火 ジョニー・ジョーンズ(sa2517)P火 ナタク・ルシフェラーゼ(sa2677)P風
ダニエル・ダントン(sa2712)P地 アーサー・ラヴレス(sa4830)P火 風間 聖夜(sa4900)A風 柴神 壱子(sa5546)H風
アントーニオ・インザーギ(sa5938)H風 狼牙 隼人(sa8584)P風 御剣 龍兵(sa8659)P風 ジェラール・テステュ(sa8825)E火
平柳 アレクセイ(sa8945)H地 須経 蘭華(sb0118)E地 ナイ・ルーラ(sb0124)E地 ファミリア・サミオン(sb0511)P風
皆本 愛子(sb0512)H地 琴宮 涙湖(sb1982)A火 ライラ・ルシュディー(sb2519)A地 佐藤 一郎 (sb2526)H水
神代 翼(sb3007)A風 三輪山 珠里(sb3536)A風 ソフィア・イェリツァ(sb4811)E地 東雲 凪(sb4946)P風
アドリアン・メルクーシン(sb5618)P火 ラティエラ・テンタシオン(sb6570)A地 ディミトリエ・シルヴェストリ(sb9264)P風 ハーケン・カイザー(sc1052)H風
ジェローム・モローアッチ(sc1464)A水 房陰 朧(sc2497)H風 ヨシア・アジール(sc3352)E風 セルゲイ・クルーツィス(sc4350)A風
カーク・ルッフォ(sc5283)E風 癒槻 サルヴァトーレ(sc5529)E風 ヴェイン・ブラックバベル(sc6733)P地 烏ツ木 保介(sd0147)E風
郡上 浅葱(sd2624)A風 キャサリン・モローアッチ(sd2653)P火 イェルク・マイトナー(sd3107)P火 媛 瑞玉(sd3404)P風
セレスティア・アジール(sd3609)A地 鷹羽 叶望(sd3665)E地 ルヴァニアン・フェアテール(sd3774)E地 イーノク・ボールドウィン(sd3868)A火
アシェン・カイザー(sd3874)E火 花房 天河(sd4003)P水 九朗 或(sd4780)E水 ルバート・ウォルトン(sd4930)H水
ルイス・ハワード(sd4979)A風 ニコラ・エフィンジャー(sd5801)E風 リディヤ・ジュラフスカヤ(sd9570)P風 デミル・ウルゴスティア(sd9633)E地
長谷 綾子(se2407)H火 東雲 燎(se4102)H火 クラリーチェ・ラグランジュ(se5708)A水 メイベリン・クリニーク(se6484)H水
ニコラス・コーウェン(se7212)A火 リリアン・ミナルディ(se7452)H風 ジェネレイド・キング(se9786)H地 カミーユ・ランベール(sf0920)A地
アルカ・カナン(sf2426)A火 ビート・バイン(sf5101)P火 村正 刀(sf6896)A火 十文字 翔子(sf7297)A風
リン・ブレイズ(sf8868)P火 ギィ・ラグランジュ(sf9609)P地 アルフォンス・ヴィヴィエ(sf9647)A地 リュールング・アマーリア(sg1023)H地
ウェスタ・イェルワジ(sg1931)A風 ラルフ・フェアウェイ(sg4313)E風 天道 一輝(sg8206)E火 ラミア・ドルゲ(sg8786)P風
玖月 水織(sh0007)H水 レイジ・イカルガ(sh2614)E水 メーコ・カトウ(sh3828)K風 種子島 カグヤ(sh3932)P風
ハルキュオネ・バジレア(sh3934)A水 酒匂 博信(sh4156)P地 玖月 絢紅(sh4500)A火 ダニエル・ベルトワーズ(sh5510)A水
エリオット・フレイザー(si0562)H水 オルフェオ・エゼキエーレ(si1323)P地 御剣 四葉(si5949)E水 風祭 鈴音(si5986)A風
ミラベル・ロロット(si6100)H風 白麗 霊夢(si6758)E火 シャーロット・エルフィン(si6767)H水 詩馬 光之助(si7745)P風
ブリギッタ・ブライトナー(si7746)P火 ユリウス・ブライトナー(si7758)A火 ギルベルト・ブライトナー(si7759)H火 竜造寺 巌(si7760)P火
カルディア・モローアッチ(si9465)E火 ウィルフレッド・モーガン(si9469)P火 朔真 紅虎(si9669)P火 ヴィルヘルム・レオンハルト(si9976)P火
花村 三月(sj0016)H火 エルマ・グラナーテ(sj0377)E水 鷹羽 歩夢(sj1664)P水 サラディン・マイムーン(sj1666)P火
ウィリディシア・クレール(sj3049)E地 竜造寺 こま(sj3153)H地 スィニエーク・マリートヴァ(sj4641)P風 エティエンヌ・マティユ(sj6626)E地
マイア・イェルワジ(sj7576)A地 花枝 美咲(sk2703)A水 ダンテ・エイナウディ(sk2704)P水 イェンス・レーン(sk2780)H水
リュカ・フィオレンツィ(sk3006)P水 ジェーン・ミフネ(sk6098)E風 ガディン・ベルリアン(sk6269)P水 テオ・マリピエーロ(sk8101)E水
文倉 羽留(sn2556)A風 森川 勘介(sn6255)A水 プリム・ローズ(sn6401)A地 実和 真朋(sn6429)H水
トウマ・アンダーソン(sn7273)P地 レオン・ブラットショー(sn7285)E火 オジョサーマ・アクヤク(sn7437)P地 九面 あずみ(sn7507)P水
ジュラルディン・ブルフォード(sn9010)H風 レイメイ・ウィンスレット(so0759)A地 エレオノーラ・フリートラント(so1032)P火 ダニエル・マッケラン(so1035)P地
アンネリーゼ・ブライトナー(so1524)E火 シャロン・ローズ(so1811)H風 エステファニア・アランサバル(so2457)E風 セザール・メルクス(so2513)P地
リーリヤ・パルフョーノフ(so2515)H地 キリエ・オーラティオ(so2538)E地 両角 和沙(so2565)A水 ローウェル 一三(so2674)A水
龍造寺 理香子(so2973)A地 茂呂亜亭 萌(so4078)A風 風峰 カイム(so6159)P風 ノーラ・ローゼンハイン(so6720)H火
日向 蒼伊(so6943)E風 珠坂 菜那佳(so7174)H火 サラ・オブライエン(so7648)H水 淀屋 ケイ太(so8112)E地
ケント・ハーシェル(sp0110)E火 マユリ・バルギース(sp0231)H火 ナイト・レイヴン(sp0274)H風 御剣 キョウ(sp0401)P水
厳島 雪花(sp0998)E風 白縫 勇魚(sp1063)P風 ジュディス・バシッチ(sp1426)E風 小茄子川 隆人(sp1454)H火
エテルナ・クロウカシス(sp1494)A風 児玉 初音(sp1503)A火 鷺沼 妙子(sp1602)P地 クライス・レアリット(sp2026)A地
ブルース・ゴールドバーグ(sp2273)E火 有栖川 彼方(sp2815)P火 神楽坂 凛(sp3316)E風 羽原 春乃(sp3482)P風
マリク・マグノリア(sp3854)H水 ヴェルンハルト・ラヴィーネ(sp3868)E水 ブランシュ・ブランシャール(sp4332)A風 来海 朽葉(sp4469)H水
碇矢 未来(sp5129)P火 ウルセーヌ・モローアッチ(sp5281)H地 荒井 流歌(sp5604)A水 アキ・オドネル(sp5637)E風
ジョルジェ・フロレスク(sp6083)K火 ニーチェ・シュートラー(sp6098)K火 ヴィオラ・トーン(sp6120)K地 綾木 なぎさ(sp6274)K地
ルナール・シュヴァリエ(sp6369)K水 相模 仁(sp6375)K火 ラチェット・トーン(sp6693)K風 アンリ・ラファイエット(sp6723)K水
高遠 明(sp6960)K地 シュナイト・ヴァール(sp7330)K地 オリヴィエ・ベル(sp7597)K風 フェリシア・エドフェルト(sp7734)K火
スティナ・エーケンダール(sp7978)K地 雫石 雪凪(sp8252)K火 鷹宮 奏一朗(sp8529)K火 セイディ・ゲランフェル(sp8658)K水
ゴスタ・ユオン(sp9246)K火 シャムロック・クラナド(sp9296)K風 シグルフリート・ウォールター(sp9359)K火 美月 はやな(sp9368)K水
紺野 きつね(sp9415)K火 ユーチャリス・ミッドナイト(sp9432)K風 千種 蜜(sp9590)K地 アンナリーナ・バーリフェルト(sp9596)K風
雫石 結氷(sp9763)K水 エスター・ゴア(sq0475)K風 イーゴリ・トルストイ(sq0700)K地 アーク・カイザー(sq0753)K火
アナスタシア・ルーリン(sq0767)K風 アリス・フリュクレフ(sq1159)K水 アスラン・ノヴァク(sq1286)K地 上随 スウソ(sq1318)K風
ヒメコ・フェリーチェ(sq1409)K風 オズウェル・クローチェ(sq1494)K水 キルスティ・イングベルグ(sq1502)K地 上月 累(sq2012)K火
ラティーファ・アミン(sq2900)E水 五老海 ディアナ(sq3106)K火 南郷 龍馬(sq3216)A風
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