明日の向こうに降り立つ

担当マスター:真名木風由
開始15/03/21 22:00 タイプショート オプションお任せオプションフレンドオプションEXオプション
状況 SLvS 参加/募集8/8(+6) 人
料金1500 分類日常
舞台国ルークス 難易度易しい

◆周辺地図
参加者一覧
レティシア・モローアッチ(sa0070)H水 メイリア・フォーサイス(sa1823)A風 マネハール・ティーテレス(sa2429)H地 神代 翼(sb3007)A風
ラルフ・フェアウェイ(sg4313)E風 竜造寺 巌(si7760)P火 ウィルフレッド・モーガン(si9469)P火 鷹羽 歩夢(sj1664)P水
花枝 美咲(sk2703)A水 トウマ・アンダーソン(sn7273)P地 マユリ・バルギース(sp0231)H火 鷹宮 奏一朗(sp8529)K火
千種 蜜(sp9590)K地 レイヴェンス・エーベルト(sq2046)K風
オープニング
●憂うこともなく
 『あなた』は、目覚めた。
 身を起こすと、朝がやってきたことが分かる。
 世界が平和になり、今日は初めて休日と呼べる日を迎えた。
 休日、と言っても、もう予定は決まっていて、その為の準備をしなくてはいけない。
 服に着替えながら、『あなた』は予定がある今日がどのようなものであるかを思い描く。
 思い描いて、明日の世界を心配することもない事実に気づき、笑みを零す。
 世界中のキニスは祓われ、『黒い霧』は姿を消した。
 勿論、戦いの爪痕が残っているような場所は復興過程を歩んでいくだろうが、その過程が人ならざる力で妨害されることはないだろう。
 SINN廃業となることはないだろうが、自分に任務が頻繁に下される可能性はないと考えていい。
 そうした意味において、世界だけではなく自身の心にも平和が来たかもしれない。
 ‥‥当たり前のことなのに、それがとても嬉しい。

 今日は、平和が取り戻されて最初の休日───その予定を、どう過ごそうか?

●本日の日付
・出立日準拠で統一します。

●出来ること
・後述描写可能国におけるデート
(相手の名前記載必須。また、場所によっては、復興途中である可能性もあります)

・ルークス以外の後述描写可能国内にあるPC及びNPCの自宅訪問
(相手の名前記載必須。ただし、家族を登場させる場合自由設定・プラリプで記載ない場合は、モブやチョイ役扱い、汎用的な描写となります。特に家族に関連する設定がある場合、自由設定・プラリプに記載があるかどうかを今一度確認してください。マスタリング対象となります)

●描写可能国
言語[ラテン]対応(デートのみ対応。ただし共に過ごす方(恋人の家族(バベルス・モールのみOK)等)によっては他言語が必要な場合があります)
・ルークス

言語[東アジア]対応
・日本

言語[ヨーロッパ]対応
・アメリカ
・イギリス
・フランス
・イタリア

●NPC情報
下記NPCのみ、プレイングで指定あればお誘い可能です。
希望があれば、誘っていただいた方の自宅を訪問する、また、自らの家へ案内も可能。
自由設定・プラリプの範囲であれば、家族への紹介も(レストランでの会食なども含め)OKとします。

・エルネスト・ブノワ
実家はフランスのパリ、現在はイタリアのローマ市内にあるアパートで独り暮らししている。

・アーシア 凛
実家は日本(埼玉県)、本人も実家暮らし。両親に弟妹が1人ずつ存在。

●注意・補足事項
・年齢制限行動(籍を入れても明確な描写はされません)・合意なき恋愛行動・アイテムプレゼントプレイングにはお応え出来ません。
・自由設定やプラリプに記載していない設定を反映させることは出来ません。設定されていない家族の存在を出す必要があるといった、どうしても描写が必要な場合のみ家族の描写は必要最低限行う場合もありますが、設定されていない方の家族関連の描写は汎用的なものとなります。
特に、『存命していない』等事情がある家族がいる方は、設定されていない場合の描写は困難であると思ってください。
・後日談シナリオの性質上、『こちらに全てお任せ』はご遠慮ください。
・強行してプレイングを作成されても、不本意な描写となる場合もありますので、ご了承ください。


◆マスターより

こんにちは、真名木風由です。
今回は後日談ということで、最初の休日でのデートシナリオを担当します。
後日談シナリオリリース最終日まで、出せるだけシナリオを出しますので、お好きなシナリオに入っていただければと思います。
かなり自由度が高いシナリオですが、何をしてもいい訳ではありません。
特に自由設定・プラリプの範囲以上の過去や設定を記載しても対応が出来ない場合がありますので、PCの自由設定やプラリプがどのようなものであったか今一度確認してください。
案外、記載されてなかったり、思い違いがあったりすることもありますので、プレイング作成の際は出来ることや描写可能国だけではなく、注意・補足事項も目を通していただければと思います。
平和になった世界の最初の休日を垣間見るのに悔いがないものとしていただきたいので、ご協力いただけると助かります。

さて、最初の休日、どのように過ごしますか?

それでは、お待ちしております。
リプレイ
●緩やかに感じる、平和の実感
 ウィルフレッド・モーガン(si9469)が運転するGTは、アメリカ西海岸の道路を走っていた。
 アメリカで最大の人口を誇るカリフォルニア州は場所により、多彩な表情を持っているが、現在いる街は温暖な場所だ。
「平和になってこそ、今日ドライブしているんだろうがな」
 ウィルフレッドは、助手席に座るマユリ・バルギース(sp0231)にそう笑う。
(しかし、平和、か)
 ウィルフレッドは、まだ実感が沸いていないと心の中で呟く。
 最後の戦いにおいて特に貢献したとウィルフレッドは専用コードが記されるCROSSを贈られたものの、ルシファーとの死闘で一度命を落とした。
 『ルクス・カルワリオ』の成就、戦場に響く歌声、皆の心をひとつにし、力とするアルケミーの為の長き1分───彼のルシファーの言葉も自分に振るわれた力の先を、ウィルフレッドは見ていないからこそ、実感していないのかもしれない。
「平和、ね‥‥。今はそう言えるけど、恩人さんの姿を医務室で見た時は、焦ったわよ」
「悪かった」
 マユリに言われ、ウィルフレッドは苦笑する。
 特に無茶した1人であるウィルフレッドは、医務室に運び込まれた。
 それを聞いたマユリも負傷していた身で医務室へ飛び込んだ時には、既に蘇生されていたが、ウィルフレッドが目覚めるまでは肝が冷える思いをしたものだ。
 ‥‥その流れで、マユリは最初の休暇を過ごす約束を取り付けたのだが。
(何であんなことしたのかしらね)
 ダダを捏ねた、と言ってもいいレベルだった、とマユリは思い返す。
 自律稼動するようになったパペット達もウィルフレッドへ殴りかかったし、マユリは止めなかったことも含め、分からない。
 分からないからこそ、今この状況は何だろう、と思う。
「恩人さんが謝ることでもないと思うけど」
「無茶をしたのは事実だからな。今まで心配をかけた侘びと礼も兼ねるさ」
 こうした時間を経て、平和を実感していくものだろう。
 そう考えるウィルフレッドはマユリのご要望に応じ、昼食を取る為、メキシコ料理のレストランへ車を走らせた。
 自身も久々に行く良い店で、ひと時過ごそう。

 レストランは昼食時で混んでいたが、然程待つこともなく席へ案内された。
 天気も晴れとあり、テラス席に案内された為、風を心地良く感じる。
「ここのは、美味いぞ」
「んー、そういえば、メキシコ料理って食べたことなかったわね」
 ウィルフレッドに頷くマユリは、パペット達に大人しくするよう言い含める。
 肩にしがみつくゴトウはともかく、マエダやナカノはコップの水を眺めたりあれこれ行動しているから油断出来ない。
 メキシコ料理が初めてならばとソパ・デ・トルティーヤ、エンサラダ・デ・マリスコスといったスープやサラダに加え、お勧めのタコスも中の具が異なるものを幾つか頼む。
 料理が来るのを待つ間、自然とSINNになる前の話となった。
「SINNになる前は、とても褒められた生き方じゃなかったな」
「そうなの?」
「ああ。そのツケは、大き過ぎるものだった」
 そう話すウィルフレッドは、裏の世界に身を置いていた。
 悪魔絡みの事件に巻き込まれた結果、仲間と最愛の家族を喪ったのだ。
 信者となり、パラディンとして目覚め───支部での活動を通じ、後続も育てられればと考えたが、振り返れば、それらは名目であり、最終目標である悪魔達への復讐以外見えてなかったようにも思う。
 それもまた、戦いの終わりを実感出来ない要素かもしれない。
 鬼神の聖面も鬼斬り火葬と呼ばれた一振りも‥‥あの戦いの中で永遠に失われた。
 俺を残して、消えていった。
「でも、恩人さんはまだ死んではダメよ?」
 マユリが、やってきたソパ・デ・トルティーヤを口に運びながらそう言った。
 どう生きればいいのか、と自問する心を言い当てられたような気がして、ウィルフレッドは静かな苦笑を浮かべる。
「そう言えば、マユリに家族はいるのか? 今、どうしてる?」
「んー、いるわ。メールしてるもの。あたしより、恩人さんの家族は?」
「俺の家族は、神の御許で長いバカンスの真っ最中だ」
 同じようにソパ・デ・トルティーヤを口に運ぶウィルフレッドの言葉を聞き、マユリの目は大きく見開かれた。
「まさか、恩人さんの家族って‥‥」
「そうだな、今度報告に行くつもりだ。マユリさえ良ければ、一緒にどうだ?」
 墓参り、という言葉を、マユリは意識した。
 それぞれにパペット達がウィルフレッドを気遣う動きを見せるが、マユリは心の中でこう呟いた。
(あたし、恩人さんの家族に聞いていいかしら)
 彼の支えになって良いか。
 恩人───ウィルフレッドは誰かが見ていなかったら、無茶をしそうな気がするから。
 友人以上だが、恋人ではない。
 そんな距離感でも、そこに信頼も好意もあると思う。
 だから、ちゃんと聞きたい。
 マユリは家族の話をするウィルフレッドを見、そう思った。

●いつか重なり合う未来を感じて
「ここが浅草か‥‥」
「あたしもここが故郷じゃないんだけど‥‥でも、いい所よっ?」
 レイヴェンス・エーベルト(sq2046)の隣で、千種 蜜(sp9590)が笑っている。
 世界が平和になって最初の休日───カップルになって日も浅い2人は当然デートを選択、その場所は日本の浅草。
「最初、どこ行く?」
「あ、あの赤くてでっかいオブジェ? とか見てみたいっ!」
「なら、浅草寺ね。案内するわっ」
 今日を楽しみにしていただけあり、案内を頑張ろうと意気込む蜜が笑顔を向けると、内心可愛い蜜とのデートで物凄く盛り上がっているレイヴェンスは満面の笑顔を浮かべた。
 すると、レイヴェンスが惚れまくる蜜はレイヴェンスの手を取り、行こうと促す。
(蜜の、手‥‥!)
 それだけで、レイヴェンスの心は舞い上がる。
 観光地で、しかも今日は休日だから人は多く、日本語は勉強中で自在とは言えないレイヴェンスがはぐれてしまう心配あって手を取ってもらったのかもしれないが、その心配こそが嬉しいのだ。
 レイヴェンスが蜜の手を握り返せば、2人は嬉しそうな照れ笑いを交わし合う。
 やがて、有名な浅草寺の雷門に到着すれば、多くの観光客がそうしているように写真を1枚撮った後、自撮りで2人一緒に1枚。
「こういうの、何かいいな」
「そうね。桜が咲いてたら、もっと良かったんだけど‥‥っ」
 写真を転送してもらった蜜が、桜には少し時期が早かったと苦笑した。
「でも、それなら今度一緒に、桜を見に行きましょっ?」
「蜜の日本ではサクラ、親しまれてるんだよな? 楽しみだ」
 桜の季節にデートの予定がひとつ、生まれた。

 雷門を潜れば、仲見世通りが目の前に広がる。
「何か色々あるんだな。日本っぽい物だけじゃなく、食べ物もあるし」
「色々あるわよっ? まずは、何か食べてみるっ?」
 イギリスとは異なる装いの店の並びにレイヴェンスが顔を輝かせれば、蜜が食べ歩きも可能な店頭販売の和菓子の各種を指し示す。
 焼き立ての人形焼や種類豊富な煎餅、それから饅頭に団子───
 ゆっくり歩きながら、扇や箸といった和の小物や甚平などの和服を眺めていく。
「土産物だけでも凄いんだな」
「今日は休日だし、屋台も出てると思うわよっ? ちょっと違う通りに喫茶店もあったりするけど、屋台を見るのも楽しいと思うわよっ?」
「ヤタイは前、キョウトの花火大会で色々見たぜ? あの時ユカタも着たんだ」
 蜜にそう話すレイヴェンスは、その時の思い出を(一部恐怖は除外し)蜜に話して聞かせる。
 やがて、浅草寺本堂へと到着した。
 ルークス教の信者でもいいじゃない、ということで、2人で参拝。
 見よう見まねで行うレイヴェンスは隣の蜜を見、心にある願いを呟く。
(蜜とこれからも一緒にいれますように。それから───)
 蜜が声をかけるまで、心の中で延々願いを呟いていた。
「随分長く、強く願ってたのねっ?」
「まぁな。色々願うことがあったけど‥‥足りないから、また願わないと」
 レイヴェンスが蜜にそう返し、それからちょっと意識してこう付け足した。
「いっそこっちに住んで願いを叶えるっつーのも‥‥」
「えっ?」
「な、何言ってんだ、俺‥‥!」
 赤くなる蜜に釣られ、レイヴェンスも真っ赤。
 その後、蜜が「イギリスに住むこともあるじゃないっ」とフォロー(?)したが、内容が内容だったので、2人して沈黙の道を歩むこととなった。

「蜜、今日はありがとな」
 蜜提案の人力車でお任せに巡る中、レイヴェンスはそう笑った。
 沈黙打破と珍しい体験として乗ったが、蜜が隣にいることがレイヴェンスにとってはとても大きなことのように感じる。
「こうやって蜜と一緒の時間過ごせんの、すげー嬉しいって思ってる。それに、日本はいい所だと思う。‥‥好きになるだろうなって思うよ。蜜のお陰で」
「嬉しいわね‥‥っ。一緒にいられるだけで嬉しいと思っていたのに‥‥」
 蜜が照れた笑いをレイヴェンスに返す。
「‥‥あのさ、すぐじゃなくてもいいけど世界も平和になったことだし、いつか‥‥」
 蜜と一緒になれたら、いい。
 望んでくれるなら、結婚したいという想いを告げると、蜜は耳まで真っ赤になった。
「そうなれなくても、愛してるよ、蜜」
「レイヴェンスさんは、ズルイわ‥‥っ」
 レイヴェンスが笑って誤魔化す前に、蜜が睨んでくる。
 でも、その睨みは威力がなくて、可愛らしいもので。
 だから───好きだなって思った。
「サクラを一緒に見るだけじゃなく、蜜が好きな場所‥‥もっと知りたいよ、俺は」
 今日一緒に見た土産物屋だけじゃなく、浅草寺の近くにあるという、昔ながらの小さな遊園地‥‥それだけじゃない、蜜が生まれた街も皆、行ってみたい。
「それなら、レイヴェンスさんもイギリスを教えてね」
 それだけ言った蜜は、レイヴェンスに想いを伝えるように握る手を強くした。

●初めて足を運ぶその場所
 神代 翼(sb3007)とマネハール・ティーテレス(sa2429)も、平和になって初めての休日を共に過ごしていた。
 マネハールが翼に馴染みがある場所を希望したこともあり、過ごす場所は日本だ。
 日本語はまだ自在に操れるとは言えないマネハールはパペット達と共に翼が案内する場所を物珍しそうに見ていく。
「ちょっぴり、ワガママ‥‥だった、かもー?」
 マネハールは、翼を見上げる。
 幼少の頃、世話になったからと療養所に案内したものの、そもそも療養所はそのような場所ではない。
 静かでいい所、と見て回り、関係者へ話を聞いて回ることをマネハールは希望したが、あの頃のスタッフが皆いる訳ではなく、また、彼らは勤務中である。
 来客を邪険にしないにせよ、ずっと構っていることは出来ない。
 自分達をずっと相手をするということは、担当患者からそれだけ意識を離すことも意味する。
 それがどういう意味なのかを理解出来ないような子供でもない。
(デートスポットじゃないというか‥‥、困らせてしまったかも)
 翼はマネハールにねだられたのと、あの頃の自分ではないと見て欲しかった余り、そこがどういう場所なのか、どういう人が過ごしており、その人達の為にスタッフが働いているのかに関し、配慮があったとは言えないことを反省した。
 そこを後にした翼は、腕にぎゅっとしがみつくマネハールに幼少の自分の話をしていく。
 にこにこ笑うマネハールのパペット達は少し気を遣っているのか、少し距離を取っている。
 来た道を引き返す形である為、療養所らしい静かな木々の合間を歩いていく。
 療養所に訪れる人は関係者位のものである為、人通りがある訳ではない。
「2人きり‥‥、ですの♪」
 誰もいないような錯覚を覚えつつ、マネハールが微笑む。
 話をする翼の声は心地いいけど、ちょっと大胆になってもいいのかな、とマネハールはそわそわし出す。
 やがて、じーっと見つめ、翼もマネハールの視線に気づいた。
 潤むマネハールの瞳に翼が口を開こうとし───
 向こうから療養所を訪れる人の姿を見つけ、2人でちょっと苦笑。
「‥‥そう、いえば‥‥、海、見たい‥‥ですわ?」
 スペインにも、勿論海はある。
 マネハールも海を見たことがない訳ではない。
 けれど、翼の話を聞いたら見たくなったのだ。
「行こうか」
 翼がマネハールに微笑み、それから荷物を持ってくれているパペット達を振り返る。
 気を遣っていたパペット達は同意するように距離を詰めてきた。

「綺麗‥‥」
 マネハールは、小さく歓声を上げた。
 彼女が知る、スペインの輝いた太陽の下で見るような海ではない。
「綺麗だよね。こうしていられるのも、世界が平和になって未来が生まれたからだと俺は思う」
 だからこそ、『過去』ではない『未来』を見たい。
 翼はそう思い、マネハールを見つめた。
「今度は、マーネルの故郷に行きたいな。マーネルのご両親にもご挨拶しないと」
 勿論、明日すぐにでもという話ではない。
 2人で色々なことを話す必要があるだろう。
 けれど、それらは全て大切なこと。
 先送りにするつもりもない翼にマネハールは微笑んで、頷いた。
「あの日‥‥一緒に見た、夢‥‥のように、子供達に、きっと出会え‥‥ますの。そうしたら───また」
「そうだね。また、来よう。2人で叶える夢の先に行こう」
 未来を守る戦いは終わり、これからの未来を繋ごう。
 顔を赤らめるマネハールが耳元で囁けば、翼はそんな彼女を抱きしめた。
 何度も口にしてきた言葉を、何度でも想いを込め───
「大好きだよ、マーネル」
 ずっと色褪せない想い。
 彼女だから感じる、特別。
 これからもずっと共に歩いていきたいと思うからこそ、今ここにマネハールと共にいるのだ。
 スペインに行こう、マネハールの両親に会いに。
 誓いの証を渡す時、彼女の笑顔が曇らないよう。
 彼女とずっと一緒にいたいという想いを込めて、挨拶をしよう。
 そして、家族になりたい。
 全てが許されたら、マネハールに誓いの証を渡そうと翼は心に決めた。
 マネハールの指に誓いの証が輝く時、マネハールに心の底から幸せに笑って欲しい、それには───彼女を愛している両親の祝福が必要だと思うから。
 幸せそうにマネハールが、笑う。
 けれど、今以上に2人で幸せになりたい。
 そう願う翼は、その想いを込めて抱きしめる力を強くするのだった。

●春、桜咲く前に
 花枝 美咲(sk2703)は、トウマ・アンダーソン(sn7273)と共に腕を組んで日本の京都を歩いていた。
 桜が咲くには少し早い京都の街並みもトウマにとっては、新鮮に映るようだ。
「ミレニアムシティ・キョートは、色々歴史があるんだよね」
「ええ。京都には見所が沢山あるんですよ♪ どこか行きたい場所、ございますか?」
「キヨミズ・ステージだっけな、そこを見たい」
 美咲が問うと、トウマは外国でも有名な清水寺を希望し、美咲の案内で観光開始。
 南禅寺、平安神宮、京都市美術館‥‥美咲がトウマと共に京都の街を歩く。
「圓徳院、高台寺はねねの関連が深く───」
 美咲がそう話し、特に高台寺は春と秋にはライトアップされ、幻想的な観光名所となっていることも話した。
「同じ人が馴染み深い場所なんだ」
「あ、トウマ様、足元にご注意を。この坂で転んでしまうと、トウマ様の寿命が縮んでしまいます」
「そうなの?」
 美咲の注意にトウマが驚くと、美咲は歩いていた二寧坂に纏わる話をし、地主神社まで気を引き締めるように言う。
 もっとも、縁結びの神様に願うまでもなく、2人は恋人同士なのだが。

 そして、とうとう清水寺へと到着。

「まだ読めない漢字とかあるね」
「私がお読みしますね♪」
 現在頑張って覚えている日本語で会話を心掛けていたトウマも流石に分からない漢字が多いらしく、美咲が通訳を申し出た。
 修正とご指導もしてくれた美咲先生は、春らしい桜柄の着物も軽やかにトウマへ丁寧に伝えていく。
「清水寺の由来は、音羽山より今も途切れず湧く音羽の滝に流れる霊泉に由来しているのだそうです」
「レイセン?」
「不思議にご利益がある泉、でしょうか」
 トウマに分かりやすい単語に言い換え、美咲は説明を続ける。
「全ての人を救う、という言い伝えもある泉が由来なのですね」
「ステージ以外にも色々あるんだね」
 そして、いよいよ清水の舞台へ。
 歴史ある街、その古き建物が残る場所を一望出来る景観は、トウマが期待していた通りのもの。
「昔から様々な芸能が奉納されてきていて、現在も重要な時には舞台奉納が行われることもあるんですよ」
「ここで美咲が舞を踊ったら、凄く綺麗だよね! きっと舞が終わるまで、僕は瞬きするのも忘れて、見惚れると思うんだけど、どうかな?」
 美咲の説明に、トウマは顔を輝かせる。
 扇子を手に、春と桜をテーマにして舞うことも考えたが。
「少し、人が多過ぎますね‥‥」
 大勢の観光客が訪れる清水寺、その舞台も例外ではないので、これは断念。
 トウマだけに見せる舞をトウマだけが知る舞台の上で舞えればいいな。

 清水寺を後にした2人は、美咲の実家へ向かう前に茶屋へ寄った。
「トウマ様に、日本文化を味わっていただきたくて」
「グリーンティにダンゴかぁ。美味しそうだね」
 美咲にお茶と団子を手渡されたトウマは興味深く見た後、味わってみる。
「グリーンティって渋いんだね。ダンゴの甘さにちょうどいいね」
 お土産にいいのかな。
 呟いたトウマは観光の土産として、購入決定。
 事前に準備している挨拶の土産共々、これから会う美咲の両親に贈ろうと決めた。

 事前にトウマを連れて行くと連絡していたからか、美咲の実家には着物を身に纏う両親が揃っていた。
「こちらの方がトウマ様です」
「初めまして! トウマ・アンダーソンです! よろしくお願いします!」
 美咲の紹介を受けた後、畳の上に頑張って正座していたトウマが頭を下げる。
 下手でも日本語で挨拶したいと思い、予行練習しただけあり、上手く言うことが出来た。
 ずっと世話になっていた旨を美咲が説明しているのを聞き、パラディンであることは聞かれなければ話さなくていいかと思っていたけど、説明されてしまったとトウマはちょっと苦笑。
(今後、どれだけパラディンとして任務をこなすか分からないけど)
 聖職としてのパラディンではない為、今のトウマに今後のことは断言出来ない。
 けれど、そんな穏やかな日々を愛する人共に明日を疑わずに歩けることを嬉しく思う。
「大切な方です。‥‥私、は‥‥トウマ様と結婚したいと思っているのです」
「結婚? それは、いつ?」
 ある程度予想はしていた表情の父親が、美咲へ問う。
「私が成人してから、と‥‥。私がSINNで在れたのは、いつもトウマ様が傍にいてくださったから」
 辛い時もトウマがいてくれた、それだけで乗り越えようと思えた。
 美咲は、そんなトウマと一生共に歩きたいと言う。
「素敵な方を見つけたのね」
 美咲の母親が微笑んだ。
 それが、結婚の許しの言葉。

 帰路に着くトウマを美咲が見送りに歩く。
「ありがとう、美咲」
「いいえ、トウマ様。私達は、これからですよ?」
「そうだね」
 約束を果たしてくれた感謝を口にすると、美咲はそう笑った。
 そんな美咲を抱きしめたトウマは、美咲の額にキスを落とす。
 いつか来る、未来を愛しく想うかのように。

●愛した人と歩く道の先
(ラ、ララララ、ラルフのご両親とのご挨拶‥‥末永くお付き合いするのだから、挨拶が肝心よね‥‥!)
 レティシア・モローアッチ(sa0070)の緊張は、ある意味最後の決戦より凄まじいものだった。
 待ち合わせは、チルコ・マッシモ駅前。
(こっちは両親から親戚までSINNが多いから、挨拶してないなんてことはないけど‥‥)
 結婚の約束をしている恋人ラルフ・フェアウェイ(sg4313)の両親は、一般人だ。
 色々な事情が重なってしまった為に正式な挨拶をしていない状態であり、今日がその日となれば、緊張も無理もないのだが。
 気合十分の装いに母親協力の薄化粧。
 どんな風に見てもらえるか───平和になって考慮不要となった死亡フラグ以上の心配が沸々と沸き起こった、その時だ。
「姫さん、待っちまったか?」
 ラルフの声が、レティシアの耳に響いた。
 結婚という目標を共に突き進みたいとレティシアが思う彼は、両親を伴っていた。
(緊張すげぇな‥‥姫さんらしいと言うか)
 そこも可愛いと思うが、両親は今日レティシアに会うのを楽しみにしていた位だし、ラルフも胸を張って両親は出来ていると言えるから、ガチガチにならずリラックスをと思う。
「話していた、レティシア・モローアッチさんだ。俺の嫁になる人」
「レ、レティシア・モローアッチと申します。フリーの科学者をしておりまして。その、専攻は機械工学です」
 ラルフに紹介されたレティシアが、勢い良く頭を下げた。
 自身の作品と紹介するまでもなく、ぷてらまでも勢い良く頭を下げている。
 落ち着かせるようにラルフがレティシアの手を取ると、両親に笑う。
「レティシアは研究熱心な人で、その情熱に溢れてる所とか、強い所とか、すげえ憧れなんだ。俺は‥‥この人の隣にいたい」
「私も‥‥ラルフの隣にいたいと思っています」
 レティシアがラルフに続くように口を開いた。
「辛い時も嬉しい時も傍にいて、支えてくれたラルフがいるから、今の私がいると思っています。彼がそう願うように私も支えたい。だから‥‥」
「俺もレティシアを支えられるぐれぇ、でかい人間になる。今はまだ頼りねぇかもしれねぇけど、彼女を守る人間になりてぇって思った。だから‥‥」
 お願いします。
 ラルフとレティシアが同時に頭を下げる。
「とりあえず、まずは観光しましょうか」
「そうだな。今日過ごす時間をあまり無駄にしたくない」
 栄光の道を共に歩きたい恋人達に対し、ラルフの両親は笑ってそう言った。
 駅の一角で待ち合わせという状況で、挨拶から先に続く話をするのもという話になり、ラルフとレティシアはラルフの両親と共にローマ観光すべく、移動を開始した。

 レティシアが事前に観光ルートを確認していただけあり、巡る場所は決まっていた。
 古代競技場の遺跡であるチルコ・マッシモからスタートし、雄大な景色を見つつ、映画でも有名な真実の口へ。
 勿論口の中に手を入れた後、サンタ・マリア・コスメディアン教会にも足を向ける。
 やがて、トラットリアでランチとなるが、レティシアは緊張していて味なんて分からない。
「姫さん、美味いか?」
「ええ、ラルフ。美味しいわ」
「そうか、良かった」
 レティシアがいい印象を持たれるようフォロー出来ればとラルフは考えているが、それ以上に楽しく過ごしてほしく、レティシアに積極的に声をかけていた。
 両親の目にどう映るかより、レティシアの笑顔が大事だ。

 ランチが終われば、ローマの旧市街へ。
 有名なスペイン広場にある、通称スペイン階段で写真撮影し、名物とも言えるジェラートを専門店で買って食べ歩きをすれば、トレヴィの泉。
(認めてもらえますように)
 願うことは同じとばかりに2人はコインを投げて祈った。
 パンテオンに目を輝かせ、最後はカンポ・デ・フィオーリ広場に到着。
 オープンエアのカフェが取り囲む賑やかな広場に着いた時には、日も暮れていた。
「今日は楽しかったわね。未来の愛娘がこんなに可愛い方とは思わなかったわ」
「そうだな。ラルフも良いパートナーを見つけたようだ」
 ラルフとレティシアは、その言葉に顔を見合わせる。
「反対と言った覚えは、そもそもないのだけど」
「ないな。息子の選択を疑う訳ないしな」
 ね、と顔を見合わせるラルフの両親。
 緊張から解放されるレティシアをラルフが抱きしめる。
「レティシア。俺で良ければ、これから一緒に未来を進もう。あんたの言う、栄光の道を二人で一緒に行きたい」
 これは、その証。
 ラルフがこっそり購入していたモノクルをレティシアに差し出すと、レティシアは照れた顔で微笑んで受け取った。
「フフ、私には、ラルフしかいないわよ? 死が私たちを分かつまで共に歩みましょう。愛しているわ、ラルフ‥‥」
 尚、両親が孫はいつなのかという期待の質問をこの後し、2人して硬直することになるが、まだ2人だけの時間にしておこう。

●世の中の可能性に関する論議
 鷹宮 奏一朗(sp8529)は、アーシア 凛(sz0079)の家の前に立っていた。
(‥‥でけェ)
 奏一朗の実家もでかいのだが、凛の家もでかい。
 凛の父親は商社社長である為、小さい家である訳もないのだが。
(親父さん、イギリスの人らしいからな)
 しかし、その親父さんとお袋さんのお陰で凛という最高の女が誕生したのだ、尊敬の対象、自分の親並の敬意と愛情を持って接したい!
 で、この尊敬の対象の凛両親に、結婚のご挨拶をするのが、本日最大の目的だ。
 プロポーズも受け入れてもらったのだ、自身が赴くのは当然の流れであると申し出た奏一朗に対し、凛は嬉しそうな微笑ひとつで頷いてくれた。
「参りましょうか、奏一朗さん。両親が待ってます」
 ふふ、と凛が笑った。

 日本風の大きな家は、アーシア 琴(sz0074)の父親が手がけたものらしい。
 建築士という琴の父親は、凛の父親の弟らしく、近所に住んでいるのだとか。
 凛に案内された奏一朗は、イギリス人の父親と日本人の母親は勿論、凛の弟妹と思しき青年と少女が座っていることに気づく。
(‥‥俺には、分かるぜ、凛‥‥)
 多分、(外見以上に)この家族は、全員似ている。
 奏一朗、自分が愛する最高の女を世に送り出した両親への尊敬度アップ。
「こちらが、鷹宮 奏一朗さんです。結婚します。異論は認めません」
 凄まじいまでの直球っぷりの紹介を凛がする。
 奏一朗は以前、凛にも喜んでもらえたスイートポテトをお土産に差し出し、丁寧に頭を下げた。
「俺は鷹宮奏一朗、凛を愛し愛されてる恋人だ、ゴミ掃除が趣味で好物は凛の手料理だな。ヨロシクオネガシマス」
 言うまでもなく、ゴミとはその辺に転がっている埃とかの類ではない。
 デカイゴミ掃除も終了し、細々したゴミしか残っていないだろうが、ゴミはゴミ、掃除(物理)するのみ。
 そうして、自分のことを包み隠さず話す奏一朗の誠意に対し───
「凛の、手料理が好物‥‥やりますね」
「姉さんの料理、死にますよね」
「危険物」
 凛の母親が口を開き、弟と妹が頷く。
 流石に頻繁な頻度で逝くだけあり、色々容赦ない。
 家族だからか、凛は「後で料理の練習台になっていただきますので」と言うに留めているが、多分実行はするので、彼らは逝くだろう。
 ならば、逝く前に言わねばなるまい。
 居住まいを正した奏一朗は、凛の両親をまっすぐに見た。
「俺が出逢ッた全ての人間の中で最高のイイ女と、俺は結婚したい。永遠に愛し守り続けることを誓う。だから‥‥俺に凛を‥‥2人が愛情を持ッて育てた最愛の娘を俺にクダサイ!」
 ちょっとだけ、静寂が降りる。
 すると。
「‥‥勇者ですね」
「英雄になるべき人です」
 弟妹が、感心し出す。
 この後、凛が念入り(強調)に手料理を食べさせる未来が見える。
 それは羨ましい、と奏一朗は、思った。(普通は彼らの未来を祈る箇所)
「そういえば、お父さんは何をされてる人でしょうか」
 今まで沈黙を守っていた凛の父親が、ふと口を開く。
 よく分からなかったが、奏一朗は凛との結婚を普通に納得するであろう父親のことを簡潔に答える。
「やっぱり」
「やッぱり?」
「苗字が同じだから、もしかしてとは」
 商社社長である凛の父親は、日本の経済事情には詳しい。
 実業家である奏一朗の父親のことは、知っていたようだ。
「家のことがどうとかというのは時代遅れですし、ゴミ掃除と凛の手料理を好むなら実に素晴らしい方です。それだけ命懸けに凛を最高の女と言う方をお断りすることはありませんよ」
「お似合いですね、2人共。私とお父さんみたいですね」
 微笑み合う凛の両親。
 奏一朗は、思った。
(家族で仲良くなれそうだなァ、オイ)
 あらゆる意味で自分に似ている母親。
 凛を相当気に入るだろう、と予想していたが、多分、家族ごと仲良くなりそうな気がした。
 あ、夕飯は凛の手料理で、強制的に皆逝ったそうです。

●想い出を繋げて
 パリのサン=ルイ島は、最高級住宅街である。
(予想はしてました‥‥)
 メイリア・フォーサイス(sa1823)は、エルネスト・ブノワ(sz0035)の立派な実家の前でそう思った。
「久し振りに帰るから、やっぱり懐かしいな。家を出てから、一度も帰ってなかった」
「そうなのですかー‥‥」
「ああ。でも、大丈夫だ。私がいるよ、メイ」
 緊張するメイリアを察し、エルネストが手を握ってくれた。
 尚、エルネスト、現在の自宅へメイリアを招くのは、色々危険とのことで、結婚までNGと言ったりするので、内心と振る舞いは恐らく一致してない。

 エルネストが事前に話していた為、エルネストの家族は日本在住の次女セレナ以外の家族が集結していた。
「両親はともかく、姉は別に不要の気が」
「あら、あなたが男言葉を話す聞いているのだもの、会わない訳がないと思うわ」
 ぽそりと呟くエルネストに四女エミリーが、微笑む。
「エミリーの主張は、正当でしょう。10歳の時には、もう女性の言葉で話していたこの子がよ!? 男の言葉で話す!! ‥‥愛の力と言わざるを得ない」
「予想通り、あなたが元凶か」
「そういう言い方は良くなくてよ?」
 元凶たる三女クラリスをエルネストが見るも、長女フローラが嗜める。
「それよりも、私はメイリアさんとお話しがしたいわ」
「お久し振りですー。カウントダウンパーティーのご招待は、ありがとうございましたー」
 メイリアはエルネストの母ジャンヌに顔を向けられ、丁寧な所作で挨拶をした。
 優しい人達だと知っているけど、それに甘えることがないようにとメイリアは失礼がないよう注意していたのだ。
「緊張はしているようだが、所作は崩れないようだな」
 エルネストの父アランが、沈黙を破る。
「改めてご、ご挨拶‥‥ですし、エルが育った場所、ですしー」
 緊張の理由を赤面で語ると、クラリスが「可愛い彼女ねぇ」とエルネストに言い、エルネストが「メイが減るから見るな」と言い出す。
「息子から話は聞いている。本当に息子でいいのか?」
「勿論ですー」
 アランの問いに、メイリアは微笑んだ。
「私は、エルがいいんですー。お互い支え合って、2人で幸せを作っていきたい。その努力を2人でしたい‥‥そう思ってますからー」
 だから、よろしくお願いします。
 メイリアが頭を下げると、アランはエルネストを見た。
「アデリーヌと似ているようで、全く違う娘だな」
「メイはメイです。誰の代わりでもありません」
 エルネストの言葉に、アランは「そうか」と呟いた。
「彼女のご両親にご挨拶は?」
「後日、ご両親や義姉となる方にも改めてご挨拶をと思っていますが、今日は彼女が父上達にをと」
 そのやり取りで、結婚を許されたとメイリアは気づく。
「職場はどうするのだ。離れて暮らす訳にもいくまい」
「職場を変えること自体は抵抗ありません。ローマで暮らす必要性も低くなりました」
 アランとエルネストのやり取りを照れながら聞いていると、メイリアは肩を叩かれて振り返る。
 ジャンヌが、アルバムを手に微笑んでいる。
「エルの子供の頃、見たくない?」
「見たいですー!」
 エルネストが気づいた時には、遅い。
 アルバムで子供時代を暴露されたエルネストは、メイリア持参のヴァニラのマカロンをとてもバツが悪そうに食べることとなった。

 そして、メイリアはエルネストと共にアデリーヌが眠る場所へ足を運んだ。
 見せてもらった写真の中の彼女はエルネストと同い年だそうで、優しそうな顔をしていた。
 少しだけ、同い年と大人の女性という事実が羨ましい。
 でも───メイリアは、自分をアデリーヌへ大切な人と紹介してくれるエルネストを見る。
(エルのこと、心配しないでくださいね)
 伝えたい言葉を心の中で呟くと、風が吹いて髪が揺れる。
 ありがとう。
 優しく誰かが言ってくれたような気がした。

●明日の向こうに、2人で
「神は天にいまし、全て世は事もなし‥‥んむ、実にいい日だな!」
 竜造寺 巌(si7760)が、快晴の空を仰ぐ。
 世界は、平和になった───それ故に、今後のことはよく分からない。
 が、今日は、のんびりさせてもらう!
 そうとばかりに鷹羽 歩夢(sj1664)を見ると、巌の腕にハグしている歩夢も満面の笑み。
「今日は、巌君との折角のデートだもの、楽しみたいよね!」
「んじゃ、行こうやアユ!」
 巌も笑うと、2人は浅草の街を歩き始めた。
 浅草は、2人が支部員として身を置く浅草遊撃商店「がらん堂」がある。
 勝手知ったる街であり、愛すべき街だ。

「スカイツリーもソラマチも1回も行ったことなかったんだよねーっ」
「すぐ行けると思うと、案外行かねぇもんだな」
 歩夢と共に巌がそう言って見上げた先は、スカイツリー。
「折角だし、階段を登って‥‥」
「スカイツリーの階段は東京タワーと違って、登れないみてぇだぞ」
「がびーんっ!?」
 歩夢が展望台までは階段で行きたいと言うも、非常時にしか解放されないらしく、階段で登ることなく、エレベーターで展望台へ。
 展望台は、大勢の人がいた。
 元々、日本はディアボルスの影響が恐ろしい位なく、『黒い霧』の脅威を国内で感じた者はいないだろう。
 その為、ディアボルスに中枢を掌握された大国とは異なり、訪れる者の笑顔に曇りはない。
「んむ、実にいいな! 大勢の人がいて、皆笑顔‥‥実にいい!」
 巌は太平の世、その為にSINNが命懸けの戦いをした甲斐を実感していると、パノラマの展望に顔を輝かせている歩夢が、眼下に広がる浅草を見てはしゃいでいる。
 その笑顔もまた、巌にとって『実にいい』のだ。
(家族連れも結構いるなァ‥‥)
 少し前から意識し出したその単語を反芻し、今日がその機会かもしれないと巌は思う。
 何が起こるか分からないからこその人生、丁度いいタイミングなのだろう。

 スカイツリー、ソラマチと楽しんだ後、自分達との庭とも言うべき仲見世通りへと移動した。
「んむ、今日も賑やかで何より!」
「こうしてよく知っている所を見ていると、いつもの日常が守れた‥‥平和が来たんだなぁって思うよ」
 日本は世界で最も被害が少なかった国と言って過言ではないだろうが、世界を見回せば、本当にヤバかったのだ。
 ここに流れる空気を感じていると、信じられないかもしれないけど。
「世界が平和になったーって実感出来る最初の休日だし、いつものことが出来ることをしみじみ感じる為に食べ歩きとかどうかなっ?」
「お、いいな。ここにゃ、沢山食うものあるしな。休日だし、屋台もあるだろうから、そっちも覗いてもいいが」
 揚げ饅頭、人形焼、お煎餅、ソフトクリーム‥‥と、食べたいものを口にする歩夢に巌が屋台も忘れないように言えば、歩夢は「もっちろん」と明るく笑った。
「と、トイレ行ってくるわ」
「ここで待ってるねー」
「悪ぃな!」
 巌がそう言ったので、歩夢は特に疑問も思わず待つ。
 戻ってきた巌と共に食べ歩きを終了させれば、2人の足は自然ともうひとつの我が家へと向かう。

「楽しかったねー。お茶でも飲んでノンビリしたいな」
 人込みの中を歩けば、戦いとは違う疲労感を少し感じる。
 そう言う歩夢は、こう感じられるのもケツ顎悪魔らに勝てたからで、負けてたら今日という日はなかっただろうと思う。
「なぁ、アユよ」
「どうかした、巌君」
 奥へ行こうとする歩夢を巌が呼び止めた。
「前に家族みたいな存在っつったの覚えてっかね?」
 歩夢は巌の問いの意味が分からず、頷いた。
 支部を同じにしなければ、きっとこういう関係にならなかっただろうことを巌は言った上で、こう切り出す。
「ちびの頃は人として生きることも考えなかったんだけどよ、俺は‥‥アユが家族みたいな存在っつーのをちょっと変えようと思う。───アユ、俺と家族になってくれんかね?」
「家族になるってことは‥‥えっと、えっと」
 何を言われたか分からず、いや、分かっているし理解もしているけど、状況に対して精神が追いついていない。
 巌が、歩夢にきちんと告げた。
「要は結婚してくれったことったが‥‥って、おい、アユ?」
 歩夢の目から涙が零れていることに気づき、巌が声を上げる。
 その声で、歩夢も自分が泣いていることに気づいた。
「‥‥私で、いいのかな‥‥」
「アユじゃなきゃ、俺ァ言わねェぞ?」
 巌がそう笑い、歩夢の頭を撫でる。
 涙は答えを頑張って言おうと思うよりも早く、嬉しくて零れ落ちていた。
「私でいいよって言ってくれるなら‥‥うん、家族になる。私、巌君の家族になるよ」
「ありがとな、アユ」
 巌が、それを嬉しそうに差し出した。
 水色の蝶が連なる簪───予想外の贈り物。
「指輪はまた今度、な」
「巌君に、着けて欲しいな」
 照れる巌に歩夢がそう言えば、巌の大きな手が不器用に歩夢の髪に簪を飾る。
 この日は、忘れられない日。

 黙示録の向こうに在った明日。
 降り立ち、それぞれ歩いていくのだろう。
 今日も、明日も‥‥その先もずっと───
Back